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【パパ育休の実態と本音】大学教員が“ファーストペンギン”になって見えた景色=前編=

秋山 開 2026年04月03日

男女の「仕事と育児の両立」を支援していくことを目的に、父親が育児休業を取得するための制度が整ってきています。

日本の男性における育児・家事の参加は、先進38カ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)のなかで最低水準にあるとされますが、いわゆる〝パパ育休〟の取得率は上がり続け、厚生労働省の調査によると令和6年度は過去最高の40.5%に達しました。

しかし、同調査の回答率はおよそ5割。育休取得に消極的な企業ほど未回答であると思われることから、実際のパパ育休の取得率は先の数字よりも低くなると想像できます。地域や自治体ごとの温度差もあるでしょう。一般に、地方よりも都市部のほうがパパ育休は進んでいると指摘されます。

そう考えると、パパ育休に対して不安を抱いていたり、ネガティブな気持ちを持っていたりする子育て世代の方は、まだまだたくさんいることが想像できます。

そこで本連載では、実際にパパ育休を取得した家族へのインタビューを実施し、その実態や本音について迫っていきたいと思います。育休を取るか悩んでいるというかたや、「うちの会社で取れるはずがない」と考えているかた、子育て世代の部下をもつ上司や管理職のみなさんなどへのヒントとなれば幸いです。

【プロフィール】
夫:小林 裕貴(34歳/仮名)大学教員
妻:小林 瑠里(32歳/仮名)建設会社 主任
子:1人(2024年10月生まれ)
お住まい:東京都板橋区
【結婚・出産までの過程】
コロナ禍にマッチングアプリを通じて巡り合い、半年間の交際を経て結婚。夫婦2人での2年間の結婚生活の送った後、約10ヶ月の不妊治療の末、妊娠・出産した。
【育休期間】
夫:2025年4月~2025年9月
妻:2024年10月~2025年4月

(取材日:2026年1月某日)

任期付き研究者が“キャリア不安”を抱えながら踏み出した決断

今回ご紹介するのは、2024年10月に生まれた第一子を子育て中の小林裕貴さん(仮名)、瑠璃さん(仮名)夫婦です。

2025年春。都内にある大学で数学の研究をしている裕貴さんは、4月から9月という大学の前期にあたる半年間、まるごと育休を取得しました。

大学教員の世界では、男性が“長期”で育休を取る例はまだ多くありません。

「事務などを担う大学職員のほうでは増えているみたいなのですが、教員で半年全部っていうのは、『うち(の大学)ではたぶん初めて』と言われました」

講義の調整、同僚への依頼、任期付きという立場……。ハードルをあげればいくつもあがります。

特に“任期付き”は、期間内に論文という“形ある成果”を挙げないと次につながりづらいことを意味します。そのため、キャリアへの影響に不安がなかったわけではありません。

それでも取得を決めた理由のひとつに、こんな思いがあったといいます。

「男性って、制度上は“研究していることにして家で育児する”みたいなことも理屈上はできてしまう。基本的には裁量労働制ですからね。でも女性は出産で確実に休まざるを得ない。そこって、なんかずるいなって思ったんです」

官民が連携し、ジェンダーギャップを埋めるクオーター制を導入するなど、女性研究者を増やそうという動きが進む一方で、男性研究者は育休を“使わずに済ませられる”構図への違和感。

「だったら、自分がちゃんと取るというサンプルになれたらいいなって。ファーストペンギンになれたら、と」

周囲の反応は意外にも温かいものでした。

「応援します、って言ってくれる人が多くて。取りたくても授業の都合で諦めている人もいるので、『よくやってくれた』と言ってくれる方もいました」

育休は“個人の選択”に過ぎないのかもしれませんが、社会を変えていくためには個人が動き始めるほかないのかもしれない──。

そのようにして裕貴さんは一歩を踏み出すことにしたのです。

育休前夜にあったキャリアと生活へのリアルな葛藤

育休取得前の率直な気持ちは、「とにかく未知」という一言。

「キャリアももちろん不安でしたけど、それよりも“1日中一緒にいる生活”が想像できなくて。ちゃんと健康に育てられるのかな、とか」

収入面については、給付金制度と大学の事務サポートがスムーズで、大きな混乱はなかったといいます。

「受給のための手続きも整っていて、あまり大きな面倒もなく、給付金をもらえたと記憶しています。『ああ、ありがたいな』って思いました。正直、いい国だなって」

もちろん不安がゼロになることはありません。それでも、「出たとこ勝負でいこう」と腹をくくりました。

板橋区で見つけた“孤独を防ぐ仕組み”

