ワンモア・ベイビー・ラボ
【パパ育休の実態と本音】「会社」と「家庭」のあいだで揺れながら、育休を取得したからこそできた3人の子育て
秋山 開
2026年05月07日
男女の「仕事と育児の両立」を支えるため、父親の育児休業取得を後押しする制度が整いつつあります。
日本の男性の育児・家事参加は、OECD加盟38カ国のなかで最低水準とされる一方、いわゆる〝パパ育休〟の取得率は上昇を続けています。厚生労働省の調査では、令和6年度は過去最高の40.5%に達しました。
しかし同調査の回答率は約5割にとどまり、育休取得に消極的な企業が未回答である可能性も指摘されています。実際の取得率は数字より低いとも考えられ、地域差も小さくありません。一般に、都市部に比べ地方では取得が進みにくい傾向があるといわれています。
こうした現状を踏まえると、パパ育休に不安や迷いを抱く人は、まだ多いのではないでしょうか。
本連載では、実際に育休を取得した家族へのインタビューを通して、その実態や本音に迫ります。育休を取るか悩んでいる方や、「自分の職場では難しい」と感じている方、そして子育て世代の部下をもつ管理職の方々にとって、ヒントとなれば幸いです。
【プロフィール】
夫:中條 伸也(35歳/仮名)コンサルタント・主任
妻:中條 正美(35歳/仮名)専業主婦
子:3人(5歳、2歳、0歳)
お住まい:東京都
【結婚・出産までの過程】
現在のコンサル会社に転職する前の会社で出会い、結婚した。結婚後、夫婦揃って東京に転居し、夫は現在の職場に就職し、妻は専業主婦になった。
【育休期間】
夫:2020年5月(産後1週間)
2023年6月(産後1ヶ月)
2025年7月(産後1ヶ月)+9〜12月の4ヶ月間
(取材日:2026年2月某日)
「取ってほしい」という妻と、「そんなに長く?」という会社のあいだで
今回ご紹介するのは、5歳、2歳、0歳の3人の子どもを育てる中條さんご夫妻です。
第一子のときは産後1週間ほど、第二子のときは約1カ月。そして第三子となる今回は、産後すぐの1カ月に加え、1カ月ほど間を空けて9月から12月まで4カ月間、あわせて約5カ月の育休を取得しました。
そもそも1人目のときに休みを取ったのは、ちょうどコロナ禍だったことがきっかけでした。
「緊急事態宣言が出たころで、妻の両親が田舎からなかなか出て来られなかったんです。さすがに生まれてすぐ仕事を続けるのは厳しいだろうなと思って、ほんの1〜2週間だけ取りました」(伸也さん、以下同様)
その後は両親や義両親のサポートもあり、何とか乗り切ることができたといいます。けれど、子どもが2人、3人と増えるにつれて、状況は変わっていきました。
「2人目ぐらいから、上の子を見ながら赤ちゃんのお世話をするのが結構大変になってきて。3人目になると、特に2歳の次男が本当に手のかかる時期だったので、誰かがあの子を見ていないと、赤ちゃんのお世話ができないなというのがありました」
育休を取る理由は、出産をしたばかりの正美さんや、0歳の赤ちゃんのためだけではありませんでした。むしろ大きかったのは、いちばん活発な時期にある第二子のお世話を引き受けることだったといいます。
一方で、今回の育休はすんなり決まったわけではありません。伸也さんが働く会社は、親族が経営に関わる会社でもありました。
「妻からはもっと長く取ってほしいと言われていました。周りの友達の家では1年くらい取っている人もいて、うちもそれくらい取れないか、みたいな話が夫婦間で出ていました。でも、自分の仕事のこともあるし、会社の理解を得るイコール代表を務める父親の理解を得ることでもあったので、そこは苦労しました」
当初は、もっと長い期間(9〜3月末)の取得を希望していたそうです。しかし交渉を重ね、少しずつ期間を調整しながら、最終的に12月末までという形で折り合いをつけました。
「会社の都合からすれば、育休を取った分、誰がその仕事をやるんだという話にもなるし、代表の息子が堂々と取っていたら、他の社員も長く取りたいとなるだろう、という理屈もわかるんです。けれど家族のことを考えると取りたいし、妻からの要望もありましたので、板挟みになった感覚はありました」
育休をめぐる世代間ギャップも感じたといいます。
「父親は基本的に子育てに対する理解がなくて、母親がやるものという感覚が強い。自分の母親もそうやってきたから、うちの妻も一人でできるんじゃないか、という考えがあるんです。いまは男性が育児に参加する時代になってきているけど、その理解が追いついていないところはあると思います」
