ワンモア・ベイビー・ラボ
【パパ育休の実態と本音】会社初のパパ育休取得に挑戦!、工夫を重ねて見えた「取ってよかった理由」=前編
秋山 開
2025年12月12日
「男女の仕事と育児の両立支援」を目的に、父親が育児休業を取得するための制度が整ってきています。厚生労働省によれば令和6年度の〝パパ育休〟取得率は過去最高の40.5%に達しました。
実は、夫の家事育児の時間が長くなるほどに、第二子の出産率が高くなる*こともわかっており、パパ育休は日本が抱えている出生率の低下や人口減少に対する1つの対策としても注目を浴びています。
しかし、企業や地域ごとに温度差があるのも確か。まだまだパパ育休取得へのハードルは残っています。そこで本連載では、実際にパパ育休を取得した家族へのインタビューを実施し、その実態や本音について迫ります。
育休を取るか悩むかた、うちの会社で取れるはずがないと考えているかた、子育て世代の部下をもつかたなどへのヒントとなれば幸いです。
(*厚生労働省「第14回21世紀成年者縦断調査(2002年成年者)の概況」)
【プロフィール】
夫:木村 拓海(32歳/仮名)小売・外食事業会社 勤務
妻:木村 典子(27歳/仮名)NPO法人 勤務
子:1人(2025年3月生まれ)
お住まい:宮崎県
【結婚・出産までの過程】
大学生時代に文化イベントの運営をつうじて出会い、交際に発展。その後、約5年の遠距離交際を経て結婚。その約1年後、第一子を妊娠・出産。
【育休期間】
夫:2025年3月~2026年3月(予定)
妻:2025年3月~2026年3月(予定)
(取材日:2025年8月某日)
前例ゼロの会社で「パパ育休」に挑戦した理由
今回ご紹介するのは、2025年3月に生まれた第一子を子育て中の木村拓海さん(仮名)、典子さん(仮名)夫婦です。
実は、拓海さんが勤める地域に根ざした正社員が100人弱の会社は、これまで育休を取得した事例が1人だったそうです。それも取得したのは女性(ママ)。男性の育休取得は前例がありませんでした。
それにもかかわらず、育休を取得したのはなぜか。そのきっかけについて拓海さんは、「育休への根底的な考え方をつくった経験と、現実的に育休の取得を固く決意した出来事がある」といいます。どういうことなのでしょうか。
「将来、自分に子どもができたら育休を取ろうという私の根底的な考えは、母親をみてきた経験から生まれたものだと思っています。専業主婦だった母は、長男である私と2歳違いの弟、12歳下の妹を育ててくれました。すべての家事をこなしながら、父が仕事から帰ってきたら食事の準備もする……本当に自分の時間がないという感じでした。一方で、私たち3人の子どもが独り立ちしたあと、自分の好きなことで仕事を始めたんです。その姿が本当に生き生きとしていて、専業主婦ではなかったほうが幸せだったのではないかと思いました。だから、自分が家族を持ったら、同じ道を歩みたくないなと……」
そうした原体験があった拓海さんは、小学生のころから料理や洗濯などの手伝いを買って出ていたそうです。そのうえで、社内での前例がなかったパパ育休を実際に取得しようと考えたのは、別の理由もありました。「もちろん、2人で一緒に子育てをしたいという夫婦で合致した気持ちがありましたけれど」と前置きをしたうえで、拓海さんはこう続けます。
「『絶対に育休を取得する。もし断られたら会社を辞める』と断固たる強い思いに至ったのは、妻の状況を考慮したためです。以前に勤めていた会社は適応障害になって転職を余儀なくされ、現在の職場でも精神的な負担を感じているなかでの妊娠でした。もともと彼女は生理のときのイライラが激しかったこともあって、『なるべく負担を減らしてあげたい』と。そういう思いで、育休取得への気持ちがより強くなりました。もちろん一緒に子育てをしたいという気持ちもありました」
辞表も携えて。平坦ではなかった育休取得までの道のり
育休取得までの道のりは決して平坦ではありませんでした。先にも書いたように、拓海さんが勤める会社自体に、男性の育休という前例がなかったからです。
「最初は、『念のために聞きたいんですけど、子どもができたら育休は取れますか?』と会社の全体会議でフランクに話を振ってみました。そのときの反応は、『ああ、取っていいんじゃない?』というものでした。でも、いざ妻の妊娠がわかり、そのことを報告したうえで『育休を取ろうと思っている』と上司に伝えたところ、『え、本気だったの? ちょっと待ってくれ』と渋るような反応に変わっていました」
