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ピルを使用する前に知っておきたいこと〜成分によって異なる可能性がある乳がんリスク〜

齊藤英和 2026年02月24日

現在、女性ホルモンは、多嚢胞性卵巣症候群などの卵巣機能不全に伴う月経不順、不正性器出血、月経前緊張症、更年期障害、子宮内膜症に伴う月経困難症などの疾患の場合や、健康状態における避妊目的など、いろいろな用途で用いられています。これらの治療効果や避妊効果はとても良く汎用性が高いのですが、一方でホルモン使用によるリスクも指摘されています。そのリスクの代表的な疾患は乳がんであり、近年、乳がんの発生率は閉経前の女性で増加しています。世界的な予測では、2040年までに年間300万人以上の新規発症者と100万人以上の死亡が推定されています。

今回ご紹介する研究は、大規模な症例数を用いてホルモン避妊薬の成分の違いが乳がんリスクにどのような影響を及ぼすかについて検討しています(Hadizadeh F, JAMA Oncol. 2025 Dec 1;11(12): 1497-1506. doi: 10.1001/jamaoncol.2025.4480.PMID: 41165687)。

スウェーデンで行われた大規模研究

ピルなどのホルモン避妊薬は、乳がんリスクの要因であることはすでに広く知られており、個人レベルでは小幅なリスク上昇をもたらします。しかし、ホルモン避妊薬が広範に使用された場合、国や世界の人口レベルでは大きな影響をもたらします。エストロゲンが乳腺上皮細胞増殖やがん遺伝子の増幅を介して乳がんを促進するという役割はよく知られていますが、プロゲステロンや合成プロゲスチンの役割についてはまだはっきりせず、一部の研究では乳腺細胞の増殖を刺激する可能性も示唆されていました。

ホルモン避妊薬には、エストロゲンとプロゲスチンの複合製剤、またはプロゲスチン単独の製剤があり、経口または非経口ルートで投与されます。今までの多くの研究は複合経口避妊薬に焦点を当てており、プロゲスチン単独製剤に関する検討は少なく、結果も一貫性に欠けていました。

今回の研究が行われたスウェーデンには、全国民を対象とした登録データがあり、かつ、プロゲスチン単独製品が他国よりも多く使用されています。そのため、プロゲスチン単独避妊薬と複合避妊薬が乳がんリスクに異なる効果をもたらす可能性を検討することができます。両ホルモンは乳腺上皮細胞の増殖を促進し、発がんを促進する可能性がありますが、それらの組み合わせは代謝過程を変化させ、さらにホルモン作用を変化させる可能性があります。 また、合成プロゲスチンは、プロゲステロンまたはテストステロン誘導体と構造的に関連しているため、体内曝露や組織への薬理学的影響の違いがあります。 さらに、プロゲスチンはプロゲステロン、アンドロゲン、グルココルチコイド受容体への結合親和性に異なるため、プロゲスチンの種類の違いはリスクの違いをもたらす可能性があります。

この研究の対象者は、2006年1月1日時点でスウェーデンに居住している13歳から49歳の女性で、全人口登録簿および医療出生・患者・教育・がん・処方薬登録簿からの関連データを用いて全国規模のコホート研究を実施しました。フォローアップは、2005年7月に開始された処方薬登録簿からホルモン避妊使用に関する年間データを用い、2006年1月1日から2019年12月31日までのデータを使用しました。また、既往歴・治療歴に乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮がん、両側卵巣摘出術、不妊治療がある方、または追跡前に死亡または移住した方は除外されました。最終的に、 診断時の年齢中央値は45歳([IQR]:45-48歳)で、2,095,130人の思春期以降の女性を対象に、21,020,846人年にわたって追跡調査を行い、16,385件の乳がん症例が認められました。
検定は、時間依存型Cox回帰分析を用いて、局所性および浸潤性乳がんの新規症例に対して95%の信頼区間を持つハザード比(HR)を推定しました。

ホルモン避妊薬は乳がんリスク増加の要因となる可能性

どのホルモン避妊薬でも、その使用は乳がんリスクの増加と関連しており(HR 1.24; 95% CI 1.20-1.28)、7752人あたり1例増加(95% CI 5350-14 070)に相当していました。また、異なる薬剤構成の比較では、複合型(HR 1.12; 95% CI 1.07-1.17)およびプロゲスチン単独製剤(HR 1.21; 95% CI 1.17-1.25)の両方が増加に関連していました。

経口デソゲストレル単独製剤(HR 1.18; 95% CI 1.13-1.23)、経口デソゲストレル併用製剤(HR 1.19; 95% CI 1.08-1.31)、およびエトノゲストレル(デソゲストレルの活性代謝物)を含むインプラント(HR 1.22; 95% CI 1.11-1.35)は、レボノルゲストレル含有複合錠剤(HR 1.09; 95% CI 1.03-1.15)、および子宮内避妊用具であるレボノルゲストレル 52 mg (HR 1.13; 95% CI 95% CI, 1.09-1.18)と比較し、リスクが高くなりました。
また、多くの使用者がいるにもかかわらず、メドロキシプロゲステロン酢酸塩注射、エトノゲストレル膣リング、または経口ドロスピレノンの併用では、統計的に有意なリスク増加は認められませんでした。

製剤の種類によって異なるピルのメリットとデメリット

今回のスウェーデンで行われた200万人以上の思春期以降の女性を対象としたコホート研究の結果、ホルモン避妊薬中のプロゲスチン含有量によって、乳がんリスクが大きく異なることが明らかとなりました。これらの情報に基づいた避妊処方を考慮することにより、乳がんリスクのある個人はもとより、そうでない個人においても、より良い製剤を選択することで、有益性が増す可能性があると考えられます。

 最近、日本でも薬剤のOTC化が進み、医師の処方箋なしに薬を得る機会が増えてきました。ホルモン剤に関しても、緊急避妊ピルが本年OTCの薬剤となりました。一方、一般の避妊ピルやその他の女性ホルモン剤は医師の診察のもとに処方されています。しかし、外国では、一般避妊ピルは医師の処方箋なしに薬局で購入できる状況です。この状況から、近い将来、ご自分の判断で一般避妊ピルを購入できるようになる可能性もあります。その際には、今回お話ししたように、ピルにはメリットだけでなく、デメリットもあり、製剤の種類によってもメリット・デメリットの程度が異なることをよく理解して使用するようにしてください。また、判断に困った場合は、早めに専門医に相談しましょう。

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