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『妊娠中は安静に』は本当に正しい?座っている時間と妊娠リスクの意外な関係

齊藤英和 2026年08月25日

妊娠すると、「無理をしないように」「安静を心がけてください」と言われる機会が増えると思います。私たち不妊治療医も、患者が妊娠すると「あまり無理はされないように」とか、「おなかが張るときは、安静にして」と説明します。しかし、多くの方は仕事を抱えており、動き回っていることが多いと思います。あまり激しく動くのはよくないと思いますし、また、逆に安静にし過ぎることもよいとは思いません。では、どの程度の身体活動がよいのでしょうか?
今回ご紹介する研究は、「妊娠中の日常生活の中に軽度な身体活動を取り入れている女性」と、「座位で過ごす時間が長い女性」の妊娠合併症のリスクについて検討した研究(Gibbs BB et al. JAMA. 2026 May 27. [Epub ahead of print])です。

妊娠合併症のリスクを軽減する、中等度から高強度の身体活動

妊娠の有害転帰(APO:adverse pregnancy outcome)(妊娠高血圧症候群(HDP: hypertensive disorders of pregnancy)、妊娠糖尿病(GDM: gestational diabetes )、早産、在胎週数に比べて小さい〔SGA〕児)は、妊婦の5人に1人の割合で発生しているといわれています。これらの合併症は、母体と胎児に対して妊娠・出産時のリスクをもたらすだけでなく、母親と子どもの双方において、出産後も長期にわたって心血管疾患、糖尿病、肥満のリスクを生じさせることもあります。また、中等度から高強度の身体活動を十分に行うと、HDPとGDMを予防することができるという報告もあります。

しかし、妊娠中の女性は、疲労や安全性に関する事実と異なる理解や認識などから、身体活動を制限するといった障害に直面していることが多く見受けられます。 このため、推奨される身体活動ガイドラインを満たす妊婦は4 人に1人に満たず、その結果、妊娠において身体活動抑制による健康への悪影響が大きくなっている状況です。

歩行など『低強度』の身体活動の影響を調べた研究について

今までの研究によって、中から高強度の身体活動は妊娠の有害転帰のリスクを減らすことがわかっています。よって、このような強度の身体活動は推奨されてきていますが、『低強度の身体活動と妊娠の有害転帰との関連』は確立されていませんでした。
今回の研究では、
妊娠の有害転帰(APO)と、座位行動(SED: sedentary behavior)
・軽度身体活動(LPA: light-intensity activity)
・1日の歩数といった低強度の身体活動との間にも、同様な関連性があるのかを明らかにしようとしています。

この研究は2021年から2025年に実施され、妊娠13週未満の妊婦ボランティア500名を登録した多施設コホート研究です。
米国のアイオワ州(n=250)、ペンシルベニア州(n=125)、ウェストバージニア州(n=125)で実施され、出産まで追跡しされました。
そのうち、除外されたのは
流産を経験した者(n=11)
その他の妊娠喪失(n=2)
有効な加速度計データがなかった者(n=8)
アウトカムが欠損していた者(n=11)で、
最終的な解析対象サンプルは 470 名でした。

参加者は、各妊娠期(トリメスター)に身体活動強度を評価するために、座位行動(SED)と 軽強度活動(LPA)を正確に定量化できる大腿装着型加速度計を24 時間 × 7 日装着し、 SED、LPA、中等度〜高強度身体活動、歩数を測定しました。

参加者は妊娠期間を通じた身体活動パターンを『group-based trajectory modelling(グループベース軌跡モデリング:集団内に潜在的な異なるサブグループが存在する』と仮定し、それらのグループごとに異なる変化パターンをモデル化する手法)を使用して、各項目、
①SED(総量、短時間SED〈1回の座位あたり60分未満の長さのSED〉、長時間SED〈1回の座位あたり60分以上の長さのSED〉)、
②LPA(総量、立位、歩行)
③1日の歩数ごとに4分割してそれぞれのグループの差を比較しています(各項目とも、low(低)群、moderate(中)群、high(高)群、very high(非常に高い)群にグループ化)。
妊娠の有害転帰APOは医療記録から抽出され、医師によって判定されました。
多変量ロジスティック回帰モデルにより、各身体活動パターンに関連する絶対リスク(AR)と相対リスク(RR)を推定しています。

