以前のコラムでもお話ししましたが、女性の年齢が高くなると妊娠しにくくなり、妊娠後も流産、妊娠高血圧症候群などの疾患発症のリスクも上昇すると言われています。さらに周産期死亡率や妊産婦死亡率、児の先天異常率も上昇します。(妊娠率と流産率に関するコラム) (出産のリスクに関するコラム)
一方、男性においても、男性の年齢が高齢になると、相手の妊娠にも影響し、妊娠に至るまでの期間が長くなり、妊娠した後でも、流産する確率や出生児へのリスクが上昇すると言われています。(コラム)

このように、年齢は男女にとって妊孕性に大きく影響する因子であることは明らかにされています。しかし、夫婦の各年齢における年齢差が妊孕性にどのような影響を及ぼすかについての研究に関しては、今まで大規模な研究はありませんでした。

夫婦の年齢差別に見た周産期予後への影響に関する研究

今回ご紹介する研究(Yu VT. et al. Hum Reprod. 2024 Feb 1;39(2):425-435. )は、米国の国家統計(National Vital Statistics System)に2012年から2018年に登録された27,510,868の出生例より、今回に研究に適合した20,613,704の出産例を用いて、『夫婦の年齢差が周産期予後(妊娠22週〜出生後7日未満の期間)にどのような影響がるのか』について解析しています。また、多胎妊娠症例、母体年齢が50歳以上の症例、分娩週数が妊娠24週未満の症例、分娩週数が妊娠43週を越えた症例、出生時体重が500g未満の症例と必要データ記載に不備があった症例は、解析から除外しています。

母親の年齢区分を5歳間隔(<20, 20–24, 25–29, 30–34,35–39, 40–44,>44歳)として、父親との年齢差を4歳間隔(<−16, −16 ~ −13, −12 t~ −9, −8~−5, −4 ~ −1, 0, 1 ~4, 5~ 8, 9 ~12, 13~ 16, >16年)でデータを集計しています。妊娠出産時のリスク項目としては、下記の8つを採用しています。

1.LBW (Low Birth Weight): 低出生体重(2500 g未満)
2.VLBW (Very Low Birth Weight): 非常に低出生体重(1500 g未満)
3.PTB (Preterm Birth): 早産(妊娠期間37週未満)
4.5分間のAPGARスコア(出生直後の新生児の状態を評価し、新生児仮死の有無を判断するためのスケール)が低い: 5分間の新生児スコアが7未満
5.SGA (Small for Gestational Age): 妊娠期間と性別を補正した出生体重が10パーセンタイル未満の小児
7.先天性欠損症:生まれつき体の部分欠損がある状態
8.染色体異常

リスクが高い年齢差について

これらのリスクが、夫婦の年齢差によって発現する頻度に変化を与えているかについて解析しています。

図1をみてください。母親を5歳間隔で区分し、それぞれの区において、夫との年齢差を4歳間隔でグループ分けした各グループを、同年齢の夫婦のグループと比較しています。母親年齢区分のほとんどの区分において、母親と父親の年齢差が若い方、または年を取った方のどちらに大きく乖離しても、リスクが増すことがわかります。

例を挙げてみますと、母親の年齢が25〜29歳の場合、9〜12歳年下の父親(OR=1.27、95% CI、1.17〜1.37)および16歳以上年上の父親(OR=1.14、95% CI、1.12〜1.16)で、不利な周産期の結果のオッズが有意に増加しました。30〜34歳の母親の場合、13〜16歳年下の父親(OR 1.44、95% CI 1.31〜1.59)または16歳以上年上の父親(OR 1.16、95% CI 1.14〜1.19)で最も高い有意なORが観察されました。35〜39歳の母親の場合、16歳以上年下の父親(OR 1.61、95% CI 1.44〜1.81)または16歳以上年上の父親(OR 1.15、95% CI 1.12〜1.18)で最も高い有意なORが観察されました。

一方、40〜44歳の母親(n=599,412)および44歳以上の母親(n=36,746)のORは、かなり年下の父親とペアになった場合に減少しました。母親の年齢が高齢の2つのグループでは、サンプルサイズが減少し、信頼区間が広がり、不確実性が増加したため、これらの年齢区でOR値が減少したと考えられます。また、以前の先行研究でも示された結果と同様に、この研究でも、親の年齢差の影響を取り除き、母親の年齢だけ、または父親だけの年齢を増加させると、リスクの対応する増加が示されていますので、母親の年齢が上がると、父親との年齢差から受ける影響が減少するようです。

今回の研究では、高齢の母親と若い父親の組み合わせが、早産などの不利な周産期の結果をもたらすリスクが最大61%まで高まることを指摘しています。このリスクの増加は、高齢の母親が若い父親に関連するリスク要因と結びついた場合に観察され、母親と父親の両方のメカニズムが関与している可能性があると考えられます。母親の年齢が上がるにつれて、卵子の質の低下や胚の異数体性に関与する有害な外因性および内因性要因の増加が確認されており、不利な結果をもたらす生物学的基盤を形成されます。また、興味深いことに、若い父親では精子の数、精液の量、運動精子の割合などの精子パラメーターの低下が見られることが分かっており、また、特に精子数が少ない男性では精子の安定性に寄与するテロメアの長さが短くなっており、安定性が低下しています。

さらに、若い父親は、不利な家庭環境、低い社会経済状態、教育の達成度が低いこと、そして不法薬物使用、喫煙、飲酒などの不安定なライフスタイル要因を経験する可能性が高いと推測されています。今回の研究では、これらの要因を直接的には評価できませんでしたが、母親と父親のこれらのリスク要因の相互作用が、特に高齢の母親と若い父親の組み合わせで、不利な結果を引き起こすことが推測されています。

最後に、出会いというのは偶然的なことが多く、年齢差を考慮して出会うということは少ないと思います。ですので、みなさんの今の結婚状態がもし、年齢差が大きかったとしたら、リスクを誘発する年齢差以外のリスク要因を可能な限り少なくするように努めることが大切になると思います。