ワンモア・ベイビー・ラボ
子どものアレルギーの原因は?親の出産年齢別に調べた大規模研究でわかった意外?な結果とは
齊藤英和
2026年03月26日
母親の出産年齢が高齢化すると、母親本人や出生児にいろいろなリスクが生じる可能性が高くなることは、これまでの記事の中でもお話してきました。世界的にも高齢の母親や父親からの出産は、健康問題として増加しています。母体年齢が35歳以上の方は高齢と定義され、早産のリスクや先天性疾患を持つ子孫ができる可能性が上昇します。しかし、親の年齢とアレルギー疾患との関連は依然として不明瞭であり、包括的に調査されていませんでした。
今回ご紹介する研究は、両親の年齢と出生児のアレルギー発症リスクを検討した研究(JAMA Netw Open.2026Jan2;9(1):e2554694. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.54694.PMID: 41557350)です。研究が行われたきっかけは、「高齢出産は遺伝的およびエピジェネティックな変化と関連しているものの、小児アレルギーリスクとの関連は不明であるため」と説明されています。その結果はとても興味深い内容であったため、ご紹介します。
高齢の親からは変異遺伝子を受け継ぐ可能性が高くなる
動物と同様に、人間においても加齢はエピジェネティクスに、かつ多面的に影響を及ぼし、両親の高齢化は多くのDNAメチル化やヒストン修飾などの変化の蓄積をもたらします。父親の年齢が上がるにつれて、精子のDNA損傷のリスクも高まります。さらに、高齢の父親の精子は変異のリスクが高く、子どもの遺伝性疾患やその他の病状と関連している可能性があります。
一方、女性においても年齢が上がるにつれて、卵子の染色体異常の可能性も高まります。この卵子の質の低下は、妊娠能力の低下、流産率の増加、出生児の先天異常のリスク増加につながる可能性があります。すなわち、出産時に父親や母親の年齢が高くなると、子どもが変異遺伝子を受け継ぐ可能性が高まります。以前の研究では、主に母親の年齢と小児喘息の関係に焦点を当てて研究がなされてきましたが、結果は一貫していませんでした。また、これらの調査は、父方年齢の影響を考慮していませんでした。急速に社会の人口動態が変化してきている現状を考慮すると、両親の高齢化がアレルギー疾患発症リスクを検討する必要があります。
また、アレルギー疾患は、遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用によって影響を受け、遺伝子と環境の相互作用が重要な役割を果たします。生活習慣の変化や工業化は、世界的なアレルギー疾患の増加に関係しています。さらに、環境曝露の影響は、様々なエピジェネティック機構を介して、個人の感受性や疾患の発症に寄与することがあります。
親の年齢と出生児のアレルギー発症リスクに関する研究概要
この研究は、日本で国立成育医療研究センターの山本貴和子氏らが中心となり、34,942組の母子を対象としたコホート研究です。本研究は、全国における集団ベースの多施設共同前向き出生コホート研究で、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いています。2011年1月から2014年3月に日本国内の15センターで参加者を登録し、1歳、2歳、4歳時に追跡調査データを収集しています。また、親の年齢とアレルギーに関するデータが記載されている単胎児を対象としており、本解析は2024年7月8日~2025年2月4日に実施しされました。
主要な評価項目は、1歳、2歳、4歳における医師診断による食物アレルギー、喘鳴、喘息、湿疹です。副次評価項目は、サブコホートとして2歳および4歳におけるハウスダスト感作を検討しています。親の年齢カテゴリーは35歳を基準に定義し、親の出生時の年齢の組み合わせは、母親と父親の両方が35歳以上、母親が35歳以上で父親が34歳以下、母親が34歳以下で父親が35歳以上、母親と父親の両方が34歳以下に分類されます。さらに、母体の出生年齢は20歳から24歳、25歳から29歳、30歳から34歳、35歳から39歳、40歳以上に分類されています。
