昨秋、オランダに住む人々の働き方や生き方、そしてその考え方や価値観について調査するため、彼の地へと訪問しました。
さまざまな企業や自治体、政府機関、学校、家族などに会いに行き、「世界一子どもが幸せな国」と称される実態をインタビューしたのですが、その中で当時オランダのプロサッカーチーム・VVVフェンロでコーチを務めていた藤田俊哉さん(現在はイングランドのプロサッカーチーム・リーズ)にもお話をお聞きすることができました。
オランダについてサッカーを通して見えてきたことや、藤田さん自身でもオランダで2人の子どもの子育てをする中で感じてきたことについて、たくさんの示唆を含んだお話を頂戴することができたので、2回に分けて紹介していきたいと思います。
今回は【サッカー編】です。サッカーを通して見えてきたオランダの人たちの働き方や生き方、そしてその考え方や価値観とはいったいどんなものなのでしょうか?
「人と比べる」という考えがまったくない
──オランダに来て数年が経ったと思いますが、オランダのことは気に入っていますか?
日本ではよく、オランダの隣の国ドイツが、日本人の気質と近くて話題にあがることが多いけど、僕が気に入っているのはオランダのほう。オランダ人はある意味ラテン系ですからね。ドイツ人よりも、断然オランダ人は楽天的なんですよ。その意味でラテン系だなと感じています。
サッカーもそう。攻撃しかしないですからね。だからなかなかオランダは大舞台で勝てないんだけど、それが気質だから(笑)。ロマンティストっていえばいいんでしょうか。一方でドイツはリアリスト。だからドイツに勝てないのは仕方ない。オランダ人は「俺達はこれだ」と、こだわりが強い。実際、家並みとか洋服の感じとかぜんぜんちがう。ドイツに行くと地味な服装が多いけど、こっち(オランダ)は華やかな服を着ていたり……とにかくこだわりが強いようですね。
──「自分は自分」ということで、日本のように人と比べたりしないということですか?
自分の仕事は自分の仕事。人と比べないですね。だから、ときどきイライラもさせられますけど。それくらいやってくれよ、って(笑)。
でも、やっぱりメンタリティって育った環境だから、逆に自分がオランダ人みたいにやったら友だちに嫌われますよね。日本人が外国人にかぶれる必要はないと思います。だから、僕はここで日本的なものを通すほうがいいと思っている。日本的な感性をもって、ヨーロッパで活躍するのが一番かっこいいってことかなと。
問題は子ども同士が話って解決する
──メンタリティの違うオランダでサッカーを教えていて、苦労することはありますか?
「なぜこれをやるのか」を自分の中で整理してから教えないとダメということがあります。「コーチ、なんでこの練習やるの?」ってすごい聞かれるから。大人もそうですけど、こっちの子は口達者というか屁理屈が多いんですね。
だからロジカルに考えて説明するということが必要だし、オランダではみんながあたりまえのようにそれができるようになる。そこが苦労しますけど、やっぱりひとつひとつきちんと言葉にすることで自分でも勉強になります。
──子どもたちのサッカー環境についてはどんな感じなのでしょうか?
不要なサブ(ベンチ)メンバーはおかないですよね。だから、環境的にプレーする機会がすごく多い。チーム数も多いので、ここでできなければ別に行けばいいと考える場合も多い。
また、9〜10歳までレフリー(審判)を置かないことも多いですね。要は「自分で「ファウル!」と主張しなさい、解決しなさいということ。人によっては放任主義という人もいるので、このあたりの良し悪しの判断は難しいところだけど。
もし、もめたら自分たちで話し合いをして、解決するようにする。だから、「なんでファウルなのか」を言わないといけないし、一方で「ファウルじゃない」という意見もいわないといけない。
もちろんもみくちゃ状態になったら、大人が割って入っていって判断する。そのときには大人がサッと四の五の言わずにジャッジしています。
──それで案外うまくいくんですね。日本だと難しいことのように感じます。なぜオランダではそれが可能なのだと思いますか?
基本的には、みんな信頼しあっているからでしょうね。オランダの人たちは、仲間を作りたがる傾向がありますから。逆に言うと、合わない人はうまく外していくんですけど。
あと、オランダの子どもたちはあまり準備運動をやらないんです。それは、「やらなくてもできるぜ」というアピールということもあるみたいなんですけど(笑)、日本は丁寧にやりますよね。日本の少年サッカーとかだと、ウォーミングアップに1時間とかかける。オランダだとちょっと考えられないですね。子どもが「なんでそんなことするの? 疲れちゃうでしょ?」ってなるので。
正直、どっちがいいかはわからない。でも、日本のサッカーはオランダを含めたヨーロッパの強豪国に勝てていないですからね。
オランダの子どもたちが居残り練習をしない理由
──残業しない(18時に帰る)、という文化についてこれまでさまざまな企業や家族にお話を聞いてきました。サッカーでも同じようなことを感じたことはありますか?
練習ですね。練習が終わったらみんなで帰ります。つまり、自主練という概念がないということ。最後の15分間、「自分がしたい練習をしていいよ」という指示を出すことはありますが、基本的には勝手にやらないし、やれない。
もし残って練習をしたいのなら、監督に「やりたい」と申請して、OKが出たらすることができる。そのあたりは、もしかしたら企業とか家庭での話とつながっているのかもしれませんね。
こっちは生意気な子どもが多いんですよ。髪の毛もバッチリ大人みたいにキメてきますし。試合なんかだと、子どもでも、全部大人と同じサイクルで、試合の入場方法もそうですし、試合が終わってからきちんとシャワーを浴びて髪の毛を整えてから帰るところもそうです。日本のように練習着で来て、練習着で帰るみたいなこともない。グランドで着替えるとかありえないですからね。
つまり、子どもの頃から大人と同じようにしているということ。これはもしかしたら、大人が残業をせずに結果を出すという習慣があるから、居残り練習という文化もないということなのかもしれませんね。そして、信頼をベースに話し合いでの解決を重要視すること、人を気にせずに自分のやるべきことをやるという考え方などは、ここ30年間で変化したオランダの大人社会の考え方が反映されているのかもしれません。
いかがでしたでしょうか? オランダの子どもたちの社会がよくわかって、とても興味深いですよね。日本と比べてどっちがよい、どっちが悪いと安易に判断せず、「柔軟な頭で良いところを吸収する」というのがいいように感じます。
次回はサッカー以外で感じている家族や地域とのつながりを中心に、お話を伺っていきたいと思います。