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「精子がいません」の衝撃。Micro-TESEを受けた私が男性不妊の当事者として伝えたいこと

秋山 開 2026年09月02日

結婚して1年半ほど経っても子どもができず、妻から「そろそろ不妊治療も考えていいんじゃない?」という話をされたことが、私たちが治療を始めたきっかけでした。

正直に言うと、当時の私は「絶対に子どもが欲しい」と強く思っていたわけではありません。子どもがいたらいたで楽しいだろうなと思う反面、自分が親になることにはそれなりに不安もありました。一方、妻は「お母さんになりたい」とはっきりと言っていたので、それならやってみようか、という感じで始めたのを記憶しています。

今この時を振り返ってみると、不妊治療は「妻がやるもの」だと心のどこかで思っていました。妻が病院へ通い、必要なら私も付き添う。協力はするけれど、まさか自分が治療の当事者になり、最終的には手術まで受けることになるなど、想像もしていませんでした。

「精子がいません」

最初に受診した病院では、夫婦ともに検査を受ける方針でした。そのため、私も自宅で採取した精液を持参し、検査を受けました。

そして返ってきた結果は、「精子がいません」。

言われた瞬間は、本当に「え?」という感覚で、何を言われているのかすぐには理解できませんでした。念のため再検査を行いましたが、結果は同じでした。さらに、精液の量もかなり少ないと言われました。

もちろんショックはありました。ただ、私の場合は「男として失格なんじゃないか」とか、「子どもを作れない自分には価値がない」といった方向にはあまり考えませんでした。それよりも「なんで?」という気持ちの方がずっと強かったと思います。

それと同時に、妻には申し訳なさもありました。

もちろん、誰が悪いわけでもありません。病気や身体の問題なので、本来なら誰かが謝るような話ではないことも分かっています。それでも、子ども望んでいた妻がいて、検査の結果、原因が自分にあると分かれば、やっぱり申し訳ないという気持ちはどうしても芽生えました。

妻は私を責めることも、取り乱すこともありませんでした。反応としては、「そうなんだ」と静かに受け止めていた、という感じだったと思います。それだけに、逆に本当はどう思っているんだろう、と考えることもありました。

最初の病院では男性不妊の詳しい検査ができないということで、地域の大きな病院を紹介されました。そこで再び精液検査を受けても結果は同じで、その後は泌尿器科で触診や採血、遺伝学的な検査などを受けました。

診察なのですから当たり前のことなのですが、男性の医師に大事なところを診てもらいながら「俺はいったい何をしているんだろう」と一瞬思ったことは覚えています。もちろん、診察なんだから仕方ないんですけどね。

「あそこ、切るの?」

検査を進める中で、主治医から説明されたのは、「精子そのものが作られていないとは限らない」ということでした。問題は精子ではなく、それを体の外へ運ぶ経路に問題がある可能性があるというのです。そこで提案されたのがMicro-TESEという、精巣を切開して中から精子を探す手術です。
※Micro-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)とは、精液中に精子が確認できない非閉塞性無精子症の患者に対し、手術用の顕微鏡を用いて精巣内から精子を探索し、回収する男性不妊の治療手術です。

説明を聞いた瞬間に頭に浮かんだのは、そのまま「あそこ、切るの!?」でした。

学生時代からの親友に話した時も、「え、マジであそこ切るの!?」と、全く同じ反応が返ってきました。まあ、そうなりますよね。命に関わるような手術とは怖さの種類が違いますが、男性ならこの何とも言えない嫌な感じは分かってもらえると思います。

というか、最初にこの手術を考えた人はなかなかすごいことを考えたな、とも思いました。もちろん、その手術のおかげで今回私は助けられたわけなので、今となってはありがたい話なのですが。

手術を受けることが決まってからは、ネットでもかなり調べました。ただ、不妊治療について検索すると、女性側の体験談はたくさん見つかる一方で、男性の体験談は驚くほど少なかったのです。どんな検査を受け、Micro-TESEで何をされ、どれくらい痛くて、いつ仕事に戻れたのか、本人は何を考えていたのか、といった私が知りたかった情報は意外なほど少なく、それが不安をさらに大きくしていたように思います。

ただ、手術そのものよりもっと怖かったのは、「切って探しても精子がいなかったらどうしよう・・・」ということでした。

妻にもその不安は話しました。ただ、もし精子が見つからなかったらどうすのか。その先のことまでは、二人できちんと話したことはありませんでした。

今、振り返ると、話さなかったというより、私自身が考えたくなかったんだと思います。結果を聞いた時、自分がどうなるのかも分からない。その先のことを冷静に話せる自信もありませんでした。だから私は、とりあえず「いるかもしれない」という可能性だけを見ていたんだと思います。