裕貴さんが「これは本当に世に伝えたい」と何度も強調したのが、児童館の存在です。育休中の1日は、ほぼ児童館を軸にまわっていました。

午前10時からイベント。午後2時からもイベント。その合間に公園、買い物、離乳食づくり。

「もう通いに通いましたね。なかったら無理だったと思います。なんか、我々が住む板橋区はやたらと育児系のイベントがたくさんあって、本当に助かりました」

最初は正直、戸惑いもありました。

「レザークラフトとかフラダンスとか。最初は“子ども関係ないじゃん”って思ったんです。正直、これに税金使うんだって」

でも、すぐに考えが変わります。

「イベント自体が大事なんじゃなくて、そのあとなんですよ。自己紹介して、一緒に製作とかダンスとかしているから、そのあと自然に『何か月ですか?』『離乳食どうですか?』って会話が生まれる」

土日の“自由開放日”では、ほとんど交流は起きない。けれど平日のプログラム後には、自然と輪ができる。

「最初にこの仕組みを提案した人、すごいなって思いました」

また、とある夫婦参加型のイベントで、板橋区発の育児カードゲーム「カジークジー」を体験しました。裕貴さんは、このゲームにも感激したのだとか。

「カジークジー」は、夫婦それぞれの得意分野を活かしながら役割を選択していく対話型カードゲーム。

「お互い最低限はできる。そのうえで得意なことをやる。それが一番いい形なのかもしれないなって感じさせられる内容になっているんです。とくにうちの奥さんはいたく感心していましたね」

育休中に子どもと遊ぶ小林さん(仮名)

引き継ぎ期間が生んだ自然なつながり

ただ、児童館にせよ育児イベントにせよ、男性ひとりでの参加はほとんどいませんでした。イベントスタッフが「ママたち、いかがですか? あ、すみません、パパもいますね」と言い直すようなシーンも珍しくないほどだそうです。

それでも馴染めたのは、裕貴さんが生来の話し好きであることに加えて、“引き継ぎ”をしたからだといいます。

「子どもが生まれた10月から4月はうちの奥さんが育休を取りました。自分は4月から9月まで。あえて1ヶ月だけ育休期間を重ねて、そこで家事や育児を学ばせてもらいました」

そのなかで、日課になっていた児童館にも一緒に行き、ママ友に“よろしくお願いします”と紹介してもらったそうです。

「それがあったから、すんなりと輪の中に入ったということもあったと思います。最初は珍しがったりされることもあるけれど、基本的には普通に受け入れてくれて、優しくしてくれます。食べないとか、寝ないとかの相談にも乗ってくれて、具体的なアドバイスまでもらえるので本当にありがたかったです」

実際、「ベビーカー用の送風シート」の情報を教えてもらい、それを使ったら子どもがベビーカーで泣かなくなったということもあったのだとか。

育児で辛かったことは何かと聞くと、「孤独」や「社会とのつながりがないこと」といった回答が少なくありません。そうしたなか、こうした子育て交流の場は非常に貴重なのだと感じさせられます。

“正解がない育児”と向き合った日々

「離乳食をつくること自体は、『うたまるごはんのかんたんフリージング離乳食・幼児食』というレシピ本で勉強したので、問題なくできました。というか、ちょっとずつ食べさせてもいい食品を増やしていく過程は、楽しさすら感じていました」

もちろん、楽しいことばかりではありません。一番大変だったことの1つは、離乳食を食べなくなった時期。

「ただ、奥さんと育休を交代し、“ワンオペ”になって10日くらい、一口も食べない時期があって、それは独特のつらさがありました」

でんでん太鼓、ぬいぐるみ作戦、インカメラ……。あらゆる手を試しました。

転機は意外なものでした。

「ちゃんと椅子に座らせなきゃ、って本に書いてあったんですけど、もう立たせちゃった。好きなようにやっていいよって感じでつかまり立ちさせたまま食べさせたら、食べたんです。えっ、そこ? って思いました」

“正解”は子どもによって違う。それを体感で知っていく日々でした。

正解がなかなかわからないこと、ロジックでは説明がつかないこと。コントロールしたくてもできないこと。そうした経験は、「社会人として視野を広げる良い機会にもなるかもしれない」と裕貴さんは語ります。

それでも“最低限できる父”になるということ

裕貴さんは何度も強調します。

「家事、めちゃくちゃ雑です。洗濯の畳み方も含めて」

それでも自負できることがあると言います。

「最低限はできることです。凝った料理はできなくても肉野菜炒めは作れる。離乳食もインスタ映えはしないけど、栄養は取れます」

完璧でなくていい。ひと通り回せることが大事なのだと強調します。

「掃除とかも片付けとかもけっこう適当というか、ひどいもんですけど、ひと通りできますので、奥さんに1人時間をつくってあげたりもできます。ただ、まわりのママ友に聞くとみんながそうというわけではないみたいです。色々な家庭や夫婦の形があるので一概にはいえませんが、自分みたいに〝適当なやり方〟でも意外となんとかなるということは、知ってもらえたらと思ったりしますね」その姿勢を、瑠璃さんは「こんなにやってくれるとは思わなかった」と笑顔で受け止めてくれたうえ、折に触れて褒めてくれさえするのだと言います。

(後編では、復職後の変化や、男性育休をめぐるリアルな本音についてさらに伺います)

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