妊活中や妊娠中の食事内容に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
体重やたばこ、お酒など、生活習慣、食生活や嗜好品などが妊孕性(妊娠する能力)に大きく影響することに関しては、これまで何回かこのコラムで取り上げてきました。今回は2つの研究を取り上げて、食事に関するお話しをしたいと思います。
「妊娠率」を上げる食事、下げる食事について
最初のご紹介するのは、5年ぐらい前に発表された研究です。『摂取する食事の種類と妊娠までにかかる時間・不妊症罹患率との関係』を検討した研究です(GriegerJA, et al. Human Reproduction, Vol.33, No.6 pp. 1063–1070, 2018)。この研究では、単胎妊娠した初産婦5,628人に対して、妊娠初期(妊娠14から16週)に『妊娠前の約1か月間に摂取した食物、またその頻度』を調査し、検討しています。
調査した食事の種類はフルーツ、葉物野菜、魚、ファーストフードです。この研究では、妊孕性に影響があると考えられている交絡因子(BMIや年齢、人種、多嚢胞性卵巣症候群の有無、喫煙、飲酒など)は補正しています。この結果、フルーツの摂取は妊娠を希望した時から妊娠に至るまでの期間を短縮し、不妊症罹患率を減少させました。また、野菜や魚の摂取は、一定の傾向が認められないとの結果でした。
この結果からすると、フルーツは適度な量を頻回摂取することが、妊孕性に好影響だと考えられます。果物や野菜には抗酸化物質や植物化学物質が含まれており、これらは生殖能力に有益な影響を与える可能性があります。この研究では、緑黄色野菜についてだけ尋ねており、他の種類の野菜については尋ねていなかったため、野菜の摂取量全体を捉えることができず、それが生殖能力に与える影響を検出することができなかった可能性があります。ファーストフードはカロリーが高く、飽和脂肪、ナトリウム、糖を多く含みます。ある研究では、卵胞液中の飽和脂肪酸の濃度が高かったり、また、飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の比率が高いと、成熟した卵母細胞の数が減少することが示されています。
このことから、仕事が忙しくても食事をファーストフードで済ます回数はなるべく少なくする方が良いことになります。また、魚に関しては、この研究では影響が認められませんでした。この研究がオーストラリアで行われた研究であるため、魚の摂取回数が日本人のように多くなかったもとの思われます。もしもこの研究が日本で行われていたら、異なった結果になっていたかも知れません。以上、この研究結果をまとめてみると、食事の内容は妊孕性に影響する可能性があるということですね。
「流産率」を下げる食事、上げる食事について
さて、もう一つの研究は、『摂取する食事の種類と流産との関係』を検討した研究です(Chung Y, et al. Fertil Steril. 2023 Aug;120(2):333-357. doi: 10.1016/ j.fertnstert. 2023.04.011. Epub 2023 Apr 13.)。妊娠後に起こる流産は、妊娠したその人にとって、とても大きな喪失感を与えます。年齢は流産に影響を及ぼす大きな要因で、年齢が上がると共に流産率も上昇します。この原因の多くは、受精した胚の染色体異常の率が年齢と共に上昇することに由来すると考えられています。このことから、若い場合は年齢が影響する流産率は低くなりますが、0とはならず、ご自身の年齢による胚の染色体異常率はある程度あります。ただ、それ以外にも流産に影響する要因は多くあります。その要因の一つに、摂取する食事の内容の影響も考えられています。
この研究では、過去に発表された研究の中から、今回の研究(食事と流産の関係の関連を検討した研究)に適合した研究を抽出し、系統的レビューとメタ分析をしています。今回の研究に合致した観察研究は、20ありました。この20の研究では、健康な生殖年齢の女性63,838人の受胎前後の食事摂取と流産リスクとの関連を調べています。
その結果、フルーツ、野菜、フルーツと野菜、海産物、乳製品、卵、穀物などを多く摂取した女性では流産率が低いことがわかりました。また、肉、赤肉、白肉、脂肪と油、砂糖代替品については、食物摂取の流産に対する影響は明確に示すことはできませんでした。また、データが矛盾した精製糖やソフトドリンク、データが不正確だったスイーツ、ナッツ、大豆製品、加工肉、植物性タンパク質食品については、メタ分析にまとめることが出来ませんでした。
一方、ファーストフードの消費量については、流産に影響を及ぼすことが判明しました。さらに、揚げ物を好んで摂取することや、チョコレートの摂取量が低いことは流産の確率を高める可能性があるということも判明しました。
全体的な食事の評価の点から検討すると、健康的な食事とされる、健康的北欧食品群(HNFI)、健康的食品で構成された質の高い食事(PDQS)、抗酸化物質が豊富な食品源(DAI)、バランスの取れた食事を摂取することは、流産率を減少させるそうです。一方で、炎症性食事や加工食品の摂取量が高いことは、流産率を増加させることも判明しました。このことは、全体的には果物や野菜など、一般的に健康的だと考えられる食品が豊富であり、加工食品など一般的に不健康だと考えられる食品の摂取が0か、少ないと、流産リスクを減少させる可能性があることを示唆しています。しかし、これらの結果を確実にするには、さらなる高品質の研究が必要だそうです。
毎日繰り返している食生活、生活習慣は、知らず知らずのうちに体の健康に影響を及ぼす可能性があります。恐らく皆さんは仕事などで忙しく、食事を抜いたり、食事の内容に無頓着になりがちだと思います。しかし、一度時間を取って、ご自分の食生活、生活習慣を考えてみてください。これは単に妊娠・出産するためだけでなく、将来にわたっての健康維持にもつながるものですし、健康であれば、仕事の効率上がってくるものです。