最近、健康問題との関連でよく取りあげられている話題の一つに腸内フローラがあります。今回は、この腸内フローラと不妊症との関連について考えてみたいと思います。
腸内フローラの種類と体への影響
腸内フローラとは、腸内に生息していて腸内環境や健康に影響を与える細菌のことで、約1000種類以上の細菌が約100兆個も存在していると言われています。また、これらの細菌は主に、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類に分けられます。善玉菌は、乳酸菌やビフィズス菌などで、腸内を弱酸性に保ち、免疫力を高めたり、短鎖脂肪酸を作り出し、肥満や糖尿病の予防に役立ちます。悪玉菌は、ウェルシュ菌やブドウ球菌などで、腸内をアルカリ性にし、毒素を作り出して腸の機能を低下させたり、炎症やがんの原因になります。また、これら2種類の菌の中間型とも言える日和見菌があり、この菌は、善玉菌や悪玉菌の優勢なほうに味方する性質がある細菌で、善玉菌が減少すると悪玉菌の増殖を助けるそうです。
腸内フローラを改善するために行うべきこと
腸内フローラのバランスは、食生活やストレスなどの生活習慣や加齢などによって変化し、理想的なバランスは“善玉菌:悪玉菌:日和見菌”が2:1:7だそうです。
腸内フローラのバランスが乱れると、便秘や下痢などの消化器系の不調だけではなく、肥満や糖尿病などの代謝性疾患や動脈硬化、大腸がんなどの循環器系の疾患、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、アレルギー性疾患やうつ病などの精神的な不調にも関係することが分かってきています。
腸内フローラを改善するためには、規則正しい生活や適度な運動をすることが大切です。また、プロバイオティクス(善玉菌)を増やす作用のある食品(プレバイオティクス)を摂取することが有効だと言われており、善玉菌はヨーグルトや納豆などの発酵食品に多く含まれています。また、プレバイオティクスにはオリゴ糖や食物繊維があり、野菜や果物に多く含まれています。
研究結果から考える腸内フローラと妊孕性の関係性
腸内フローラは子宮内フローラと密接に関係しているため、妊娠に関しても大切な要素だと考えられています。子宮内フローラに関しては、以前にラクトフェリンの効能のコラムでお話ししましたが、ラクトフェリンはプレバイオティクスとして腸内フローラを改善するとともに、子宮内フローラにも効果もあります。
今回、腸内フローラを改善することで、妊孕性にどのような影響を及ぼすかを研究した論文がありましたのでご紹介します(Chan SY, et al.Fertil Steril. 2023 Jun;119(6):1031-1042. )。この研究に適合した1437人を、コントロール群(701人)とフローラ改善群(736人)に分けて検討しています。コントロール群には、葉酸、鉄、カルシウム、ヨウ素、βカロチンを摂取してもらい、フローラ改善群にはこれらに加えて、ミオイノシトール、ビタミンD,リボフラビン、ビタミンB6,ビタミンB12,亜鉛、そしてプロバイオティクスとして乳酸菌、ビフィズス菌を摂取してもらいます。そして、接種後1年間の臨床妊娠の有無を検討しています。
その結果、コントロール群とフローラ改善群において、どちらも接種後、ほぼ同率で妊娠し、12か月後の比較においても有意な差を認めませんでした。図1がそれを示すグラフですが、両群の非妊娠率の割合がほぼ差がなく下降しています。
そこでさらに、研究開始時点の妊娠に関わる交絡因子の状態が治療結果にどのような影響を及ぼしているのかについて、サブグループ解析を行いました。サブグループ解析の項目は、民族性、年齢、妊娠回数、収入、精神的ストレス、メタボリック症候群の有無、月経周期、BMIです。その結果、BMIカテゴリーを除いて、異なる民族、年齢、妊娠回数、収入、心理的ストレス、代謝的健康、月経規則性のグループでは両群間に差を認めませんでした。BMIに関しては、非過体重・非肥満群(アジア人:<23、白人:<25)、過体重群(アジア人:23<= to <27.5kg/m2、白人:25<= to <30 kg/m2)・肥満群(アジア人:27.5<=kg/m2、白人:30.0<=kg/m2)に分けて解析しています。その結果、過体重群の女性では、治療フローラ改善群に効果を認めました。 肥満群では、治療は異民族カテゴリーが影響し、効果を認めませんでした。非過体重・非肥満群の女性では、対照群とフローラ改善群で受胎までの時間は同じでした。対照群と比較して、介入は過体重群の女性の受胎までの時間を非過体重・非肥満群の女性と同じに短縮しました。しかし、肥満群の女性では、介入は対照群よりも妊娠までの時間が長くなりました。これは、肥満群の非白人女性の妊娠率が低下したためで、今回の検討ではその理由をはっきり示せませんでしたが、妊娠率の低下は非白人女性の血糖値の悪化による可能性があると考えられています(図2)。
CRPとは、体の中のどこかに細菌感染などの炎症があると上昇することを示す指標です。このCRPを継続的に測定したところ、過体重群を治療すると腸内フローラ改善群でも非過体重・非肥満群と同レベルまでCRPの低下傾向が見られました。また、肥満群ではもともとCRPが高く、非過体重・非肥満群レベルまでのCRPの低下傾向は認められませんでした。このことより、過体重群での妊娠までの時間を短縮するメカニズムは、介入によって炎症反応が抑制されることである可能性があるそうです。
腸内フローラの改善によって妊孕性が上がる人とは
このことから、ちょっと太った過体重の人は、積極的に腸内フローラの改善に取り組むことによって妊孕性を上げると考えられるため、妊活に取り入れるとよいと思います。また、今回の検討では別の要因が関与している可能性があるために効果が認められなかった過度の肥満の人でも、その要因にも対応しつつ、腸内フローラの改善を図ることは妊孕性を上げる可能性があるため、肥満も改善しつつ、腸内フローラの改善に取り組むと良いのではないかと考えます。