そんなに不安がっていたくせに、Micro-TESEを受けるかどうかについてはほとんど迷いませんでした。妻は母親になりたいと言っているし、まだ試せる方法がある。それならやる。それでも駄目だったら、その時に考えるしかない。

当時の私は、本当にそんなふうに考えていました。

後になって妻から「手術を受けると決めてくれてありがとう」と言われたことがあります。でも、私としては何か特別なことをしたという感覚はありません。二人の子どもの話で、自分にできることがあるならやる。それでいいんじゃないかと思っています。

あれだけ不安だったのに、手術はあっさり終わった

私がお世話になった病院では、手術は1泊2日、全身麻酔で行われました。ネットでは局所麻酔の日帰り手術の体験談も見ましたが、個人的には全身麻酔でよかったと思っています。あそこを切られている最中に意識があると思うと、それだけで嫌でした。

手術当日は妻も病院へ来てくれました。一緒に説明を聞いた後、入院しました。手術着に着替えた時は、医療ドラマのようにベッドで運ばれていくのかと思っていました。ところが実際には、普通に自分の足で手術室向かいました。「本当にテレビで見るような手術室なんだな」、そんなことを考えながら室内を見回していたところまでは覚えています。

手術台に横なり、麻酔が入ると、そこから先の記憶はありません。本当に一瞬でした。

次に覚えているのは、誰かに声をかけられて目を覚ました場面です。その時に言われたのが、「精子、ちゃんと取れましたからね」という言葉でした。

「ああ、そうですか。よかった。」

たぶん、そんな返事をしたと思います。

あれだけ不安だったのだから、もっと感動したり、泣いたりするものなのかもしれませんが、実際はそんなこともありませんでした。麻酔から覚めたばかりで頭がまだ回っていなかったのか、その場では「精子がいたんだ」という実感があまりなかったのだと思います。

その後、妻が主治医から説明を受けました。私の場合は先天性精管欠損で、精子そのものは作られていたものの、それを外へ運ぶための通り道がなかったそうです。さらに、今後の治療に使える精子も確保できたと聞きました。少し時間が経ってから、ようやく「ああ、本当に精子がいたんだ」という実感が湧いてきました。

とにかく、精子がいた。それが本当によかったです。

ただ、不思議なものです。それまで「精子がいるのか、いないのか」ということばかり考えていたのに、いると分かった途端、今度は「じゃあ、本当に親になるかもしれないんだな!」ということが急に現実味を持ってきました。

妻には今のところ大きな問題は見つかっていませんでした。だから、精子が確保できたということは、少なくとも次の段階へ進めるということです。それはもちろん嬉しいことでした。でもその一方で、自分が本当に親になるかもしれないと考えると、それはそれで少し怖く、「ちゃんとしないとな」とも思いました。

一つ不安がなくなれば、今度は別の不安が出てくる。まあ、人間とはそういうものなのかもしれません。

ちなみに、手術について事前に知っておきたかったことを一つ挙げるなら、それは手術前の剃毛です。もちろん剃毛すること自体は聞いていたのですが、術後に自分で剃られた部分を見た時はちょっと「うわぁ……」と思いました。勝手に全体を剃ると思い込んでいたのですが、実際は一部だけだったのです。
私の場合は翌日に退院し、その翌日には仕事にも戻りました。しばらく運動は控えましたが、その後はほぼ普段通りに生活できています。

同じ半年でも、たぶん感じ方が違う

妻が不妊治療を始めた時は36歳でした。

36歳だからもう遅い、という話をしたいわけではありません。ただ、女性にとって妊娠や出産と年齢が無関係ではないことは、多くの人が認識していると思います。(もちろん男性の年齢も関係があります。)実際に治療が始まると、生理周期に合わせて予定が組まれます。今回うまくいかなければまた次。その次もあるかもしれない。そうやって進んでいくので、半年や一年なんて本当にあっという間に過ぎていきます。

一方で男性は、「まあ、そのうちできるんじゃない」と比較的楽観的に考えてしまう人も少なくない気がします。少なくとも、私にもそういうところはありました。

でも妻からすれば、同じ半年、同じ一年でも、その感じ方は全く違ったんだと思います。

私は男なので、その感じ方を完全に理解することはできません。だからといって、「女性の気持ちは分かります」なんて言うつもりもありません。ただ、「そりゃ焦るよな」「自分と同じ時間感覚ではないよな」ということくらいは、もっと早い段階で考えてもよかったと今になって思います。

だからこそ、子どもを望んでいてもなかなか授からないのであれば、男性も早めに検査を受けた方がいい。このことは、今回かなり強く感じました。

これは、タイミング法が悪いとか、最初から高度な治療を選んだ方がいいとか、そういった話ではありません。それぞれの夫婦や身体の状態によってやり方は違うでしょうが、原因が分からないまま「そのうち」と時間を重ねるより、まず検査を受けて分かることを増やす。そのうえで、これから二人でどうするか考えればいいと思います。