それだけではありません。いまほどパパ育休が普及していなかった約10年前に出産を経験した兄夫婦からも、冷ややかな目線を浴びたのです。
「同じ会社で働く兄は育休を取りませんでした。それもあって兄や兄の奥さんからはあまり歓迎してもらえなかったんです。ああ、ここにも感覚のズレがあるのだなと思いましたね」
希望より短くても、取れたことには意味があった
もちろん、育休取得に不安がなかったわけではありません。
「ひとつは仕事ですね。自分の仕事は、抜けても何とか他の人がカバーしやすい内容だったので、そこはよかったんですけど、いまテクノロジーがすごく進化しているなかで、自分が帰ってきたときについていけなかったらどうしよう、という不安はありました」
周囲が前に進んでいるように見えるなかで、自分だけ立ち止まっているような感覚もあったそうです。実際、2026年1月に復帰したあとも、「まだなかなかキャッチアップしきれていないところはある」と率直に語っていました。
それでも、職場の理解には助けられました。直属の上司は女性で、自身も産休・育休を経験していたことから、早い段階で相談すると「取りなよ」「どれだけ取ってもいいよ」と言ってくれたのだとか。
「親に相談するより先に、一緒に仕事をやっている人の都合のほうが大事だと思ったので、まずは職場に相談しました。快く(育休に)送り出してくれたのはありがたかったです」
引き継ぎも、ひとりに丸ごと任せるのではなく、周囲で少しずつ分担してくれたといいます。制度面も、もともと女性社員の産休・育休取得が多い会社だったこともあり、一定程度整っていました。
「女性が多い職場なので、制度自体は割としっかりしていました。ただ、パパ育休については特に蓄積がなかったので、そこは自分で調べて補う感じでした」
実際、今回の取得では「産後パパ育休」と通常の育休をどう組み合わせるか、自分で調べる場面も多かったそうです。申請書類も、想定されていたのは連続した1本の休暇で、今回のように期間を分けて取る形には対応しきれていなかったといいます。
「備考欄をめちゃくちゃ書かないといけなかったですね」
そんな細かな不便はありつつも、理解ある上司や仕事を分担してくれた同僚のおかげで、結果として育休を取得できたことの意味は大きかったようです。
3度目にして初めて「長く取ろう」と思った理由
第一子、第二子のときにも休みは取っていました。けれど、今回初めて「しっかり取る」ことを選んだ背景には、〝3人育児〟ならではの事情がありました。
「3人目になって、さすがにちょっともう大変だなと。特に2歳の次男がすごくわんぱくなので、この子のお世話を誰かがしないと、赤ちゃんのお世話ができない。だから、自分があの子のお世話をするために育休を取った、というのが半分くらいあります」
2歳は、何でも自分でやりたがる時期でもあります。上の子の真似をして、キッチンに入ろうとしたり、上の子の宿題のプリントに鉛筆で勝手に書こうとしたり。危ないこと、いたずら、思い通りにいかないことの連続です。
「すごく必死になって、ついついこっちも大きい声を出して怒っちゃうこともあります。それが今でも一番大変ですね」
それでも伸也さんは、「子どもと過ごせるのは今だけ」とも言います。
「振り返ってみれば、すごくいい時間ではあるんだろうなと思いますし、赤ちゃんも1カ月ごとにどんどん大きくなっていく。その姿を一緒に過ごしながら見られるのは、長男や次男のときにはなかったので、かけがえのない時間を過ごせているなと思いました」
朝だったのに、すぐ夜になる。育休中のリアルな1日
育休中の生活は、とにかく子ども中心。
朝は6時から7時ごろに起きて、長男の朝食や支度、習い事の宿題を見ながら、8時半の幼稚園バスを見送る。そこからは次男のお世話が中心です。
「家にいても大変なんで、どこかに連れ出したりしていました」
図書館に行く。公園に行く。近所を散歩する。最近は自転車の練習にも付き合っているそうです。昼食をすませ、次男が1時から3時ごろまで昼寝をしてくれたら、その時間が唯一の休憩時間。3時ごろになると今度は長男が帰ってきて、また習い事や外遊び、夕食、お風呂、寝かしつけへと続いていきます。
「朝だったのに、すぐ夜になるみたいな感じですね」
第三子のお世話は主に正美さんが担い、伸也さんは上の2人をできるだけ見る。そんな分担が自然とできていたようです。
