恐らく、体外受精を受けているほとんどの方は、「卵子1個あたりどのくらい生児が得られるのか?」、「何個卵子が採取できれば赤ちゃんが得られるのか?」を知りたいと思います。また、一回の採卵手術で多くの卵子を得られた人の方が妊娠しやすく、生児も得やすいと考えていると思います。さらに、年齢が若いほど、一回の手術でより多くの卵子が採取できるのではないかと考えていると思います。しかし、同じ年齢でも、人によって多くの卵が取れる方もいれば、少ない数の卵子しか取れない方もいます。さらに、卵子の質は年齢に比例すると言われるものの、子宮内膜症などの卵巣、その近傍に起こる病気による影響を受けます。
今回は、米国の一施設の治療成績を後方視的に解析し、卵子当たりの生児獲得率を検討した論文(Sabbagh R.et al.Fertil Steril. 2023 Dec;120(6):1210-1219. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.972. Epub 2023 Sep 9.)が掲載されたので、これを基に、『何個卵子が採取できれば赤ちゃんが得られるのか?』を考えてみましょう。
「卵子あたりの生児獲得率を検討した論文」の概要について
この論文は、この種の研究としてはとても多くの症例を扱っており、結果に信頼性が持てる研究です。この研究では、全部で12,717人の患者に20,677回の採卵手術を行い、248,004個の卵子を採取し、この卵子から57,268個の胚を得ることができています。また、症例を『この研究時点で作成された胚を総て使用した採卵周期(A群)』と、『いくつかは胚移植に使用したがまだ凍結胚が残っている採卵周期(B群)』の2群に分けて検討しています。A群は採卵数が少なかったり、卵子の質が少し悪かったり、子宮環境が少し着床し難かったりと、妊孕力がB群に比較すると、やや低めであることが推定されます。
年齢の影響は、米国生殖医学会のART部門の分類:35歳未満、35-37歳、38-40歳、41-42歳、43歳以上群に分けて検討しています。また、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を施行した群と、未施行の群にも分けて検討しています。PGT-Aを行う群では、すべての胚を胚盤胞まで発育させ、胚の一部の細胞を採取して検査するため、胚移植される胚はすべて胚盤胞です。しかし、PGT-Aを行わない群では、胚盤胞移植だけでなく、初期胚で胚移植する場合もあります。
年齢やPGT-A実施の有無によって異なる?卵子あたりの出生率
A群では、全部で33,475回の採卵手術が行われ、117,893個の卵子が採取されています。手術あたり平均3.5個卵子が採取されていることになります。3,322人の生児が生まれており、卵子あたり2.82%の出生率となります。これは約35個の卵子に対して一つの卵子が生児になるということになります。さらに年齢の影響を検討してみると、35歳未満群では卵子あたり3.80%の出生率であるのに対し、43歳以上では0.67%となります。若年で高値となり、年齢が高くなると低くなる傾向にあることがわかりました。さらに、PGT-Aを施行した群と、施行しなかった群での比較では、PGT-A施行群で卵子あたりの生児獲得率は2.88%、PGT-Aをしなかった群で2.79%と全体としては有意な差は認めませんでした。図1のように、年齢が高くなると卵子あたりの生児獲得率は低下しますが、PGT-Aを施行しなかった群と比較し、PGT-Aを施行した群では、35歳から40歳の群で、卵子あたりの出生率が高値となりました。
B群は調査時点で凍結保存された胚がある採卵周期ですので、A群に比較すると妊孕性が高い群と推測できます。全部で48,259回の採卵手術が行われ、248,004個の卵子が採取されています。手術あたり平均5.14個卵子が採取されています。これはA群よりも高い数値です。このB群の出生児数の検討には、まだ凍結保存された胚が存在するため、この凍結胚から出産される児数も推計して加えて検討しなければ、採卵卵子あたりの出生児率は検討できません。そこで、凍結胚からの推計出生児数は、米国の生殖補助医療統計のデータを用いて確率を計算しています。
その結果推計される総出生児数は、20,694.54人の生児が生まれ、卵子あたり8.34%の出生率となります。これは、約12個の卵子に一つの卵子が生児になる確率です。これをさらに年齢の影響について検討してみると、35歳未満群では卵子あたり11.3%の出生率であるのに対して、43歳以上では1.12%となり、若年で高値となり、年齢が高くなると低くなる傾向にあることがわかりました。さらにPGT-Aを施行した群と施行しなかった群での比較では、PGT-A施行群で卵子あたりの生児獲得率は7.13%、PGT-Aをしなかった群で8.94%とPGT-Aをしなかった群で有意に高い値を示しました(P<0.001)。また、図2のように、37歳までの群ではPGT-Aをしなかった群が高値、38歳から42歳の群ではPGT-Aを施行した群で高値となりました。
今回の研究では、卵子の成熟度は無視して、採卵できたすべての卵子を対象としています。この影響もあるかどうかは不明ですが、一回の採卵手術で採卵できた総卵子数が卵子あたりの生児獲得率に及ぼす影響を検討すると、採卵手術当たりの卵子数が多くなるほど、卵子あたりの生児獲得率は低下しました。
最後に、A群、B群の、生児を得るために必要な採卵卵子数を検討すると、A群では、35歳未満群では26.3個、35-37歳群で30.3個、38-40歳群で39.3個、41-42歳群で69.3個、41-42歳群で149.3個となりました。
また、比較的卵子の質が良好とおもわれるB群においては、35歳未満群では8.8個、35-37歳群で11.7個、38-40歳群で18.8個、41-42歳群で40個、41-42歳群で89.3個となりました。このように、どちらの群においても年齢が高くなるにつれて、生児を得るために必要となる卵子数は急速に増加します。また、逆に年齢が高まるほど一回に採取できる卵子数は減少するため、生児を得る可能性はさらに難しくなります。
これらのことを知って、ご自分のライフプランを早めに設計してみてください。