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体外受精の前には朝食の摂取が必須!?朝食と体外受精の成績の関係性

齊藤英和 2026年06月26日

皆さんは『概日リズム(サーカディアンリズム)』をご存じですか?厚生労働省のホームページhttps://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-006)によると、概日リズムとは、私たちの大部分の生体機能を司る、約24時間周期のリズムのことと説明されています。

日々の生活行動が及ぼす、多岐に渡る影響

私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠り、また目を覚ましています。「出勤や登校の時刻があるから」「目覚まし時計のおかげでなんとか起床している」と思われるかもしれませんが、時刻を知る手がかりのまったくない、例えば洞窟のような隔離された環境で生活しても、私たちの睡眠リズムは約24時間周期で規則正しく現れているといわれています。さらに、このような規則性は睡眠に限ったことだけではなく、体温、血圧や心拍、多くのホルモン分泌、免疫機能、代謝など、大部分の生体機能には約24時間周期のリズムが認められ、このような約1日の周期をもつリズムのことを、『概日リズム(サーカディアンリズム)』であると説明されています。

しかし、概日リズムを生み出す体内時計の周期があまりにも長かったり、何らかの原因で体内時計の機能が障害されたり、光による時刻調整がうまくできなったりすると、睡眠リズムが大きく乱れてしまいます。このような、睡眠リズムの異常が生じるタイプの睡眠障害が『概日リズム睡眠・覚醒障害」です。それ以外にも、概日リズムの乱れが起こると、体温・血圧・心拍・ホルモン・免疫・代謝 など多方面に影響し、メンタルヘルスの障害(うつ病・不安障害のリスク上昇)、代謝障害(インスリン抵抗性の悪化と関連した肥満・糖尿病リスク上昇)、心血管系への障害(血圧・心拍が乱れ、血圧変動が大きくなる)、免疫機能の障害(感染症リスクの上昇)などが起こります。

概日リズムは「光」以外にも多くの要因で乱れ、それらの要因が「中枢時計(視交叉上核:SCN)」と「末梢時計(肝臓・脂肪・筋肉など)」に異なる影響を与えるために、体内時計は大きくずれてきて、様々な体の臓器に障害をもたらします。この要因は多岐にわたりますが、不規則な食事時間も体内時計に大きな影響を及ぼす要因の一つです。光は「主時計のリセットスイッチ」ですが、いろいろな生活行動も「末梢時計のリセットスイッチ」であり、中枢・抹消の時計リズムがずれることによって不調が起きるといわれています。

 最近、朝食を抜くという不規則な食習慣による概日リズムの乱れが補助生殖医療(ART)の成績に対し、どのような影響を及ぼすかについて検討した研究結果(Ono M, et al. Nutrition. 2024;127:112555.) が発表されたため、この研究結果についてお話します。

朝食の摂取状況とARTの成功率の関係性を調べた研究概要について

近年、定期的に朝食を摂取する人の割合は減少しており、観察研究からは、朝食欠食が肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、脳卒中、冠動脈性心疾患のリスク増加と関連することが示されています。また、朝食を抜くことや不規則な食習慣は、栄養不足を引き起こし、ホルモンレベル、子宮の概日リズム、さらには生殖健康全般に影響を及ぼす可能性があります。基礎研究(マウス)では、摂食が子宮の時計遺伝子の発現リズムを直接調節し、摂食リズムの異常が生殖機能を直接乱す可能性があることを明らかになっています。子宮だけ時計遺伝子Bmal1を欠損させたノックアウトマウスの検討では、異常な子宮時計機能が妊娠維持を不可能にし、流産や周産期疾患を引き起こすことが明らかになっています。

今回ご紹介する研究では、食事回数とART転帰との関連を検討しています。2022年2月から2024年1月までにARTを受けた症例、117例で実施されました。質問票から抽出された要因には、ART前12か月間、および20歳時の食事回数、喫煙状況、飲酒状況が含まれています。その他の要因(年齢、BMI、抗ミュラー管ホルモン〔AMH〕値、出産歴)は医療記録から取得されています。

この研究での朝食欠食の定義は、週6〜7回の朝食摂取を「習慣的に朝食を食べる群」とし、週0〜5回の朝食摂取を「非毎日朝食群」と分類し、両群のデータを分析しています。同様に、20歳頃の朝食・昼食・夕食の摂取習慣についても分析しています。また、臨床転帰には、臨床妊娠、継続妊娠、生児出産、流産などが含まれています。臨床妊娠は、胚移植3週間後の経腟超音波検査で、子宮内胎嚢が1つ以上確認された場合としています。また、継続妊娠は、妊娠10週を超えて妊娠が継続している状態と定義しています。先行研究に基づき、年齢、BMI、喫煙、飲酒、AMH、既往出産数を交絡因子とています。統計解析には、Student t 検定、Fisher検定、多変量ロジスティック回帰を用いています。

朝食を摂取することによってART成功率が向上

その結果、朝食摂取頻度(週 6–7 回 vs. 週 0–5 回)とART転帰の間には、関連性を認めました(表)。年齢、喫煙状況、飲酒状況、BMI、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値、出産歴などの潜在的交絡因子を調整したうえで、ART 成績の多変量解析を行った結果、朝食を週 6~7 回摂取していた患者では、ART治療により生児出生率が有意に高くなり、流産率が有意に低値となりました。

また、この研究では、20歳時に週 6〜7 回朝食を食べていたと回答したのは42.6%に過ぎず、将来の健康への潜在的な悪影響が示唆されましたが、リコールバイアス、サンプルサイズが小さいことと、朝食欠食期間の個人差の影響のため、20歳時の朝食摂取がART成績に有意な影響を与えることは示されませんでした。

ART治療前に朝食をきちんと摂ることによってARTの成功率が上昇することから、規則的な朝食摂取は健康のためだけではなく、ART治療よる成功のためにも、重要であることわかりました。

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