睡眠不足は、仕事の能率に悪影響を及ぼしたり、睡眠不足が長く続くと、ガンや糖尿病、高血圧などの生活習慣病、うつ病などの精神疾患、認知症など、さまざまな疾病の発症リスクを高めることが明らかになっています。また、日本人は世界でも睡眠が最も足りない民族だと言われているため、睡眠不足の影響が強いと考えられています。

そこで、以前のコラムでは、「妊活に適した睡眠とは?」というタイトルで睡眠が体外受精の成績に及ぼす影響についてお話ししました。その研究では、体外受精の成績は睡眠の長さには関係がありませんでした。しかし、夜更かし群で、かつ睡眠の質が良好群では高い妊娠率であった一方、早起き群で、かつ睡眠の質が悪い群では低い妊娠率を示したとお話ししました。この記事では、「睡眠と妊娠後の流産」との関係性について考えてみたいと思います。

睡眠状況が流産に及ぼす影響を調べて調査の概要について

今回ご紹介する研究は、夫婦の睡眠の長さと、仕事の状況が、睡眠を介して流産に及ぼす影響を検討しています(Bond JC,et al.Hum Reprod.39(2), 413-424, 2024 )。これまでの研究では、睡眠と妊娠後の流産との関係については、女性の睡眠状態のみを検討した研究がほとんどでした。しかし、この研究はパートナーである男性の睡眠状況の影響も研究しているところが新しい点です。

この研究に参加したカップルは、「Pregnancy Study Online (PRESTO)」に登録し、妊娠を試みているカップルです。インターネットを用いた前向きコホート研究で、対象者は、アメリカまたはカナダに居住しており、21歳から45歳までで、避妊や不妊治療を行っておらず、男性パートナーがいる方です。参加者は、オンライン広告、掲示されたチラシ、口コミを通じて募集され、アンケート調査は登録時とその後8週ごとに実施されました。妊娠された時と、研究からの撤退時は随時、その状況を登録します。また、最初の登録開始後、フォローアップ12ヵ月間に妊娠が成立しない場合は、研究終了としました。

登録後、女性の参加者は男性パートナーを招待するオプションがあり、PRESTO参加者の44%で、男性パートナーもこの研究に参加しました。 フォローアップ中に妊娠された方に妊娠9週の時点で早期妊娠アンケートを行いました。また妊娠32週の時点で、後期の妊娠アンケートを行いました。この研究では、2013年6月から2023年4月までに登録されたすべての女性PRESTO参加者(N=17,083人)をフォローアップしています。その後の12か月のフォローアップ期間中に、妊娠しなかった人、フォローアップが中断された人などを除いて、妊娠していることが特定された人(N=9357人)を研究対象としました。このうち、カップルレベルでの要因も評価するため、最終的には男性もこの研究に参加したカップル(N=2602カップル)を研究対象としました。

調査結果は意外?男性の睡眠が影響

まず労働環境は、過去1か月間の状況を登録してもらい、女性の場合は労働時間に関連して2つの質問:ローテーションシフト(日々、週ごと、または月ごとに予測可能な方法で変動する時間)有無と、『夜勤』(N=午前0時から午前2時までの間に少なくとも一部の時間の労働)の日数を記載しました。

男性参加者の労働時間は、2変数(「昼間労働者」と「非昼間労働」)に分類されました。カップルレベルの労働環境は、「カップルの両方が昼間労働を報告した場合」、「男性パートナーだけが非昼間労働を報告した場合」、「女性パートナーだけが非昼間労働を報告した場合」、「両方のパートナーが非昼間労働を報告した場合」に分類されました。

この結果、女性においては、推奨睡眠時間(7〜8.9時間)を取っている人と比較して、睡眠時間が短い(<6時間)人は、流産率が高くありませんでした(HR 0.88、95% CI 0.69-1.13)。一方、男性では、睡眠時間が短い場合、パートナーの流産率がわずかに高くなりました(aHR 1.30、95% CI 0.96-1.75)。女性の夜間勤務(aHR 1.19、95% CI 1.02、1.38)および男性の非昼間勤務(aHR 1.26、95% CI 1.00-1.59)は、わずかに高い流産率と関連していましたが、女性のローテーションシフト勤務は関連していませんでした(aHR 0.91、0.78-1.05)。また、労働スケジュールがカップル間で異なるケースでは、男性パートナーが非昼間シフトで働いている場合に流産率が高くなりました(aHR 1.46、95% CI 1.13-1.88)。両方のメンバーが昼間に働いているカップルと比較して、女性パートナーだけが非昼間シフトで働いている場合、対応するHRは1.21とやや高めでした(95% CI 0.92、1.58)。
これをまとめてみると、

◯ 女性の睡眠時間と流産との間にはほとんど関連がありません。

◯ 男性の短い睡眠時間と流産との関連があり、さらに、女性の夜間勤務と男性の非昼間勤務は、流産率をわずかに増加させます。

◯ カップルレベルの解析では、睡眠と仕事のスケジュールのカップルレベルでの相互作用の可能性が示されており、特にパートナーとの異なる仕事のスケジュールが流産に関与しています。

以前からも女性の雇用特性と流産率の関連指摘されておりますが、今回も同様の結果であるとともに、さらに、男性要因とカップルレベルの要因を考慮することが重要となります。

最後に、女性は言うまでもなく、男性の働き方もパートナーの流産に影響することをよく理解し、パートナーと共にライフプランをデザインすることが大切です。