本当は2人以上の子どもが欲しいにもかかわらず、その実現を躊躇する「二人目の壁」。1more Baby応援団が全国の子育て世代の約3000人に対して行った調査では、7割以上の方がこの「二人目の壁」を感じていると回答しています。
この記事では、そんな「二人目の壁」を実際に感じている方、感じたことがある方に行ったインタビューの内容をご紹介しています。もしかしたら、あなたの「二人目の壁」を乗り越えるためのヒントが見つかるかもしれません。
今回ご紹介するのは、9ヶ月のお子さんをもつ駒井リサさん(32歳・仮名)ナオキさん(31歳・仮名)夫婦です。薬剤師としてキャリアを積んでいるリサさんは、「子育てだけをする人生は自分に合わない」と考えています。そのなかで希望する複数の子どもを産み、育てるためにはどうしたらいいかを逆算してプランを立ててきました。
しかし、プランのなかにあったSE(システム・エンジニア)として働くナオキさんの育休取得が、〝職場の事情〟により流れてしまったことで、リサさんは第二子を妊娠・出産するかどうか、迷い始めているといいます。
そこにはどういった考えや逡巡があったのでしょうか。詳しく聞いていきます。
この記事の目次
○30歳を目前にしてマッチングアプリに出会いを求めた
○妊娠・出産は35歳までに。その理由は自分自身のキャリア形成のため
○会社事情で育休が取れなくなってしまった
○自分では気づかなかった不安症。黙って支えてくれた夫の気遣い
○「2人目は欲しいけれど躊躇っている」。その理由とは?
○1人目のときのワンオペ育児で感じた〝漠然とした不安〟が心に引っかかっている
30歳を目前にしてマッチングアプリに出会いを求めた
駒井さん夫婦はマッチングアプリを通じて出会いました。2021年のことです。マッチングアプリを利用したのは、リサさんもナオキさんも結婚を前提にした出会いを求めていたからです。
とくに薬剤師として働くリサさんは、職業柄にも職場環境的にも、異性との出会いが少ないことから、アプリを通じた婚活に取り組むことにしました。その背景にはリサさんが立てていた人生プランがあったようです。
「30歳が近づいてきたときにマッチングアプリを使い始めた理由は、35歳までに出産をしたいという人生プランがあったからです。それも希望としては2人か3人という数字が頭にありましたので、医学的な観点からいくと35歳が目安になると考えました。キャリアの観点で考えたときにも、わたし自身は『やりがいを感じているいまの仕事をしっかりと続けていきたい』という思いを持っています。子育てのあとにキャリアを積んでいくことを考えても、やはり出産は35歳までに済ませたいな、と」
そうしたなか、アプリを介して出会ったのがシステム・エンジニアとして働くナオキさんでした。年下だったものの、結婚を前提にした交際を望んでいたナオキさんは、リサさんの「結婚願望が強い人」という条件にあてはまりました。実際に会ってみると、話がしやすく、3回目のデートで交際をスタートさせました。
「結婚したのは、それから1年後のことです。実家が近かったわたしの両親とは半年前に挨拶を済ませました。夫の実家は中国地方と遠方で、コロナの影響もあったので結婚式の前日にはじめて顔を合わせましたが、プランどおり30歳になる前に結婚できました」
妊娠・出産は35歳までに。その理由は自分自身のキャリア形成のため
子どもは2人もしくは3人を希望している一方で、「自身のキャリアを止めるという考えは自分のなかにはない」と語るリサさん。そこにはどういった背景があるのでしょうか。
「薬剤師として働き続けたいというのは、あたりまえかもしれませんが、わたしの親が学費を出してくれたおかげで大学の薬学部に通えたという思いがあるからです。もちろん親のためだけではないんですけど、やっぱり自分のなかでは働き続けることが当然だと思っているし、そのなかで自分が活躍できる仕事が薬剤師だと考えています」
