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大規模研究からわかった『子どもの頃の有害な経験』によって高まる子宮内膜症のリスク

齊藤英和 2025年11月19日

子宮内膜症については、このコラムで何回か取り上げるほど、とても重要な疾患です。この疾患があると不妊症になりやすく、また、月経時に月経痛がひどくなりやすいため、薬を服用したり、休んだりと、仕事に支障をきたすことが多いことが知られています。最も新しいところでは、2025年8月に子宮内膜症があると閉経が早くなるということ、2023年7月、2024年11月には歯周病と子宮内膜症の関係をお話ししました。
今回も、興味ある研究(Marika Rostvall M. et al. Hum Reprod. 2025 Sep 1;40(9):1735-1743. doi: 10.1093 /humrep/deaf101.)があったのでお話します。

子宮内膜症の要因について

子宮内膜症の要因については、様々な説があります。その中でも一番の理由として説明されているのは、月経血が卵管を逆流して腹腔内に達し、月経血中に含まれる子宮の内膜から剥離された細胞が、子宮周囲にある卵巣や骨盤腹膜に生着し、増殖するという月経逆流説です。月経血の逆流は約90%の人に見られる現象ですが、月経血の逆流を認めた方のすべてが子宮内膜症にはなっておらず、月経血の逆流に加えて何らかの要因が関与している可能性があります。歯周病の菌も、そのプラス要因の一つなのかもしれません。

小児期の虐待と子宮内膜症のリスクについての大規模研究

これまでにも小規模ですが、いくつかの研究が行なわれ、小児期の虐待と子宮内膜症のリスク増加との関連が指摘されています。今回お話しする研究は、とても大規模の前向きコホート研究で、1974年から2001年の間にスウェーデンで生まれ、2人の生物学的親(n = 1,387,933)が特定されたすべての女性を対象に、スウェーデンの医療出生登録簿などのデータを使用した登録ベースの全国コホート研究です。
データソースとしては、下記のデータが使用されました。

① 医学出生登録簿 (MBR): 妊娠、分娩、新生児に関する統計。
② National Patient Register (NPR): 1964 年以降の入院期間からのスウェーデン語版の国際疾病分類 (ICD) を使用した診断に関するデータ。
③ 健康保険および労働市場研究のための縦断的統合データベース (LISA): 個人レベルでの健康保険、親保険、失業保険に関する詳細なデータ。
④ スウェーデンの子どもと若者のための措置登録簿 (SNRMCY): 社会サービスによって家庭外ケアに預けられたすべての子どもに関する情報。
⑤ 総人口登録簿(TPR):スウェーデンのすべての市民に関するデータと、出生、死亡、市民権の変化、家族関係、住宅、スウェーデン国内および他国への移住などの重要な人生および人口統計学的出来事に関する情報。
⑥ 死因登録簿 (CDR): 1961 年以降にスウェーデンで登録されたすべての人々の死亡に関するデータ。

研究対象者は、出生時にすべてのスウェーデン居住者に割り当てられた個人識別番号を使用し、スウェーデンの健康および行政登録簿にリンクされています。15歳未満で死亡、移住、または子宮内膜症の診断を受けた女性、および養子縁組された女性は除外され、1,316,946人の女性が分析対象に残りました。養親が少なくとも1人いるスウェーデン生まれの女性は、養子縁組日に関する情報が不足しているため除外されました。

これらの症例を研究対象として、小児期の逆境は、その後の子宮内膜症の診断と関連しているかについて検討しています。子宮内膜症の評価は、ICD コード 617 (ICD-9) および N80 (ICD-10) を使用した NPR において、子宮内膜症が主診断、または二次診断された症例と定義されました。子宮内膜症の過小診断と診断の遅れに対処するために、子宮内膜症の評価は、月経困難症と診断された症例を含むことと定義しました。月経困難症は、ICD コード 625D (ICD-9) および N94.5 および N94.6 (ICD-10) を使用した NPR において、月経困難症が主診断または二次診断された症例と定義されました。

