今回は9月初旬に日本産科婦人科学会から発表された日本の体外受精の現状についてお話をしましょう。日本産科婦人科学会は毎年、2年前の1月1日から12月31日までに生殖補助医療で治療された結果を報告しています。
なぜ2年前の1年間の治療が報告対象となるかというと、この治療で妊娠した人は治療から約9か月後に出産することになるため、治療から出産までの成績を報告するとなると、どうしても2年かかることになります。よって、今回(2023年)報告された成績は、2021年の一年間に治療を受けた方の成績になります。

胚移植方法別の妊娠率について

2021年にはトータル498,140件の治療が行われ、69,797人が出生しています。治療の内わけは、新鮮胚(卵)を用いた治療のうち体外受精を用いた治療が88,362件、出生児数が2,268人、顕微授精を用いた治療が170,350件、出生児数が2,850人です。また、凍結胚(卵)を用いた治療は、239,428件で、出生児数は64,679人となっています。

このように、出生児数のおおよそ93%が凍結融解胚(卵)移植による妊娠となっています。新鮮胚(卵)を用いた治療での出生児数が治療総数と比較して少ないのは、採卵して胚が形成されても、そのすべての胚を凍結し、採卵周期での胚移植を行わない、いわゆる全胚凍結周期が多数あるためです。2021年には、この全胚凍結周期は129,008件行われており、新鮮胚(卵)を用いた全治療周期の約50%を占めていることが大きく影響していると考えられています。ですので、新鮮胚(卵)を用いた治療でも、治療開始あたりの妊娠率ではなく、胚移植当たりの妊娠率を算出すると21.2%となっています。

一方、凍結胚(卵)を用いた治療では、胚移植当たりの妊娠率は36.9%となっています。凍結胚(卵)を用いた治療による胚移植当たりの妊娠率が、新鮮胚(卵)を用いた治療に比較して高い理由は、凍結する際に比較的良好胚を選択して凍結していることに加え、胚移植時の子宮環境が採卵時とは異なり、ホルモン環境が自然に近い環境であることに起因していると考えられています。

生殖補助医療による治療数と出産数

生殖補助医療の総治療数は毎年伸びてきましたが、2016年から2019年の治療数は約45万件で毎年数千件の微増でした。2020年は新型コロナの影響が在り、約8,000件の減少となりました。新型コロナ感染が拡大した当初は、新型コロナによる妊娠・出産、胎児への影響が不明であったため、治療を控える方もいました。このため出生数も、統計開始以降、初めてわずかですが減少しました。

しかし、その後は徐々に妊娠・出産、胎児への影響について情報が集まり、さらにワクチン接種が開始されたことによって、2021年の治療件数は498,140件と大幅に増加し、出生数も69,797人と急増しました。この出生数は日本全体の出生数の約9.1%に当たり、体外受精の治療が日本の出生数に大きな影響を与えていることが分かります。

胚移植数別の妊娠率について

さて、体外受精の治療を受けている方は、ご存知だと思いますが、胚移植の時に移植する胚の数は原則1個となっています。何回か胚移植をしても妊娠に至らない場合と、高齢な方は最初から2個移植を考慮しても良いとされています。この理由は、双子になると妊娠出産のリスクが高まるためであり、このリスクを避けるためになるべく1個移植を推奨しています。この結果、日本の単胎生産率は97.1%と世界でも類を見な程の低値となっており、妊娠・出産時の安全が図られています。 
                                         
2021年の1個移植と2個移植の結果を考察してみると、妊娠した割合は、新鮮胚の治療では1個移植が21.7%、2個移植が19.0%、凍結胚の治療では1個移植が38.1%、2個移植が30.4%です。新鮮胚、凍結胚のどちらの移植でも、1個移植の方が2個移植よりも妊娠率が高い結果でした。一般的に2個移植した方が妊娠率が高くなると考えがちですが、結果は逆になっています。この原因は、胚移植数を選択する時、まずは1個を選択しているからだと考えられています。1個移植を数回行っても妊娠しない方では、胚の質が良い確率が低いと考えられます。ですので、日本産科婦人科学会が推奨する移植胚数の選択方法で行っていた場合、1個移植では妊娠が得られなかったため2個移植したことになるため、妊娠率が低くなります。しかし、この方法は多胎となるリスクを極力防ぐことができるため、患者さんにとって安全な方法だと考えられます。

年齢別、胚移植当たりの妊娠率について

最後に、年齢別胚移植当たりの妊娠率ついてお話しします。胚移植当たりの妊娠率は、32歳ぐらいまでは45%を超えていますが、32歳を超えると徐々に低下し、35歳以降はさらに低下率が大きくなり、40歳では29.8%、42歳では21.2%、45歳では9.4%となっています。体外受精を受ける場合も、なるべく若い年齢の時がいいですね。

2024年発表にデータには保険適応の影響も明らかに

今回は、2021年の治療データを基に解説しました。来年、日本産科婦人科学会から発表される体外受精のデータは、この体外受精の治療が保険になったときのデータが含まれます。このため、保険適応が体外受精の治療にどのような影響を及ぼしているのか、明らかになると思います。保険適応になってよくなった面も多くありますが、反面、個々の患者に対応したきめ細かい変更ができなくなり体外受精がやりにくくなった、との声も聴きます。また、来春には保険制度の見直しも予定されていますが、不妊治療に関する保険制度が、患者さんにとってより良いものに改訂されていくといいですね。