本当は2人以上の子どもが欲しいにもかかわらずその実現を躊躇する「2人目の壁」。1more Baby応援団が全国の子育ての世代約3000人に対して行った調査では、7割以上の方がこの「2人目の壁」を感じていると回答しています。
この記事では、そんな「2人目の壁」を実際に感じている方、感じたことがある方に行ったインタビューの内容をご紹介します。もしかしたら、あなたの「2人目の壁」を乗り越えるためのヒントが、見つかるかもしれません。
今回は、夫婦ともに国家資格が必要な士業に就いている西田さん一家のお話です。大学時代に出会って付き合い始め、そのまま結婚に至った現在30歳になる結婚4年目のご家族です。一般的な価値観からいえば、〝勝ち組〟と思われるような華やかなキャリアを持っているお2人ですが、そこには夫婦が想像もしていなかった壁がありました。。
その壁とはなにか。端的にいえば、出産・育児を担う女性(妻)側が、社会から断絶され、想像以上の孤独とストレスに苛まれるというもの。男性(夫)側には協力する気持ちこそあるものの、仕事柄なかなか家庭のことに時間を割くことができず、子育ての負担がどんどん妻のほうに溜まっていってしまいます。その結果、精神的にも体力的にも限界を感じ「自分のキャパシティとして子どもは1人で限界なのではないか」、「二度もこんな経験はしたくない」と、本当は望んでいたはずの第二子、第三子の出産を躊躇してしまう……。
社会における女性の活躍が広がる中、こうした壁にあたる人は増えてきています。そこで本稿では、子育てをきっかけにそうした孤独やストレスを感じ、2人目を躊躇しているという西田ななみさん(仮名)に率直なお話を聞いていきます。
(動画のご紹介)
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最初は順調だった子育て
ともに激務といわれる仕事についている九州地方に住む西田さん夫婦は、30歳という節目が近づくなかで「子どもを作ろう」という決心を固めたといいます。
「コロナということもあって結婚して1〜2年は躊躇していたのですが、コロナがなかなか収束しませんでした。一方で、職場の先輩や同じ仕事に就く同級生などの話を聞く限り、やりがいを感じている今の仕事でキャリアを順調に積んでいくには1人前になった20代後半のタイミングが出産にはベストであること、加えて理想の子どもの人数が2人であることから、〝もう待てない〟と、妊活を始めることにしました」
一度、稽留(けいりゅう)流産を経験しつつも、幸いなことに西田さん夫婦はほどなくして妊娠・出産できたそうです。職場の理解もあったことから、体の負担が大きい業務こそ外してもらったものの、ななみさんは法定産休前休暇どおり、予定日の6週間前までは仕事を続けます。
「もともと女性も活躍している職場だったので、そのあたりの理解は大きかったですね。ただ、コロナもあって、両親学級や母親学級のようなものは軒並み閉鎖状態で、事前に子育てに関するレクチャーを受けることは叶いませんでした」
出産に関しても予定日こそ数日ずれたものの、特に大きなトラブルもなく赤ちゃんと対面できたと話します。しかし、夫である知典さん(仮名)は、出産の立ち会いと産後のサポートのため、予定日に合わせて事前に夏休みを取得していたそうですが、予定日がずれてしまったことで、ななみさんが退院するときには、通常の勤務に戻っていってしまったといいます。
「育休に関しても『取っていいよ』と言われていたものの、実際にそのタイミングが近づいてくると、替えの人材が全くいない、という事が分かって育休は取れなかったんです」
実際に子どもが生まれ、子育てをしていく中、最初は「やるぞ」というような勢いのようなものが勝って、順調だったとななみさん。
「生まれたばかりの赤ちゃんだと、できることも少ないし、たまたまうちの子がよく眠る子だっただけかもしれませんが、寝ている時間も長いので、そこまで大きな問題はありませんでした。夜中の授乳に関しても、完全母乳だった事もあって、私が常に自分で対応していました」
職業柄、一昼夜働き続けることも少なくない知典さんとは、初めから母子とは別の寝室で寝てもらうことにしたようです。
「結局、夜中に起きてもらってもやってもらえる事はほとんどなくて。2人とも寝不足になるくらいだったら、『あなたは寝ていてください』って感じでした。とにかく激務ですので、家にいるときくらいは寝てもらわないと仕事になりませんので。あとは、夫のいびきがうるさいという事情もありましたけど(笑)」
生後半年を過ぎて精神的な負担が増えてきた理由
雲行きが怪しくなってきたのは、子どもが生後半年を越えたあたりからだと、ななみさんは話します。
「ある程度、赤ちゃんが自分でできることが増えてきて、起きている時間も長くなってくると、どうしても1対1で相手をしなければいけない場面が増えてきて。2月生まれなので、生後半年のときにちょうど暑い時期にあたってしまったので、ずっと赤ちゃんと2人で家に閉じこもっている、みたいな感じになりました。もちろんコロナの影響もありました。そうなってくると、どうしても息が詰まってくるような、精神的にきつい状態になっていきました」