しかし、拓海さんは直属の上司の渋い反応にも、心は揺らぎませんでした。実は、妊娠が判明する半年ほど前、創業社長から次期社長への体制変更の話が出ていたそうですが、その流れのなかで次期社長と複数回の面談がありました。「チャンスだ」と感じた拓海さんは、「もし子どもができたら育休を検討している。自分が抜けたことで会社に迷惑をかけないよう全力で臨むつもりだ」ということもつたえていました。
「その後、妊娠が判明するまでの半年間で世代交代が起き、新社長に変わりました。新社長は私の育休取得宣言を覚えていてくれたようで、育休を認めてくださいました。上司のほうも、新社長と話をするなかで、考え方を変えたみたいです」
上司の考え方は、どのように変わったのでしょうか。拓海さんはこう言います。
「『今後10年、20年と会社が続き、成長するためには、育てた若い世代を会社に残すことを考えないとだめだな。じぶん自身の考え方を変えることにするわ』って言ってくださり、穏便な育休取得となったのです」
ただ、上司の考えが変わり、育休取得の許可が降りるまでは3ヶ月ほどのタイムラグがありました。その間、気が気でなかった拓海さんは、辞表を片手に転職活動をすることすらあったようです。
「入社してすぐに育休が取れたというところを探して、転職活動をしたこともありました。実際、面接官から『育休はいつでも取れる』と聞きました。結論からいえば、採用に至りませんでしたが……。振り返ってみれば、中途採用で初っ端から育休を取りたいと宣言しているような人は、相当な良い人材出ない限り採用しないですよね(笑)」
その3ヶ月間、拓海さんが勤める会社では、上層部での社内会議が繰り返され、育休の是非についてかなり議論が交わされたのだとか。
「会社自体、40〜50代の男性が多く、育休に対する理解度は高くなかったようです。でも、新社長が粘り強く説明し、『考え方を変えないといけない』と説得したことで、ようやく許可を出すという結論に至ったらしいです」
「自分が抜けた穴の塞ぎ方」まで考えて提案し、実行してから育休に入った
拓海さんが勤める会社は、九州地方で複数の小売業や飲食店のフランチャイズ経営などを行っています。そうしたなか、拓海さんは新たに出店する飲食店の店長に任命されました。飲食店の店長。それも新出店となれば、かなり忙しそうですが、育休はスムーズに取得できたのでしょうか。
「あくまで私のやり方であって、どこまで参考になるかわかりませんが……」としたうえで、こう話します。
「私は妻が妊娠中に店長に任命されたのですが、常日頃から『店長がいなくても回る店舗づくり』を意識して取り組んでいました。そのために、店長を含めた正社員がいなくとも、パートやアルバイトの方たちで、人員の配置、スタッフの教育、発注と金銭管理、クレームの初期対応ができる店舗にすることを目指しました。もちろんそれには、パートやアルバイトのみなさんの状況とスキルを正しく把握することや、追加で人員を雇用するかどうかをマネジメントすることも不可欠ですので、それらを常に考えていました」
そして、お店のオープン後5〜6ヶ月経って店舗の状態が安定してきたところで、副店長への引継ぎを行っていったと言います。
「私の下に副店長がいましたので、その者に引継ぎを行いました。具体的には、パートやアルバイトの方々への指導および仕事をするうえでの心構えを重点的に伝えました。責任の所在を店長にして明確にしたうえで、カスタマー対応の初期応対の基本をしっかりと教えれば、パート・アルバイトは仕事をしやすくなります。あとは個人個人が責任感を持って仕事に取り組むように意識教育を行えば、自ずとしっかりとした人しか残りませんので、店舗は回しやすくなります」
そうした自分が店長の間に実践してきたことを副店長に伝えたうえで、「受け持つ店舗からたとえ1年離れても大丈夫だと言える状態にした」と、拓海さんは自信をもって上司に伝えました。実際、上司も納得していたようです。
「育休に入る2ヶ月前に私自身は店長職を退き、副店長を店長へと昇格させた体制へと移行させることができました」
副店長は、店長になったことでタスクは増えましたが、その分、基本給が上がったのだといいます。一方の拓海さん自身は、店長職を退いたものの、「待遇面での変化はなかった」と言います。
その後、1ヶ月をかけて事務方の引継ぎも行い、並行してパートやアルバイトの方々への接客指導も終わらせていきました。
「育休前の最後の1ヶ月は、別の既存店での店長補佐という役割でスタッフの指導を行いました。とにかく会社や店舗に迷惑をかけないようにしました」
(後編へつづく)