もともと子どもが好きで、一緒に遊ぶこと自体が楽しい、と伸也さんは言います。
「やろうと思ってやっているというよりは、どちらかというと楽しいから一緒に遊んでいる感じですね」
だからこそ、育休中には子どもの成長をこれまで以上に間近で感じられたのだとか。たとえば、週1回平日に行われる幼稚園のサッカー教室。終わる少し前に迎えに行き、外から練習風景を見て、帰り道に「よくできてたね」と声をかける。そうすると長男は、とても嬉しそうに話してくれるそうです。
「そういうコミュニケーションが取れるのは、なかなか仕事だけしていたらなかったと思うので、すごくよかったですね」
育休を〝2回に分けて取る〟という選択
今回の育休で特徴的なのは、産後すぐの1カ月と、少し間を空けた4カ月という、いわば〝セパレート型〟で分割取得していることです。
これには、家族のサポートや子どもの生活リズムを踏まえた理由がありました。
「最初は生まれてすぐ(育休を)取りましたが、その後は妻のお母さんが来てくれたので、その間はいったん復帰しようと思っていました。さらに、その後は長男の幼稚園の夏休みにあわせて、妻が実家に里帰りしてくれたので、その間も仕事ができました。長男の夏休みが終わって幼稚園が始まるタイミングで、また9月から育休を取る、という形を取ることができたのはありがたかったです」
つまり、妻の母親が手伝いに来てくれる期間、里帰りの期間、長男の幼稚園の長期休みなどを見ながら、できるだけ家庭にも仕事にも無理の少ない形を選ぶことができたのです。
「仕事への影響も少し減らしつつ、という感じでしたね」
必要なときに、必要な分だけ関わる。その柔軟さは、育休の取り方としてひとつのヒントになるかもしれません。
家事や育児を妻と近い目線で話せるようになった
今回の育休について、妻の正美さんは「取ってくれないと回らなかった」と話していたそうです。
伸也さん自身も、もし育休を取っていなかったらどうなっていたと思うかを尋ねると、即答でした。
「やばかったと思いますね。家に帰ってきたら、子どもも機嫌悪そうだし、妻も機嫌悪そうだし、そんな家族を見てげんなりする自分もいそうですし」
育休を取ったことで、育児や家事の理解は確実に深まったようです。
「やっていなかったら何もわからないから、妻の言う通りです、という感じだったと思います。(でも、育休を経験した今は)割と近い目線で話せるようになったかなというのはあります」
今後についても、「家のことのウエイトをもう少し増やしたほうが、みんなが機嫌よく暮らしていけるのかなと思う」と話します。
そして、この経験は将来、仕事の場でも生きると感じているそうです。
「自分も部下でそういう境遇の子がいたら、積極的に取るように言おうと思います。やっぱりそれが巡り巡って家庭環境も良くなるし、夫婦でいい関係を築けるでしょうし、そうした家族円満は仕事にも良い影響があると個人的には感じるからです。みんなにとって幸せなことにできるのではないでしょうか」
これまで、女性が育休を取るのは〝当たり前〟だった職場で、男性がある程度まとまった期間の育休を取ったこと。そこには、小さくてもロールモデルとしての意味があるはずです。
「経験者の話を聞く機会があるのが一番いいと思うんです。制度の話を聞くより、実際に取った人の話を聞くほうがイメージしやすいと思うので」
今しかない時間を、一緒に過ごすために
最後に、これから育休を取るか迷っている人へのメッセージを聞きました。
「子どもが小さいときに一緒に過ごす時間って、本当にかけがえのないものなんです。後から同じ時間は過ごせないので、状況が許すのであれば、ちゃんと取って、今しか楽しめないこの時間を一緒に過ごしてもらえたらいいかなと思います」
キャリアとのバランスに悩む人は、きっと多いはずです。伸也さん自身も、その迷いを強く感じながら今回の育休を選びました。
それでも、家庭のことを知り、子どもと過ごし、妻と近い目線で話せるようになった今、その時間にははっきりと意味があったと感じているようでした。
家族とは何か、と尋ねると、少し考えてから、こんな言葉が返ってきました。
「やっぱり一番、自分が自分らしくいられるというか、帰ってこられるところだと思います。すごく楽しい、幸せな場所、みたいな感じですかね」
その場所を守るために、育休を取る。そんな選択が、もっと自然にできる社会になっていくとよいのかもしれません。









