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ピロリ菌が重度の悪阻(つわり)の原因!?ヘリコバクター・ピロリ感染と重度の妊娠悪阻の関係

齊藤英和 2026年01月22日

ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)菌感染症は、消化性潰瘍、慢性萎縮性胃炎、胃癌など、さまざまな胃十二指腸疾患のリスク因子としてよく知られています。血液検査でピロリ菌が陽性の場合、呼気、尿、便を採取し、ピロリ菌の有無を検査したり、内視鏡検査で直接胃の粘膜を観察した後、胃の組織を採取してピロリ菌の有無を検査します。検査でピロリ菌が陽性の場合には、抗生物質で除菌をすることが一般的です。

治療で除菌できたとしても、長年ピロリ菌に感染性していたという既往は、将来胃癌の発生リスクを高めるため、その後も定期的に内視鏡検査を行うことが必要です。最近、前述した以外でも、ピロリ菌感染の影響について興味深い研究が報告されました。それは、ピロリ菌感染と重症妊娠嘔吐には関連性があるという報告です。

つわりの症状や発症期間について

今回ご紹介する研究は、ピロリ菌感染が重症妊娠嘔吐患者の長期入院に影響するかについて検討した研究です(Kurashina R, et al.J Obstet Gynaecol Res. 2025 Oct;51(10):e70099. doi: 10.1111 /jog.70099.
PMID: 41054201 )。

つわりは、妊婦の45%から90%に発症する、吐き気、嘔吐、食生活の変化を特徴とする症状で、通常は妊娠7週から12週の間にピークを迎え、ほとんど場合は12〜16週までに自然に解消するといわれています。多くの患者は唾液分泌の増加、味覚の変化、全体的な倦怠感も出現することがあります。さらに症状がつよくなると、脱水による皮膚乾燥、動悸、尿量過少症、過少症、不眠などの症状が現れることもあります。

まれに(妊娠の約0.3%〜2%)重度化することがあり、ほぼ毎日嘔吐し、尿中ケトン体が強く陽性であり、かつ持続的な体重の減少、特に妊娠前の体重と比較して5%以上の減量になると入院が必要と言われています。入院した患者の約10%が長期入院になっています。病気が進行すると重篤な状態になることがあるため、これを防ぐためには迅速な治療開始が極めて重要となっています。

つわりの原因

つわりの病因についてはいくつかの説がありますが、一番の病因としては、妊娠10週目頃にピークを迎える絨毛膜から分泌されるホルモンである『ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)』が関与しているとされています。その他の病因も検討されていますが、最近、ヘリコバクター・ピロリ感染が、重症妊娠悪阻を引き起こす重要なリスク因子として報告されてきています。H. pylori感染は慢性胃炎を引き起こし、炎症促進サイトカインを放出し、吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。加えて、妊娠初期のサイトカインレベル上昇も、H. pyloriへの炎症反応を悪化させ、妊娠悪阻の重症度を高める可能性があります。
また、H. pyloriによる炎症は腸神経系を乱し、さらに胃運動機能を障害し、胃内容物の排出の遅れを引き起こして吐き気や嘔吐の原因となる可能性があります。

重症な悪阻患者を分析した研究結果について

今回ご紹介する研究は、2011年1月から2023年6月までに日本医科大学病院と日本医科大学武蔵小杉病院に入院された重症妊娠嘔吐患者164名のデータを分析しています。
評価項目は、年齢、妊娠出産歴、入院時の妊娠週数、精神疾患の既往歴、不妊治療の既往歴、妊娠前からの体重減少、定性的尿ケトン検査、抗H. pylori IgG抗体価、血液測定値、生化学的検査値、甲状腺機能検査、入院期間が含まれています。

患者は、①抗H.pylori IgG抗体の状態(陽性・陰性)に基づいて2つのグループ、②短期滞在群(<21日)と長期滞在群(≥21日)に分け解析しています。
164名のうち23名(14.0%)が抗ピロリIgG抗体陽性、141名(86.0%)が陰性でした。抗ピロリIgG抗体陽性の患者は陰性患者に比較し入院期間が有意に長く(中央値24日対15日、p = 0.032)、抗H. pylori IgG陽性が長期入院の独立したリスク因子でした(オッズ比4.67、95%信頼区間1.61–13.49、p=0.004)。また、尿ケトン体強陽性患者は陰性患者に比較し、入院期間が延長(中央値19日対12日、p = 0.001)していました。

多変量ロジスティック回帰分析では、抗H. pylori IgG陽性のみが長期入院の独立したリスク因子として特定されました(オッズ比[OR]: 4.665、95%信頼区間[CI]: 1.613–13.489, p = 0.004)。強陽性尿ケトン体の有無で患者を層分けした場合、陽性群の入院期間の中央値は19日(範囲:4–80日)と、陰性群(12日、範囲:2〜55日)と比較して有意に長くなりました(p = 0.001)。

ピロリ菌の除去によって重症な悪阻の治療と予防を

これらの結果から、抗ピロリIgG抗体検査は、重度妊娠悪阻による長期間入院となるリスク患者の特定に役立つ可能性を示唆しており、抗ピロリIgG抗体陽性の妊婦は、より詳細なケアの必要性があるようです。
さらに、症例数が少ない検討ですが、一般の重症妊娠悪阻に対する治療では症状が改善しない患者に対し、ピロリ菌を除去する治療をすることによって症状が改善したとの報告を考慮すると、H. pylori根絶療法が重症妊娠悪阻症状の改善につながるかどうかを調査するための前向き研究を行い、より積極的な戦略としては、妊娠中に治療するのではなく、妊娠前から治療するといった、治療法から予防へと移す治療戦略が取られるべきであると考えられます。
また、このアプローチの重要性は、H. pylori感染と女性不妊の間にも有意な関連が示されており、特に原因不明の不妊症の場合、治療可能なリスク因子である可能性が示唆されています。

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