今すぐに妊娠することは望んでいないものの、将来妊娠を希望している方には、予め卵子を凍結保存しておく方法があります。卵子を凍結保存することによって、将来の妊孕性を確保することができます。もちろん、100%妊娠できることを保証するわけではありませんが、加齢に伴う卵子の老化、質の低下が原因となる不妊は予防できます。100%保証することができないという理由は、妊娠するためには卵子の条件以外に子宮や母体の環境、精子の条件などが影響するためです。それでも、今すぐの妊娠を希望していない人にとっては、卵子凍結は一つの手段だと思います。

卵子凍結保存のメリットとデメリット

以前のコラムでも書きましたが、この方法にはメリット以外にデメリットもあるため、その点をよく理解し、考える必要があります。そのコラムでは、7つ目のデメリットとして、「卵子凍結にかなり費用がかかる。」と記載しましたが、本年9月より、東京都は社会的適応の卵子凍結と、その卵子を使用した体外受精の助成制度(こちらから見る)を開始しました。

この制度の内容を見ると、かなり手厚い制度であると思います。正確な助成制度の内容は、皆さん各自でこのサイトをご覧になって検討してください。このコラムでは、私が注目した点について解説します。

助成の対象年齢から考えるべきこと

東京都に住む方で、採卵を実施した日における年齢が18歳から39歳までの女性となっています。年齢による卵子の質の低下、治療後の妊娠、出産、育児の年齢リスクを考えると、この年齢制限は、妥当だと思いました。ただ、日本産科婦人科学会が毎年発表する体外受精の年間データからすると、32歳までに卵子を凍結したほうが年齢による影響をある程度予防できるように思います。また、助成金が年度上限20万円とかなり高額で、年齢が若い方であれば、1回の採卵でも十分な数の卵子を保存できる可能性が高いです。採卵は1回だけの助成制度ですので、高齢な方の場合は複数回の採卵が必要になることもあるため、この金額では不足する可能性があります。そのため、この金額設定で考えた場合、できるだけ若い時期に卵子の凍結保存を検討することが重要になると思います。また、凍結卵子の保管料について、その後の5年間、毎年2万円の補助となっていますが、この額は十分とは言えないため、なるべく早く凍結卵子を使用できるように努めなければならないと思います。

凍結卵子を使用する際の助成について

次に、これらの卵子を使用する際の助成制度ですが、これは手厚い助成であると思います。この助成制度の対象者の条件は、妻の年齢が43歳未満の夫婦で凍結卵子を使用した生殖補助医療を受ける方です。
また、住まいや結婚状況については下記の条件があります。

(1)生殖補助医療の開始日から申請日までの間において、夫婦(事実婚を含む。)であること
(2)生殖補助医療の開始日における妻の年齢が43歳未満の夫婦(事実婚を含む。)であること
(3) 生殖補助医療の開始日から申請日までの間、以下のいずれかに該当すること
ア 法律婚の夫婦にあっては、夫婦いずれかが継続して都内に住民登録
をしていること
イ 事実婚の夫婦にあっては、夫婦ともに継続して都内の同一住所に
住民登録をしていること

一方、助成額ですが、体外受精が保険診療になる以前に行政が行っていた特定不妊治療費助成制度に似ています。ホームページには下記のように記載されています。

1回につき上限25万円(最大6回まで)
(ただし、「以前に凍結卵子を融解し作成した凍結胚」を胚移植する場合は1回につき上限10万円)
※初めて助成を受けた際の施術開始日において、妻の年齢が40歳未満であれば6回まで、40歳以上であれば3回までを助成回数の上限とする。

 この助成制度を見ると、不妊治療が保険制度となる以前に国・都道府県の行政が行っていた「特定不妊治療費助成制度」に匹敵するぐらい、またはそれ以上の助成制度だと思います。

凍結した卵子の使用率について

以前、卵子凍結の助成事業のお話しを聞いた時には、卵子を凍結しても、使うときは、すべて自費となるため、大きな出費になると感じていました。事実、アメリカでは、凍結卵子の使用率は5.2-7%であり、大部分は使用されない状態だったと報告されています。凍結しても、凍結卵子を使用するときは自費であるため、治療費はかなり高額になると思います。そのため、月経がある方の場合、最初は凍結卵子を使わず、自然周期を用いてタイミング療法での妊娠を試みると思います。そして、その時の年齢が30代後半の場合、6-7割ぐらいの方は体外受精を使わなくても妊娠できると推測できます。40歳でも、3-4割の方が体外受精を使わなくても妊娠できると推測できます。それでも妊娠が成立しない時に初めて凍結保存してあった卵子を使用して体外受精を行うと考えられるため、凍結卵子の使用率がこの程度の数値であるのも当然だと思われます。

 しかし、今回の東京都の助成制度は、凍結した卵子を使用した時の体外受精にも助成制度を創設しており、とても手厚い助成制度のように思われます。このため、この制度を利用された場合に、凍結卵子の使用率は米国の数値よりも高い数値になると思われます。

 医学的には若いうちの妊娠出産を推奨しますが、皆さんの中で、若いうちに妊娠・出産が難しい方は、この制度を考えてみることは一案だと思います。