8月のコラムでは、ビタミンDと鬱の関係について取りあげました。今月の記事でご紹介する新しい研究を探していると、再度、ビタミンDに関する興味深い研究がありました。まだ確定とは言えませんが、これまでもビタミンDは体外受精による治療の際に妊孕性を高めることが示されてきたことを考慮すると、ビタミンDは生殖領域において、とても重要な役割を担っている物質なのかもしれません。

この記事でご紹介するのは、プレコンセプション時期の血清ビタミンD濃度が妊娠結果に及ぼす影響についての研究です(DiTosto JD, et al. Fertil Steril 2024 Aug 20: S0015-0282(24)01963-0. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.332.)。この研究は、掲載が決まったばかりの新しい研究です。

血清ビタミンD濃度が妊娠結果に及ぼす影響について調べた研究概要

これまでの研究では、体外受精治療症例が主でしたが、今回の研究の特徴は、3つあります。

① 体外受精治療症例(17.7%)、卵巣刺激症例群(16.6%)、人工授精症例群(38.6%)、無治療症例群27.1%と、比較的負担の少ない治療を行っている症例が多い。

② 男性のビタミンD濃度の影響について検討している。

③ 体重指数(BMI)の影響について検討している。

この研究では、女性および男性パートナーの妊娠前のビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D))レベルと、ビタミンDに関連するバイオマーカーが、出生率、流産率、および精液の質に与える影響があるかを検討しています。 対象は、2013年から2017年にかけて、米国のユタ州、アイオワ州、イリノイ州、ミネソタ州の生殖内分泌学および不妊治療研究センターで不妊治療を希望したカップルです。また、男性が癌などの治療不良の慢性疾患、閉塞性無精子症、または他の既知の不妊原因を持っている場合は、そのカップルは対象外としています。カップルは9ヶ月間(この間に妊娠した人は、妊娠からさらに+9ヶ月間まで)観察されました。出生および流産は、自己報告および医療記録で確認しています。精液検査は登録6ヵ月後に行われ、全部で2,370組のカップルがこの研究に登録されました。

この研究ではBMIも調査していますが、BMIは慢性炎症と関連しており、ビタミンDには抗炎症作用があるため、妊娠前の血清ビタミンD濃度の不妊治療への効果がBMIによって影響をうける可能性があるため、BMIの影響についても分析しています。

個人のビタミンDの状態は、米国医学研究所(IOM)および米国内分泌学会のカットオフポイントに基づいて、欠乏(20 ng/mL未満)群、不十分(20ng/mL以上-30g/mL未満)群、または十分(30 ng/mL以上)群に分類しています。また、体重に関しては、正常体重群(BMI<25)、過体重群(25BMI<30)、肥満群(30BMI)に分類しています。交絡因子としては、出産歴、年齢、身体活動、栄養状態、BMI、人種、試験登録前の妊娠を試みた期間、登録の季節、教育レベル、および治療割り当てを考慮しています。

この分析に含まれる2,370組のカップルのうち、19.5%(N = 463)の女性が25(OH)D欠乏症であり、平均+標準偏差は14.9 ± 3.8 ng/mLでした。25(OH)Dが不十分な女性(39.3%、N = 931)は24.8 ± 2.8 ng/mL、十分な女性(41.2%、N = 976)は39.3 ± 10.2 ng/mLでした。欠乏症の男性30%(N = 709)の平均+標準偏差の25(OH)Dレベルは14.6 ± 3.5 ng/mLであり、不十分な男性40.7%(N = 964)は24.5 ± 2.8 ng/mL、十分な男性9.4%(N = 697)は37.5 ± 8.2 ng/mLでした。

男女共に出生にビタミンDが関連するも、体重が過体重、肥満の方は注意

ビタミンDが十分な女性は、欠乏している女性に比べて出生の可能性が28%高値となりました(95%CI、1.05–1.56)。正常BMIを持つ男性または女性においては、ビタミンD状態は、出生と関連していました(ビタミンD十分群 vs. 欠乏群:女性調整リスク比[aRR]、1.39; 95%CI、1.00–1.99; 男性:aRR、1.51; 95%CI、1.01–2.25)。また、肥満女性((30BMI)においても、ビタミンD状態は出生とやや関連していましたが、有意な関連ではありませんでした(十分 vs. 欠乏:aRR、1.33; 95%CI、0.95–1.85)。肥満と体重増加は慢性炎症と関連しており、これは生殖能力に対する負の効果を示します。ビタミンDは抗炎症特性を持っていますので、正常なBMIの個人は、過体重または肥満に分類された人々よりも慢性炎症レベルが低い可能性があり、ビタミンDが生殖能力を改善するのにより効果的に機能する可能があります。これらの結果より、体重が過体重、肥満の方では、BMIを正常化することでカップルの生児獲得率の向上を図ることができる可能性があります。

男女両方のパートナーがビタミンD高値のカップルでは、出生率が上昇する可能性があります(男女両方のパートナーのビタミンDが欠乏していない(十分群+不十分群)カップル vs. 両方が欠乏している群: aRR、1.26; 95%CI、1.00–1.58)。しかし、流産や精液の質とビタミンDの状態との間には関連性は観察されませんでした。

全体的なモデルでは、男性の25(OH)D濃度による出生の可能性に有意差はありませんでした。しかし、BMIで分類すると、妊娠前の25(OH)Dレベルが正常BMIの男性では、生児獲得率と正の関連がありました(不十分 vs. 欠乏症:aRR, 1.60; 95% CI, 1.11–2.33; 十分 vs. 欠乏症:aRR, 1.51; 95% CI, 1.01–2.25)が、過体重または肥満BMIの男性では関連がありませんでした。流産に関しては、女性または男性の25(OH)Dステータスは、全体的またはBMIで分類しても、関連はありませんでした。

生殖に重要な役割を持つビタミンD

これまでの体外受精症例での研究からも、ビタミンDの生殖における重要性は、精子形成、卵胞形成、着床などの重要な過程に関与していることから明らかであり、ビタミンD受容体は、視床下部や男性および女性の生殖器官などの中枢および末梢の生殖器官に存在することを考慮すると、ビタミンDの生殖に対する役割を確認し、理解することは重要であり、サプリメントや食事などの低コストの介入で、生殖領域における健康を向上させる可能性があると考えられます。