そうした思いを強くさせた出来事もありました。それは新卒で入社した会社でのこと。
「薬剤師として新卒入社で入った会社は、全国転勤があるところでした。そこで頑張ってキャリアを築こうと頑張っていた最中に、実父の体調が悪くなって、実家の近くに引っ越しせざるを得ないことがありました。だから自分のキャリア形成に納得いっていない部分があって、20代後半になるまでは恋愛も結婚も二の次という生活をしていました。そうしたこともあって、子どもはもちろん欲しいのですが、その前にわたし自身が1人の人間として自己実現をしたいという思いを強く持っています」
30歳が近づいてきたとき、あらためてリサさんは結婚と妊娠・出産のことを考えました。その際、「35歳までに子どもを妊娠・出産し、ふたたび仕事に戻って、キャリア形成と子育てを両立させていく」という人生プランをイメージしたのだといいます。
実際、結婚とほぼ同時に妊活を始めた駒井さん夫婦。その3ヶ月後には妊娠が判明しました。
「夫と相談して、すぐに妊活に取り組みました。そのときにはすでにわたしの年齢が30になっていたので、何ヶ月か基礎体温計と排卵検査薬を使ってトライして、うまくいかなかったら、すぐに病院に行こうという話もしていました。幸いなことに、3ヶ月後に妊娠できましたが」
妊娠中は、食べづわりやナオキさんがコロナや溶連菌に感染するなどを経験しつつも、無事に第一子の出産をむかえることができました。
会社事情で育休が取れなくなってしまった
出産後、リサさんは早期での職場復帰を考えていました。そのサポートのためにも、ナオキさんは育児休暇を取得する計画を立てていましたが……。
「育休は1〜3ヶ月で取得予定だったんですが、出産の数ヶ月前になって、関わっているプロジェクトが変更になったことでダメになってしまったんです。取りづらい雰囲気になったのか、実際に取れなくなったのかは定かではないんですが、すごく申し訳なさそうにしていました」
ナオキさんが育休を取れなくなってしまったことに加え、実家のサポートを受けるため里帰りをするという選択肢も選べなかったとリサさんは言います。
「年の離れた妹がいるのですが、彼女がちょうどわたしと同じ薬剤師の国家資格の勉強中で、里帰りが選べませんでした。だから、基本的にはわたしが1人で赤ちゃんのお世話をするという状況になりました」
自分では気づかなかった不安症。黙って支えてくれた夫の気遣い
一方で、育休を取れないなかでも、ナオキさんはできる限りのサポートをしてくれました。
「たとえば夜中に関しては、最初のほうは赤ちゃんが起きて泣いたら夫婦で2人とも起きて、ミルクを用意するのと抱っこしてあやすのを手分けしていました。ただ、途中からは夜を二分割して当番制にしました。夜中の3時までだったら夫が対応して、それ以降だったらわたしが対応するという役割分担が多かったですね」
ナオキさんのサポートが手厚かったのは、リサさんが自覚できずにいた精神的な不安定さにナオキさんが気づいていたからなのかもしれません。
「いま(生後9ヶ月)になって夫から聞いたのですが、出産してから仕事に復帰する半年くらいまでは、神経が過敏になっていて不安症のような状態だったようです。思い返してみると、はじめての子育てっていうことで、お風呂に入れるのとかが、漠然と怖くて、自分以外の誰かがいないと沐浴ができないとか、そういう不安がずっとつきまとっていました」
腰がしっかりして座れるようになったり、生後半年から通い始めた保育園で自分以外のおとなが子育てに関わるようになったりしたことで、漠然とした不安は消えていったと言います。
「2人目は欲しいけれど躊躇っている」。その理由とは?
