日本人女性の閉経の平均年齢は約51歳と言われていますが、個人差が大きく、早い人では40歳台前半、遅い人では50歳台後半に閉経を迎えます。
40〜45歳までに閉経してしまう場合を「早期閉経」と言い、さらにそれよりも若い年齢で閉経してしまう場合を「早発卵巣不全」と言います。
では、どのくらいの割合の人が早発卵巣不全になるのでしょうか。1950年代のアメリカでは、全体で1%の女性が発症しているというデータがあります。
しかし、近年では40代までに閉経する人がアメリカでは1.6%、スウェーデンでは1.8%と、1〜2%の女性が40代までに閉経していると言われています。
この割合には民族差があり、東洋人は少ない方と言われていますが、発症年齢は早い方だと10代で、初潮が来てすぐに無月経となるケースもあります。
早発卵巣不全の症状とリスク
早発卵巣不全になると、まず月経不順、無月経となります。卵胞が発育しなくなり、排卵がなくなるので、治療が難しい不妊となります。
根本的な問題は、女性ホルモンが不足してしまうことです。女性ホルモンが欠乏することで、美容的な問題から、心筋梗塞、骨粗しょう症などの健康上の問題にまで発展する場合もあります。また、認知症が多くなるというデータもイギリスなどでは発表されています 。
早発卵巣不全の原因
早発卵巣不全と診断がつく人の10〜15%には、染色体異常が見られ、その場合、30代〜40代で発症するケースがあります。染色体異常は比較的簡単に診断できます。
また、早発卵巣不全の方の多くは何らかの遺伝的バックグラウンドを持っていると考えられますが、一部の方を除いてどの遺伝子にどのような異常があるかは分かっていません。
早発卵巣不全と診断された方の30%は膠原病や甲状腺疾患などのいわゆる自己免疫疾患の素質を持っており、一部の方は橋本病などの自己免疫疾患を発症していらっしゃいます。その場合、特殊なステロイドを使用した治療などを行っていきます。
早発卵巣不全の兆候と受診の目安
まだ閉経には早い時期に無月経が続いている、または稀発月経(月経の間隔が2-3ヶ月以上と長くなること)の場合、早発閉経の可能性が考えられます。もし、早発卵巣不全のリスク要因がある場合は、産婦人科で定期的にFSHやAMHの検査を受けることを推奨します。
通常、閉経が近づくと月経周期が短くなり、その後は間隔が長くなる傾向がありますが、これまで順調だった月経が突然止まることもあります。月経が数ヶ月来ない場合は、婦人科の受診をお勧めします。
さらに、ホットフラッシュ(のぼせやほてり)、多量の発汗などの症状が見られた際は、卵巣機能の低下が疑われるため、特に早めの診察が必要です。
早発卵巣不全の治療と妊娠への備え
治療には、基本的にホルモン補充療法が必須です。具体的にはエストロゲン(女性ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を組み合わせて投与していきます。女性ホルモン不足を放っておくと、多くの健康上のリスクを伴います。そのため、まずは女性ホルモンを補充し、生理を起こします。そして、お子さんを望まれる場合は不妊治療を行います。
10年ほど前までは、早発卵巣不全の場合は不妊治療は不可能だというのが常識でした。しかし、私たちや、スタンフォード大学などが研究をした結果、一部の方では妊娠が可能であることが分かりました。できるだけ早く来院いただくことによって不妊治療も可能となります。
もう一つ、あえてあげるとすると、精神的なケアです。生殖機能がないということは、非常に精神的なショックを伴うため、それに対するケアが必須です。
予防と早期発見について
日常的に喫煙をしている方は、非喫煙者の女性よりも2年ほど閉経が早くなるということが知られています。喫煙すると血流が悪くなり卵巣の血流も低下するため、卵子が早く減ると考えられます。
ピルを何年も飲み続け、いざピルを止めると自然に月経が来なくなっていたという方が割と多くいます。ピルを飲んでいる方は少なくても2年に1回、1年半に1回など、ピルをやめて自然に月経がくることを確認する事が大切です。
前述した通り、早発卵巣不全の基本的な問題となる女性ホルモンの不足については多くのリスクを伴いますので、少しでも気になる方には、早期に専門機関にて受診することが重要です。早発卵巣不全の方は適切な医療を受ける事により、全く普通の健康人として過ごすことが出来ます。
著者:石塚 文平 先生
ローズレディースクリニック 院長
【ローズレディースクリニック】
パートナードクターとして女性の生涯に寄り添うローズレディースクリニック。
婦人科や一般不妊治療に加え、世界的に見ても稀なPOI(早発卵巣不全)の不妊治療を行う、同院には国内のみならず海外からも石塚氏を頼りに患者が訪れるという。
【院長プロフィール】
ローズレディースクリニック院長。
昭和大学医学部卒業、慶應義塾大学産婦人科、カリフォルニア大学留学を経て、聖マリアンナ医科大学産婦人科教授、同大学生殖医療センター長、同大学高度生殖医療技術開発講座特任教授を歴任、平成26年に同大学名誉教授、同年ローズレディースクリニック院長に就任。
クリニックでは婦人科一般と不妊治療の診療を行っており、早発卵巣不全による不妊診療を専門とすることから全国から患者が訪れている。