調整オッズ比(OR)は、欠損値に対して多重補完後、交絡要因を考慮して多変量ロジスティック回帰を用いて算出しています。交絡要因には、関連地域センター、母親のアレルギー歴、父親のアレルギー歴、母親の最高学歴、世帯収入、子どもの性別、出生体重、分娩方法、兄弟姉妹数、妊娠中の家庭喫煙、保育園、ペット、母体質量指数が含まれます。
高齢出産の意外な影響?子どものアレルギーリスクが低下するという研究結果
その結果を下記に記載します。
①34,942組の母子が対象となり、登録時の母親の平均年齢は31.0歳(標準偏差:4.7)、17,892人の母親(51.2%)にアレルギー歴がありました。
②1歳時の食物アレルギー有病率は6.6%(95%信頼区間[CI]:6.4~6.9)で、母親の年齢とともに減少しました。
③出産時の母親の年齢が25~29歳の子どもと比較して、35~39歳で出産した子ども(OR:0.79、95%CI:0.70~0.90)および40歳以上で出産した子ども(OR:0.59、95%CI:0.44~0.79)のほうが食物アレルギーのオッズが低値でした。
④両親共に35歳以上で生まれた子どもは、4歳時に喘鳴を呈するオッズが低値でした(OR:0.89、95%CI:0.82~0.95)。
⑤ハウスダスト感作について、2歳児1,991人と4歳児1,840人を評価した結果、出産時の母親の年齢が高いほどオッズが低値でした(30~34歳で出産した子どものOR:0.76、95%CI:0.59~0.98、35~39歳で出産した子どものOR:0.68、95%CI:0.50~0.91)。
以上の研究結果から、35歳以上の母親から出生した子どもは、若い親から生まれた子どもに比較し、食物アレルギーと診断される確率が低いこと、喘鳴、湿疹、家粉ダニの感作に関しても2歳、4歳で同様の低下が観察されました。
高齢の親は、行動的、環境的、生物学的要因により、児のアレルギー発症を低下させる可能性があると考えられます。親の教育レベル、世帯収入、兄弟姉妹数、アレルギーの家族歴などの要因を調整しても、高齢の母親を持つ子どもは食物アレルギーの有病率が低くかった理由としては、母親の年齢によって生活習慣、環境曝露、診断意識、医療を求める行動などが異なる可能性が影響していることが挙げられます。さらに、高齢の親は経済的・社会的安定傾向があり、安定したキャリアや生活水準を持ち、子どもにより良好な教育や生活環境を提供できる可能性が高いと考えられ、また、人生経験が増えることで、年配の親はより安定した感情で子育てに臨むことができ、それが子どもの感情的な健康に寄与する可能性があります。
高齢の親はさまざまな年齢層の人々と交流する機会が増え、より広い視野を育むことができ、健康に関する情報への長期的な曝露や累積された生活経験は、ヘルスリテラシーを高める可能性があり、これらの要因が食物アレルギーの発生率低下に寄与する可能性があります。
さらに、高齢の母親から出生した児は、ハウスダストに対する感作が少なくなりました。これは環境中のハウスダスト濃度が子どものハウスダスト感作と関連していると考えられていることから、高齢の母親はハウスダストについてより深い知識を持ち、家庭でより効果的な環境管理策を実施している可能性があると考えられます。
子どものアレルギー疾患の発症を低減させるために必要なこと
今回の研究では、直接的な因果関係のデータとしては示していませんが、高齢者における経済的・社会的安定性の向上、ヘルスリテラシー、環境管理の改善が児のアレルギー疾患発症を低減負軽させる可能性が示されました。今後の公衆衛学的予防戦略として、年齢が若い層においても経済的・社会的安定性の向上、ヘルスリテラシー、環境管理ができる資質を早期に獲得できるような社会環境の構築を目指すことが、児のアレルギーの発症を軽減するために必要であると考えられます。