少なくとも私たちの場合、もし男性側の検査をせず、妻だけが治療を続けていたとしたら、その時間は何だったんだという話になります。

当事者になって分かったお金のこと

もう一つ、実際に当事者になって改めて感じたのがお金のことです。

私は15年以上、ファイナンシャルプランナーとして仕事をして、生命保険も販売してきました。人様の家計について散々あれこれ言ってきた人間ですが、自分のことになると「これ、じわじわお金がかかるんだな」と感じました。

不妊治療は、一度に家計が破綻するような金額が必ずかかるという話ではありません。ただ、検査があり、手術があり、その後の治療も続けば当然お金は出ていきます。だからこそ、「うちは治療にどこまでお金をかけられるのか」「そのために何を少し後に回すのか」ということは、早い段階で夫婦で考えておいた方がいいと思います。

別に不妊治療を始めたから旅行をやめろとか、家を買うなとか、そういう話ではありません。ただ、時間もお金も無限ではありません。自分たちは何を優先したいのか。それを先に決めておいた方が、その都度「これどうしよう」と悩むよりは少し楽になるのではないかと思います。

また、家計を確認する中で、すでに医療保険などに加入しているのであれば、保障内容も一度確認しておいていいと思います。

私自身、今回の手術(Micro-TESE)では加入していた医療保険から給付を受けました。これまで仕事の中で、「入院や手術をした時のための保険です」と何度も説明してきました。一方で、保険を販売する立場ですから、どこか営業トークとして口にしていた部分も当然あります。

それが実際に自分で給付を受ける側になってみると、「ああ、こういう時なんだな」と改めて思いました。

もちろん、だから誰でも医療保険に入りましょうという話ではありません。また、治療が始まってから、その治療のために保障を後付けできるとは限りません。まず家計を見る。その上で今入っている保障を見る。そして必要であれば、本当に必要になる前の段階で考えておく。そのくらいでいいと思います。

もっと早く話しておけばよかった

時間やお金のことまで含めて考えるようになった今、一つ自分の中に残っているのが、もっと妻と早く話しておけばよかった、ということです。

妻からは、不妊治療への理解はある方だと言われます。病院にも行き、手術も受け、仕事の予定もできる範囲で合わせてきたので、自分としても何もしていなかったとは思っていません

ただ、それでも考えるのです。妻が感じていた年齢や時間への焦りを、私はどこまで理解しようとしていただろうか。もし治療がうまくいかなかったらどうするのか、どこまで治療を続けるのか、いくらまでお金を使うのか、その時お互いが何を考えているのか。

今は二人で同じ方向を向いて進めていると思います。それでも、もっと初期の段階で話しておけばよかったという思いは今も残っています。

「不妊治療は夫婦二人でするもの」と言ってしまえば簡単です。でも実際には、それぞれ仕事があり、お金の問題があり、不安もあります。そして何より、男女では実際に受ける身体的な負担が違います。全部を完全に分かり合うことなんて、多分できません。

だからこそ、「分からないから関係ない」ではなく、「自分には完全には分からないけれど、相手はどう感じているんだろう」と考えながら話していくしかないのだと思います。私自身も、まだそれが完全にできているとは思っていません。

今、私たちは顕微授精へ進んでいます。この先どうなるのかは、まだ分かりません。

もし将来、男の子が生まれたら、私は今回のことを本人に伝えると思います。私に先天性精管欠損があったこと。それが本人にどう関係するかを、私が勝手に決めつけるつもりはありません。ただ、将来その子が子どもを望むのであれば、「父親にはこういうことがあったから、一度早めに調べておいた方がいいよ」とは伝えるつもりです。

知れることなら、知っておいた方がいい。今回、自分自身がそうだったので。

これは「不妊治療を乗り越えました」という体験談ではありません。私たちはまだ道半ばで、この先うまくいくのかも分かりません。

ただ、不妊治療をどこか妻がするものだと思って病院についていった私が、気がつけば自分の精巣を切って精子を探してもらっていました。

人生というのは、本当に分からないものです。

そして当事者になってみて分かったことがあります。それは、男性も早めに検査を受けた方いいということ。夫婦でも時間の感じ方は違うということ。そして、お金のことも含めて、もっと早く話しておけばよかったこと。

これから同じような状況になる男性が、Micro-TESEの説明を受けて「あそこ切るの?」と思ったとしたら、たぶん私と同じです。怖いものは怖いです。私も手術前はかなり怖かった。

でも、分からないまま怖がっているより、まずは調べてみる。そして、パートナーと話し合ってみる。その先のことは、その時にまた二人で考えればいい。

今の私に言えるのは、そのくらいです。

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