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糖質の摂取量が将来の健康に影響も〜受胎してから2歳までの1,000日間が大切な理由

齊藤英和 2025年12月18日

子どもにとって、妊娠中の母胎内や乳児期の環境は、将来成長してからの健康状態に様々な影響を及ぼすことがわかってきています。このコラムでも、『妊娠中のカルシウム不足が思春期の鬱発症に関与する(2025年7月)』『妊娠中のストレスが思春期発来を早める(2024年7月)』『プレコンセプションケアが本人だけではなく子どもの健康増進を増進すること( 2024.12月)』など、この影響に関して数多くの研究を取り上げてきました。今回もこのような影響に関する研究成果が公表されたのでお話ししましょう。

受胎してから(受精卵が子宮に着床してから)1,000日間が大切な理由

今回の研究は、母親の妊娠直後から子どもが出生後約2年までのトータル1,000日の間に、社会政策としての砂糖配給制限を受けた場合に、子どもの成長後の心血管系にどのような影響を及ぼすかについて検討した研究です(Zheng J, et al. BMJ 2025;391:e083890)

まず、この研究を行った背景について、お話しします。
国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で指摘しているように、高糖質の食事は世界の食文化に定着しています。また、受胎から2歳までの最初の1,000日は、生物学的感受性が高まる期間であり、その間の食事パターン、病原性曝露、社会経済的条件などの外的要因が、病気の素因に深刻かつ永続的な影響を与えることが考慮されています。最初の 1,000 日間の代謝系と心血管系の成熟は、並外れた可塑性を示し、その発達は栄養、内分泌、およびより広範な環境条件に著しく反応します。さらに、最初の1,000日間の栄養介入は、成人期の非感染性疾患の管理よりも費用対効果が高く、長期的な健康上の利点をもたらすことが示されています。

1日の糖質摂取の推奨量を超えた場合の影響

妊娠中および授乳中の女性は、平均して1日の推奨量の3倍である80g以上の添加糖を消費しており、胎児にとって有害な子宮内環境にさらされる可能性について懸念が生じています。母乳中のブドウ糖含有量は、母親の食事に大きな影響を受けることはありませんが、離乳中に子どもが徐々に固形食品を摂取するようになるため、加工食品に含まれる添加糖にさらされる可能性があります。ある調査では、乳児向けに販売されているこのような製品は、多くの場合、栄養表示に示されているものよりも高い糖度を含み、乳児期に推奨されている1日の摂取量を超えているといわれています。

また、マウスにおいても、妊娠中の高血糖は胎仔の心臓代謝疾患を誘発することが知られていますが、最近の人に関する研究では、母体の代謝状態が、幼い子の心臓の健康状態と関連していることが示されています。たとえば、幼少期の血糖制限が、コレステロールの上昇、心血管疾患、その他の併存疾患、および慢性炎症の有病率の低下と関連しているそうです。 さらに、 19,171組の母子ペアを対象とした研究では、母体の糖濃度が高いと、子の先天性心疾患のリスクが高くなることが判明しています。しかし、砂糖配給制限が子どもの成長後の心血管系の転帰に対する影響は不明のままでした。

糖質の摂取量が「心臓と血管」に及ぼす研究について

今回の研究では、第二次世界大戦中および戦後の公平な食料分配を確保し、食料不足と飢饉を防ぐことを目的とした食料配給プログラムの一環として、1942年7月に導入された英国の砂糖配給政策に基づく『砂糖配給制度システム』による胎児・出生2年までの糖制限が、その後の心血管系に及ぼす影響に検討しています。

このシステムでは、砂糖とお菓子が厳しく制限され、健康に必要な最低限の栄養摂取量を維持するために、科学的に計算された許容量を配給しています。配給制は、砂糖の摂取量を現在の食事ガイドラインと一致するレベルまで削減しています。具体的には、大人は1日あたり40g未満、5歳未満の子どもは1日あたり15g未満の砂糖を摂取しました。

1953年9月の砂糖配給終了後、成人の1日平均砂の糖消費量が著しく増加し、1953年第1四半期の41gから、1954年第3四半期までに約80gに増加しました。重要なことは、砂糖を除く他の食品や栄養素の摂取量は、この期間中に一定に保たれたか、わずかな変化を示したことです。これにより、重要な成長発達期において、砂糖摂取制限が長期的な健康へどのように影響するかについて評価することができる可能性があります。

この研究では、成人期の心血管転帰のリスクに対する受胎後の最初の1,000日間における、砂糖配給の長期的な影響を推定しました。複数の心血管転帰(心血管疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中、心血管疾患による死亡率)のリスクを、配給制の下で、子宮内および乳児期に糖配給制限に曝露された個人と、配給終了後に、より高い糖レベルに曝露された人を比較することにより評価しています。

この研究では、英国バイオバンク研究(UK Biobank study )の参加者データベースを用いています。英国バイオバンクの研究は、2006年から2010年の間に、イングランド、スコットランド、ウェールズの22のセンターで、一般人口から40〜70歳の50万人以上の参加者を募集しました。データ収集には、アンケート、インタビュー、定期的な評価センター訪問、健康記録の連携が含まれ、多様な心理社会的、社会人口学的、身体的、遺伝的変数が含まれています。このデータを用いて、1951年10月から1956年3月の間に生まれた74,213人を特定しました。このうち、2006年から2010年の登録時点で、心血管疾患、心不全、または心房細動の既往のある人 (n = 1612)、英国外で生まれていた人(n=6540)、多胎出産であった人(n = 2398)、または養子縁組の人(n = 66) 、合計10,616人と、この研究の脱落者164人を除外した後、63,433人が分析研究に残りました。このうち40,063人が砂糖配給制度に曝露され、23,370人が曝露されませんでした。

主要アウトカムは、心血管疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中、および心血管疾患による死亡率であり、リンクされた健康記録を通じて確認されました。
ハザード比は、人口統計学的、社会経済的、ライフスタイル、親の健康、遺伝的要因および地理的管理に合わせて調整された、コックスおよびパラメトリックハザードモデルを使用して推定されました。また、MRI(磁気共鳴画像法)で複数の心臓の機能が測定されました。

研究結果から分かった、糖質の摂取量に注意を払う必要性

砂糖配給に長く暴露すると、成人期に心血管リスクが徐々に低下していました。配給に暴露したことがない人と比較して、子宮内プラス1〜2年暴露された人は、心血管疾患で0.80(95%信頼区間(CI)0.73〜0.90)、心筋梗塞で0.75(0.63〜0.90)、心不全で0.74(0.59〜0.95)、心房細動で0.76(0.66〜0.92)、脳卒中で0.69(0.53〜0.89)、心血管疾患死亡率で0.73(0.54〜0.98)と、疾患発症が減少していました。また、糖配給制限による心血管疾患発症に及ぼした影響のうち、2型糖尿病を介して23.9%、高血圧を介して19.9%の割合で影響しており、これら両方の因子を合わせて解析すると、31.1%が両疾患を介して心血管疾患発症に影響していました。一方、出生体重を介した影響は、わずか2.2%だったそうです。

また、砂糖配給制限は、左心室一回拍出量指数のわずかな増加 (0.73(95%CI 0.05〜1.41)mL / m2、および駆出率(0.84%、95%CI 0.40%〜1.28%)とも関連していました。
妊娠後から幼少期のトータル1,000日間の砂糖配給制限は、成人期の心血管リスクの低下と、心臓指数のわずかな好転に関連しており、幼少期の砂糖制限が長期的な心血管系への効果を示めしています。
 このことは、私たちに、妊娠後から幼児時期に糖質摂取に注意を払うことの重要性を示しています。

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