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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の本当の怖さ。不妊だけではなく心臓や血管にも影響する可能性

齊藤英和 2026年10月22日

近年、不妊症にかかわる疾患が他の全身性の疾患に関わることが多数研究されてきています。前回も、不妊の原因の一つである子宮内膜症が、全身疾患である糖尿病発症と関係があることをお話ししました。今回お話しする多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、妊娠可能年齢において心血管疾患の危険因子を高頻度で有していることが知られています。今回の研究は、とても多くの症例を対象とした研究で、その成果の信頼性が高い研究です(Alur-Gupta S, et al.www.thelancet.com/obstetrics-gynaecology-womens-health Vol 2 August 2026 )。

多嚢胞性卵巣症候群は多臓器に影響する

多嚢胞性卵巣症候群は、最近、多内分泌代謝性卵巣症候群(PMOS)という別名称を提案されるほど、卵巣だけではなく、全身性の疾患を伴うことが多くあります。世界的にも、有病率が 10〜13% とされる多臓器にわたる内分泌疾患です。米国では、 500 万人の女性に影響しているといわれています。 PCOS に伴う高アンドロゲン血症とインスリン抵抗性は、メタボリックシンドローム、2 型糖尿病、高血圧などのリスクを高めることが知られています。

既存の文献では、PCOSの人々では心血管疾患の危険因子を増加させる多因子性の病態生理が示唆されています。高アンドロゲン血症とインスリン抵抗性は、脂質異常症や糖尿病、肥満のリスクを高め、結果として動脈硬化、頸動脈内膜中膜厚の増加につながる可能性があります。さらに、縦断研究では、これらの危険因子が持続することが示されています。2023 年の PMOS 国際ガイドラインでは、PMOSと診断されたすべての女性に対し、診断時点で心血管疾患のリスク評価を行うことが推奨されています。

しかし、PMOSを有する女性における動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントのリスク増加については、これまでの研究で一貫した結果が得られていません。これは、妊娠可能年齢では ASCVDイベントの発生率が低いため、統計的検出力が不足していたこと、また PMOS の定義に月経不順など単一の基準や、LH/FSH 比といった古い基準を用いた研究があったことが一因と考えられています。

他にも、横断研究であること、複合心血管疾患アウトカムの定義が不一致であること、自己申告データに依存していたことなど、妥当性を損なう要因が多数存在していました。さらに、PMOS女性の ASCVDを検討した少数の縦断的集団ベース研究では、人種・民族、女性特有の心血管リスク因子、薬剤使用など、重要な交絡因子が十分に調整されていなかったことも、一貫した結果が得られない原因と考えられます。

そのため、この研究では、これらの影響を克服するために、大規模な縦断的保険請求データを用いて、PCOSの有無が、従来の心血管疾患危険因子とは独立して、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの増加と関連するかどうかを検討しています。

大規模な縦断的保険請求データを用いた研究の概要について

この研究は、米国全域を対象とした縦断的・後ろ向きの保険請求データに基づくコホート研究であり、Optum の匿名化Clinformatics Data Martデータベースを使用しています。Optum Clinformatics は、大規模な商業保険およびMedicare Advantage プラン加入者の医療・薬剤請求データから構成されています。

対象は、18〜50歳で、 PMOSと診断された女性(ICD-9/10によるPMOSのコード、またはロッテルダム基準に基づく不規則月経+多毛の組み合わせのコード)としています。PMOSコホートは、調査開始時点で PMOSを有さず、追跡期間中もPMOSと診断されなかった女性(コントロール群)と 1:5 の比率で年齢マッチングしています。また、心血管疾患イベントは年齢によって大きく異なり、PMOSの初回診断は若い生殖年齢で行われることが多いため、年齢でマッチングしており、ASCVDの既往がある者は除外しています。
対象者は、PMOS診断日から、以下のいずれかが最初に起こるまで追跡しています:

1.初回 ASCVD イベントの発生
2.データベースからの離脱
3.データ収集終了日(2022年6月1日)

多変量解析に用いる共変量は、一般集団およびPMOS集団におけるASCVD危険因子に関する最新文献に基づいて選択しています。

主要アウトカムは、American Heart Associationの定義に基づくASCVDの複合診断またはイベントで、以下が含まれます:

• 冠動脈疾患(安定狭心症、狭心症、心筋梗塞などの急性イベント)
• 脳血管疾患(頸動脈疾患、TIA、虚血性脳卒中など)
• 末梢動脈疾患

副次アウトカムは、ASCVDの個別構成要素(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、脳血管疾患、頸動脈狭窄、TIA、末梢動脈疾患)およびインデックス日以降に新規発生したASCVD危険因子(高血圧、脂質異常症、2 型糖尿病、肥満)です。ハザード比(HR)と 95% 信頼区間(CI)は、 Cox比例ハザードモデルで推定しました。

研究の結果について PMOSの女性の心血疾患リスクが4倍超に

その結果、PMOS群 413,450 名、PMOSを有さない対照群2,067,250 名で、PMOS群の平均年齢は 31.1 歳(SD 7.1)、対照群は 31.1 歳(SD 7.0)でした。 平均追跡期間は PMOS 群で 3.7 年(SD 4.1)、対照群で 3.5 年(SD 4.1)であり、両群とも 90 パーセンタイルは 9.3 年、最大追跡期間は 21.6 年でありました。人種・民族の分布は両群で類似していましたが、PMOS群はベースライン時点で併存疾患を有する割合が高く、これらの疾患に対する処方薬の使用も多く認められました。

PMOS群の ASCVD複合イベントの粗発生率(1000 人年あたり)は 4.52(95% CI 4.42–5.63) であり、対照群の 0.78(0.76–0.81) より有意に高値を示しました。

PMOS群は対照群と比較して、ASCVDのハザードが有意に高値でした。 調整後リスクは、 1〜10 年の期間で一貫して高く、個別アウトカムでも同様の傾向がみられました。 冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患の調整後ハザード比(aHR)は、いずれも対照群の 4 倍以上でありました。

PMOS 群は、4つの新規に発生した高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満のすべてで、対照群より有意に高いハザード比を示しました。
PMOS と ASCVDの関連の一部は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満に影響を受けるものの、これらの疾患とは独立した直接的な関連もありました。

高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満の疾患は、PMOSとASCVDの総関連の10.0〜15.6% に関与していました。 4疾患をまとめた変数では、36.3% に関与していました。また、年齢層別解析でも、PMOSに関連するASCVDの増加は同様にありました【40 歳未満:aHR 4.36(4.16–4.58)、40 歳以上:aHR 4.92(4.59–5.28)】

多嚢胞性卵巣症候群の女性が取り組むべきこと

これらの結果から、PMOSを有する女性は、PMOSのない女性より ASCVDイベントの発生率が高いことが明らかとなりました。このことは、医療従事者はもとより、 PMOS患者自身がご自身でも心血管疾患リスクがあることを認識する必要があり、挙児希望であっても、不妊治療を行うとともに、早期にASCVD発症を予防する介入を実施することにより、健康維持が促進される可能性があります。

ただ、以前より日本人や東南アジア人は、PCOSであっても痩せの体形の方も多く、内分泌学的にも欧米人と異なることが知られています。そのため、欧米人に当てはまることが、必ずしも日本人に当てはまるとは限りません。今後、日本人においても大規模な調査研究が早期に実施されることが望まれます。

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