最も頼りたい夫は帰りが毎日遅いうえ、週に2〜3回は泊まりになることもあるほど。そのときには、30時間以上、ぶっ続けで赤ちゃんと2人きりという状態になる。自身の実の母はすでに他界している。実の父は、やや離れたところで新たなパートナーと新たな生活を築いている。夫の両親にも遠慮があって、援助を受けづらい。八方塞がりのような状態になってしまった、とななみさん。
「義理の実家とも仲が悪いわけではないんです。でも、私の性格もあってどうしても遠慮してしまう。自分が家の中で一日中、部屋着でいる中で、義理の母に来てもらうのは、わたし的には気まずいというか、ややストレスに感じてしまうんです。あとは公的な機関やサポートを使って、産後ケアが受けられないかを検討してみたこともあったのですが、私たちが住んでいるのが地方都市ということもあってか、使えるものがありませんでした。産後ケア施設でいえば、泊まりでみてくれるとことは皆無でしたし、一時預かりはコロナという感染症のリスクが不明で怖い部分もありました。ベビーシッターも、登録されている方が片手で数えられるほどしかいなくて、利用するのは現実的ではない感じで。とにかく、安心して使えるものが見当たらなかったという感じです」
加えて、ママ友と呼べるような存在も、学生時代の1人の友人を除けば皆無であったようです。
「先ほどもお伝えしたように、暑い時期だったり、コロナもあったりして、公園でちょっとした親同士の知り合いができる、みたいな環境ではありませんでした。唯一、学生時代の友人で、ちょうど同じような時期に子どもを産んだ人がいますが、彼女は産休を取りながら立て続けに2人目を産んだこともあって、大変そうでなかなか直接に会ったり、悩みを相談したりということはしづらかったですね」
育休は仕事の都合で取れなかった知典さんは、「激務」であるとはいえ、休みの日もある。「育休を取る」という話が出ていたということは、子育てに前向きのようにも感じます。それでもなかなか支援は得られなかったのが実情のようです。
「もともと家事など、家のことをする人ではなかったので、その意味では子どもが生まれてからの方が、やってくれる事が増えたとは思います。でも世間で言うイクメンと呼ばれるようなものとは程遠くて。もちろん仕事が激務だってことで一定の理解はしているものの、こうしてほしいと思う事はいっぱいありますね」
揺れ動く2人目の出産。2人産むことは親のエゴ?
そんな中、ななみさんには「地域で子育てをする」「地域が社会的なつながりになっている」ということを深く痛感したできごとがありました。ななみさんが住む地域のつながりが薄い県庁所在地とは異なる、田舎にある祖母の家に遊びに行ったときのことです。
「そこは実家ではないんですが、祖母のいる家に遊びに行ったことがありました。その時に、祖母の家の近所に住む知り合いが、代わる代わるおしゃべりをしに来たり、噂を聞きつけたのか赤ちゃんを見に来てくれたりするんです。そんなふうに声をかけてもらったり、気をかけてもらうっていう体験はほとんどありませんでしたので、地域で子どもを見るとか、地域で子育てをするってこういう事なんだなって、その時に痛感しましたね」
この時、里帰り出産をしている人の理由が自分の中にストンと落ちてきたのだとか。
「私は両親のこともあって、里帰りの先をつくることは難しいので、スタート地点から大きなハンデを背負っているのかもしれないなって感じることもありました」
そうこうしているうちに、ななみさんはメンタルが限界を迎え始め、ちょっとした事で子どもの前で大泣きしたり、消えてしまいたいというような思いに駆られることもでてきたと語ります。
「もう、泣き止まないときとかって、なんかこう自分の中ではすごくメンタルに来るものがあって。(仕事など)他に何もしてないからなのか、なんかその泣き声がすごい、メンタルに来るものがあってですね。そういうとき、なんかこう突発的にそういう思いに至ったりとか、子どもに何かこう手を出してしまいたくなるような感情が湧いてきたりというか……イライラの極地じゃないですけれども。そういうところが結構ある感じですね。最悪のパターンは、うまく寝てくれないとかに加えて、夜泣きで自分の目が覚めちゃったりして寝不足が重なってきたりすると、もうだめですね」
そうした体験をしてきたななみさんは、自分自身が2人姉妹で育った経験から、理想の子どもの人数は2人。しかし、その実現にためらいを感じていると話します。
「自分の家庭環境や夫の職業、自分の性格、あるいはこの1年を振り返ってみると、2人目を作ってしまうことで、自分も今いる子も、産まれてくる子も不幸になる気がしています。自分のキャパシティとして子どもは1人で限界なのではないかと考えています。自分がイライラして、笑顔ではいられない時間が多いことを考えると、2人をもつ事は、それは親のエゴでしかないんじゃないかって……」