また、幼少期の不利な経験の評価は、子どもの家庭または社会環境内において、長期間社会的または健康上の悪影響に関連するトラウマ的な出来事、または長期にわたる苦痛状態のさまざまな登録ベースの指標を使用して定義しました。
下記の項目が含まれます。

• 親の薬物乱用:少なくとも 1 人の親が薬物乱用と診断されている。
• 親の知的障害: 少なくとも 1 人の親が知的障害と診断されている。
• 親の精神障害: 少なくとも 1 人の精神障害の診断を受けた親が入院。
• 家族の死亡:指標となる人の15 歳の誕生日より前に親または兄弟が死亡したこと。
• 10代の親:少なくとも片方の親が子どもの誕生年に10代であること。
• 児童福祉介入:15 歳までに少なくとも 1 回在宅ケアを受けたこと。
• 親の別居: 16 歳で両方の実の親と同居していないこと。
• 居住の不安定性: 15 歳までに、居住地が2 年を超えて変わることがあったこと。
• 公的扶助を受けている: 指標となる人の世帯が 16 年目に公的社会扶助を受けている。
• 暴力への曝露: 15 歳未満で対人暴力に関連するICD コードで診断されている。
• 親の暴力への曝露: 少なくとも 1 人の親が対人暴力に関連する ICD コードで診断されている。

その他の項目として、対象者の出生地域と最高教育レベル(初等教育以下、中等教育、中等教育以上、または不明に分類)に関するデータは、LISAから取得されました。在胎週数に対して小さく生まれた(SGA)というデータは、MBR から取得されました。

研究結果からわかった小児期の有害な経験(ACE)の影響

対象者には、研究終了時までに平均32歳の1,316,946人の女性が対象となっており、合計22,516,511人年の追跡調査が行われました。全体として、研究対象者の1.9%が追跡調査中に子宮内膜症と診断されました(n = 24,311)。子宮内膜症と最初に診断されたときの平均年齢は 29 歳でした。研究集団の5.3%にあたる女性が、追跡調査中に子宮内膜症、月経困難症、またはその両方と診断されました(n = 69,858)。親の別居は最も一般的なACEであり、研究対象集団の3分の1以上が経験しています。最も一般的でないACEは暴力への曝露であり、研究集団の1%未満でした。
家族死亡を除くすべての項目のACEが子宮内膜症診断のリスクの増加と関連しており、ハザードリスク(HR)は1.2(10代の親がいる場合)から2.4(暴力にさらされた場合)の範囲でした。出生年、出生地域、および SGA の調整は、結果に実質的な影響を与えませんでした。

また、ACEの数が増加するにつれて、子宮内膜症のリスクが増加する傾向もありました。単一のACEを経験した個人は、ACEを経験していない人と比較して、子宮内膜症のリスクが20%増加しました(HR = 1.20;95%CI = 1.17-1.24)。5つ以上のACEを経験した人は、リスクが60%増加しました(HR = 1.61;95%CI 1.37-1.88)。

子どもたちの将来の健康のためにできること

これらの結果から、親の薬物乱用、親の知的障害、親の精神障害、10代の親を持つこと、児童福祉の関与、親の別居、居住の不安定さ、公的扶助の受給、暴力の曝露、親の暴力の曝露などの小児期の逆境状況は、子宮内膜症のリスクの上昇と関連しており、逆境項目の数が増えるにつれてリスクは増加し、さらに幼少期の逆境が将来の健康に重大な影響を及ぼすことから、子どもを保護し、親を支援するための効果的な政策が必要であると考えられます。私たちは、子宮内膜症発症の潜在的な危険因子として、小児期の逆境があることを認識し、小児期の逆境を経験し、骨盤痛や月経困難症を呈する個人に対しては、相応の対応が必要であると思われました。

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