今回コラムは、性感染症のお話です。最近メディアでも報道されているように、日本における梅毒感染が2011年ごろから増え始めており、妊娠を検討されているこのコラムの読者にもこの事実を知ってもらいたいと思っています。赤ちゃんを得るには、体外受精や人工授精をしない限りは、性行為が必要となります。このような性的接触を行うことでのリスクと言えば、性感染が第一にあげられます。今まで妊活に関わるテーマを取り上げてきましたが、性感染症も妊活に大きく影響しますので、今回はこれをテーマにお話ししたいと思います。
性感染症の種類と感染する原因
性感染症すなわち、性行為によって罹患する病気の原因となる病原体は、細菌・ウイルス・寄生虫・節足動物などさまざまです。主な感染症には、梅毒、淋菌、軟性下疳、性器クラミジア感染症、鼠経肉芽腫、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染症、HIV感染症、トリコモナス感染症、毛じらみ症などがあります。
感染が起こる原因は、主に感染者との性的接触です。感染者の血液・腟分泌液・精液などの体液が、相手の性器・腸管・口の粘膜などに接触することによって、病原体が相手に伝染し感染します。すなわち腟性交だけではなく、口腔や肛門の性交など、あらゆる性的接触によって感染する可能性があります。また、ごくまれではありますが、出産・授乳などの母子感染や輸血感染、汚染された医療器具からの感染などがあります。特にお母さんが梅毒に罹患していると、その胎児が先天梅毒になる可能性が高いので、妊娠する際には特に気を付けることが大切です。
性感染症を防ぐために
性感染症の予防には、性行為の際に正しくコンドームを使用することによってある程度予防効果が期待できますが、100%ではありません。よって、不特定多数の相手との性行為や他にセックスパートナーのいる相手との性行為は控えることも大切です。また、感染者と性行為をした可能性がある場合や、性感染症を疑う症状が現れた場合は、自分のセックスパートナーにうつしてしまう可能性があるため、できるだけ早期に病院を受診し、感染の有無を検査することが必要となります。
また、以前にもお話ししたことがありますが、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染症に関しては、ワクチン接種による予防も可能です。定期接種(各市町村が実施している予防接種)と任意接種(希望者が各自受ける予防接種)があります。定期接種の場合は、小学校6年生~高校1年生(12〜16歳)相当の女性が対象です。このワクチン接種で、性交による子宮がんリスクが70%以上減少すると言われています。しかし、100%ではないため、ワクチン接種後も、定期的に子宮がん検診をしていくことは大切です。
増加する梅毒感染者数
2022年9月4日までに2022年の梅毒感染者数が全国で8155人に達し、現在の様式で集計が始まった1999年以来、過去最多を更新しました。それまで最多だった昨年2021年の7875人をすでに超えています。この増加ペースで行くと、本年末には1万人を超える感染者数が予想されます。このようなまん延が継続すれば、一般の方が感染に気づかないまま妊娠し、胎児を含め重大な合併症につながるケースも増える恐れがあります。
妊娠後も感染に注意が必要
2020年10月の国立感染症研究所 感染症疫学センターの報告によると、2019年の先天梅毒は男女合わせて23例であり、2000年以降最多であったと報告されています。先天梅毒は、感染している妊婦からお腹にいる胎児への感染が起こって発症する赤ちゃんの病気です。せっかく妊娠・出産するのですから、赤ちゃんの健康にも気を付けたいですね。一般に妊婦さんは妊娠初期に、梅毒を含め数種類の感染症の検査をします。ただ、その時の検査結果が陰性でも、その後の妊娠経過中に感染すると赤ちゃんにも発症するので気を付けたいですね。また、不妊治療を開始するときも一般的に感染症の検査は行う施設が多くあります。
死産などにもつながる可能性がある梅毒の症状とは
梅毒の症状は、梅毒トレポネーマという細菌が性行為などによって性器や口などの粘膜から侵入し、2~3週間後に性器などの感染部位の周辺にしこりができます。痛みがないことも多く、2~3週間で消失し気づかないことも多くあります。感染2~3カ月後には手のひらや腹部など全身に発疹が出ますが、痛みやかゆみがないことが多く、症状は典型的でない場合も多いと言われています。このような症状は数週間から数カ月で自然に消えますが、治ったわけではなく感染は続いています。また、発疹をアレルギーや風疹などと間違えることがあり、梅毒感染に気づかずに放置すると、長期間の経過で脳や心臓、神経などを侵し、重大な合併症を引き起こして命を落とすことがあり、また、感染に気が付かないで妊娠すると胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります。ですので、少しでも感染を疑った場合は早期に医療機関に受診されることをお勧めします。
妊活をしている方は、色々なことに注意を払い健康な赤ちゃんを生んでください。