もちろん葛藤はある。周囲で、2人目を出産する人を見ることもあるからです。先ほどの学生時代の友人もしかり、職場の同僚を通じてそうした話を聞く事も少なくないそうです。
再び社会とつながれることに希望を感じる「職場復帰」
「やはり子どもは2人以上いるべきなのかと悩んでしまうこともあります。でも、自分のメンタルがギリギリになってくると、『もうこれ以上、子どもはいらない』と、もう着なくなったり使わなくなった小さい服やベビーグッズを処分する事で、どうにか精神を保つような時もあります。もし2人目を産むとしても、自分の中ではまだ1〜2年の時間的猶予があると考えています。もしかすると、その間に1人目の子どもの手がかからなくなるのではないか、とも思うのですが……。やっぱり1歳になるまでのここまでの経験を考えると、2度とそんな辛い日々は送りたくないとも思ってしまうし、今後2人目を考えるとしてもこの感情を忘れるべきではないと感じます」
揺れ動く精神状態のなかで、ひとつの大きなイベントがまもなくやってくる。「職場復帰」です。
幸いなことに、ななみさんの職場は子育てに関する理解が大きく、できる範囲で少しずつやってみようということで合意しているといいます。
「職場が提携している保育園に入ることができましたが、周囲の配慮もあって、最初からフルで働くわけではなく、週3回、9〜15時で職場復帰します。『慣れてきたら少しずつ増やしていけば問題ないよ』っていうふうに言っていただけていて」
この復帰に関しては、現状、前向きな気持ちのほうが大きい。
「どこまで自分ができるか、両立していけるかは未知数ではあるものの、仕事は好きですし、社会とのつながりという意味でも、楽しみに感じているところです。その意味では、私にとっては職場復帰がよい息抜きになって、いろんな意味でプラスに働く可能性もあるかなと思っています。そのうえで、この数年間で、自分がどのような選択をするのか、というところはまだまだ未知数なところが大きいです」
一番辛かった時期を振り返って、今感じること
もう1つ、最近になって感じている事もある。それは辛い時期がずっと続くわけではないという事です。
「最も辛い時期は、自分のなかでは過ぎたと感じています。子どもが成長とともに、できることが増えてきて、手がかからなくなったということがあると思うんです。だから、きついときはやがて去っていくということを経験的に学んだといえます。そう考えると、最もきつい時期、最も辛いときをどう乗り越えるか、どう向き合っていくかが重要ではないかと思います」
どう乗り越えていくといいと考えているのでしょうか。
「1つは、先ほどもお話ししたような産後ケアの施設とか、サービスをきちんと使える形で整えてもらいつつ、私自身、つまり母親側の姿勢としても、頼れるものは頼っていくということを肝に銘じるといいのかなと思っています。今回のインタビューを通じても感じましたが、人に自分の話をすることで、気持ちの整理ができるというか、客観的に自分を捉えたり、頭の整理ができたりするので、それもとても大事かなと。あとは、時間が解決してくれる部分も少なくないので、それも心の隅にとどめておくべきかと感じています」
時間が解決するというのは、子どもの成長だけではない。夫の姿勢からの協力も得やすくなってきたと感じている。
「夫からの協力に関しても、子どもが成長してくると、やってもらえることも増えてきていると感じます。たとえば離乳食が始まってくると、ちょっとご飯をあげておいてもらうとか一緒に遊んでおいてもらい、その間に1人で買い物に出掛けたり。実際問題としてできることが少なかったものの、一貫して夫は協力的な姿勢を持っていますので」
子育て真っ只中で感じている率直な悩みを知る事ができる、貴重なお話でした。みなさんはどうお感じになりましたでしょうか。もちろん家庭や地域の状況、あるいは感染症などの社会環境によっても異なる部分は少なくないと思います。しかし、西田さんのお話から、もっと出産・育児しやすい社会にしていくために参考にできる部分もたくさんあったのではないでしょうか。
インタビュー協力者を募集!!
『2人目の壁』に関するあなたの経験や悩みを、記事にして発信させてください
本当は2人以上子どもが欲しいにも関わらず、その実現を躊躇する『2人目の壁』。
そんな『2人目の壁』を感じて現在悩んでいる方、壁を乗り越えた方、乗り越えない道を選んだ(選ばざるをえなかった)方。
あなたが悩んでいること、経験したこと、考えたこと、そして現在感じていることを、聞かせていただけませんか?
同じ悩みを持つ人の経験談を知りたい人がいます。
あなたのご経験が、あらためて「もうひとり」を考えるきっかけとなり、1人でも多くのママやパパが「2人目の壁」を乗り越えることができるよう、願っています。