生後半年で復職をした理由について、リサさんはこう話します。
「やはりいちばんはわたしの薬剤師としてのキャリアを考えての復帰です。わたしが働いているのは調剤薬局なのですが、薬剤師がたくさんいるところと、必要最低限の人数でまわしている小規模のところがあって、うちは後者なんです」
具体的には薬剤師1人と医療事務が1人という体制でまわしているそうです。そのなかでリサさんは薬剤師兼責任者という立場。
「早くその任された仕事に戻りたいという気持ちが強かったですね。夫に対しても会社に対しても、『保育園さえ問題なければ半年で戻るつもり』と伝えていました」
会社からは「無理しなくてもいい」と言われ、実際に復職後には会社の人たちに驚かれもしたのだとか。一方のリサさん本人としては、復職をして心が落ち着いた面が少なからずあったようです。
「わたしは、『ほかの人にも任せていい』という状況になったことで安心できたのだと思います。半年で復帰というと『そんなに早くて大丈夫? しんどくない?』という意見もあるのかもしれないけれど、自分的には働き始めてからのほうが気持ちは楽になりました」
35歳までに2人あるいは3人となると、2人目までの猶予はあまりありません。駒井さん夫婦にはどういったプランが浮上しているのでしょうか。
「実を言うと、揺れ動いています。そもそも夫の理想は、年子で3人をつくることでした。自分が年齢の近い3きょうだいで、それがすごく楽しかったからです。でも、肉体的にも精神的にも年子を育てるというのは、大変なのが目に見えているので、現実的には2歳差が最短ではないかと言っています。そうなると35歳までに産むことを考えたら2人が限度ですよね。夫の考えは、2人であっても、きょうだいはつくってあげたい思いが強いようです」
一方でリサさんは、少し異なる意見を持っています。
「わたしは、妹と7年の年齢差があって、一人っ子のような環境で育った記憶が強くあるんです。世の中的には一人っ子は寂しそうとかって言われたりすると思うんですけど、わたしは妹ができるまでの期間が楽しくて、一人っ子に対してよいイメージがあります。限られたお金のなかで、さまざまな教育や経験をさせてあげたいと考えると、一人っ子も悪くないと考えています。ただ、夫のいうとおり、きょうだいの関わりみたいなものももちろん見たいし、2人目が欲しいか欲しくないかでいったら、それは欲しいです。要は揺れ動いているんです」
1人目のときのワンオペ育児で感じた〝漠然とした不安〟が心に引っかかっている
そうした気持ちの揺れ動きに関しては、ナオキさんが育休を取れなかった影響もあると言います。
「あのときに経験したワンオペ育児の不安をもう一度経験するのかと、億劫になる側面もあります。夫は、『次は絶対に育休を取る』という話をしてくれていますが、(1人目のときのように)実際にはどうなるかわかりませんし。こうした話し合いは夫婦間で頻繁に行っていて、2人目が生まれて育休を取得し、保育園を入れるタイミングから逆算すると、夏くらいに妊活をしたらいいかもしれない、といった具体的なところまで議題にあがっています」
そうした話し合いは、駒井さん夫婦のなかでどちらかというとナオキさんのほうが積極的なのだとか。
「わたしの計画的な性格が夫にも移ってしまったのかもしれませんね(笑)。彼からしたら、わたしがそういった細かなことを気にするのがわかっているから、先回りして提案してくれているのだと思います。その延長で、無痛分娩の話も出ています。少しでも負担が減らせるのならば、『無痛分娩のほうがいいよね』と。いずれにしても変わらないのは、わたしは自己実現のためにも35歳までに出産を終えたいというところです」
最後に、リサさんは2人目に関して悩んでいる人たちに向けて、こう語ってくれました。
「2人目や3人目がほしいという気持ちはあるけれど、一方で自分の人生だから、自分自身が実現したいこともイメージしながら動いていく必要があると思っています。子どもの親である前に、母親自身が1人の人間なので、自己実現も大切ですから。そういった板挟みのような気持ちの女性、母親もいるということを知ってもらったり、同じような境遇のかたに『自分だけじゃない』と思ってもらえたりしたら嬉しいです」
リサさんのように、〝欲しい気持ちはあるけれど、踏み留まっている〟と悩む人は、世の中に少なくありません。そして意外とそういった人の素直な気持ちは見えにくかったりするものです。みなさんの心にも響くものがあったのではないでしょうか。
揺れ動く素直な気持ちをお答えいただき、ありがとうございました!