ここで身体活動の強度の表現について説明しておきます。
活動強度は、安静時の消費エネルギーを MET(Metabolic Equivalent of Task:代謝当量)=1 として、活動強度の倍率で表します。
例えば
•MET = 1.0 安静時(座っている・横になっている)
•MET = 2.0〜2.9 軽強度活動(ゆっくり歩く、家事など)
•MET ≥ 3.0 中等度〜高強度の身体活動(moderate- to vigorous-intensity physical activity)
METs > 3.0 に該当する具体的な活動例としては
•速歩(早歩き):3.0〜4.0 METs
•階段を上る:4〜8 METs
•軽いジョギング:7 METs 以上
•自転車(中等度):4〜6 METs
•水泳(中等度):6 METs 前後
です。

つまり、METs > 3.0 は「心拍数が上がり、呼吸が少し速くなるレベルの運動」を意味します。この妊娠中の身体活動研究では、
①軽強度活動(LPA:METs < 3.0)と
②中等度〜高強度活動(MVPA:METs ≥ 3.0)を明確に区別することで、 どの強度の身体活動が妊娠アウトカム(APO)に影響するかを精密に評価します。

研究結果からわかった低強度の身体活動の影響

さて、結果ですが、
参加者(N = 470)の平均年齢は30.7+/-4.5(平均+/-標準偏差)で、38.3%が高い社会経済的地位でした。
174名(37.0%)が妊娠の有害転帰APOを経験し、86名(18.3%)が妊娠高血圧性疾患でした。
妊娠期間を通じて、参加者は大部分の時間をSEDで過ごしており(10.1+/-1.5)時間/日)、LPAは4.6+/-1.4時間/日、歩数は6783+/-2481歩/日でした。

座位行動(SED)を4グループに分け検討すると、低SEDグループ(7.7 +/- 0.7 hs/day)(AR 19.0%)と比較して、高SEDグループ(10.4 +/- 0.6)(AR 42.3%;RR 2.22[95% CI, 1.12–4.43]), 非常に高いSEDグループ)11.8 +/- 0.9)(AR 41.6%;RR 2.19[95% CI, 1.09–4.40])は、妊娠の有害転帰のリスクが2倍以上でした。

また、軽強度活動(LPA)については、低LPAグループ(3.0 +/- 0.5 hs/day)(AR 40.3%)と比較して、非常に高い LPAグループはリスクが半減していました(7.3 +/- 0.8)(AR 21.1%;RR 0.52[95% CI, 0.30–0.93])。

歩数については、中歩数グループ(6077 +/- 676 steps/day)(AR 36.2%;RR 0.76[95% CI, 0.58–0.99])、高歩数グループ(8519 +/- 869)(AR 32.2%;RR 0.67[95% CI, 0.49–0.92]) は、低歩数グループ(3918 +/- 744)(AR 47.7%)よりも妊娠の有害転帰が低率でした。

妊娠高血圧性疾患についても同様の関連がみられ、長時間(1回の座位あたり60分以上の長さ)SEDや立位LPAパターンでも同様の傾向でした。
一方、短時間(1回の座位あたり60分未満)SEDや歩行LPAパターンは妊娠の有害転帰と有意な関連を示しませんでした。

妊娠中に軽度の身体活動を意識することの大切さ

これらの結果より、妊娠中は座る時間を減らし、軽度の身体活動や歩数を増やすことは、妊娠の有害転帰のリスクを有意に低減することと関連していました。
軽度身体活動の最適化は、妊娠の健康を改善する戦略の重要な鍵となる可能性があります。
また、今回の知見は、必ずしも身体活動が運動である必要はなく、単に立ち上がって体を動かす機会を増やすだけの低身体活動でも、こうした妊娠合併症を回避する助けになる可能性があることも示しています。

妊娠したら歩数を記録し、定期的に立ち上がるよう促してくれるウェアラブルデバイスなども活用して、血流を促すために立ち上がって体を動かすこともよいかもしれません。妊娠した時は長時間座り続けないように心がけるようにして、妊娠中や出産後のママや子どもの健康を増進しましょう。

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