近年、社員の「卵子の凍結保存」を支援する企業が増えてきています。卵子の凍結保存とは、卵子を取り出して凍結保存しておくことにより、加齢による卵子の老化を防ぎ、将来この凍結保存した卵子を使用して、妊娠する可能性を残すことです。
晩婚化の進行のよって不妊で悩むカップルは6組に1組と言われており、体外受精によって生まれた子どもの人数は、14.3人に1人(日産婦2019年調べ)となっています。
女性の社会進出が進み、キャリアなどを考慮して結婚や出産に踏み切れない女性や、多様なライフスタイルから妊娠適齢期での出産を希望しない女性も多いのではないでしょうか。
このような社会的背景の中、企業が卵子を凍結保存する社員をサポートする動きが広がりつつあり、アメリカではメタ(旧フェイスブック)やアップルが、そして日本でもメルカリが導入しています。
しかし、卵子の凍結保存には、もちろんメリットもあればデメリットもあり、採凍結卵子を使っても必ずしも妊娠するわけではありません。凍結卵子を使用した場合の妊娠率や費用などについてはこちらの記事でご紹介しています。
では、健康な女性が卵子の凍結保存を決断するのは、どのような理由からでしょうか。今回、凍結するための卵子を体内から取り出す「採卵手術」を3日後に控えた30代半ばの山中美紀さんに、インタビューを行うことができました。
美紀さんが卵子を凍結保存することを決意したのは約1年前。大学を卒業し、新卒から一つ企業で働き続け、キャリアを積み上げてきました。この間、何人かの男性と交際したものの結婚には至らなかったそうです。そんな有紀さんが卵子凍結を知ったのは、およそ3年ほど前だそうです。
この記事の目次
将来の不妊治療の様々な負担と、今の年齢で卵子凍結することを比較した
凍結卵子という「切り札」は、2人目、3人目でも使える
卵子凍結で通院することで、自分の妊孕性を確認する目的も
女性の人生の選択肢を広げる一つの方法として
将来の不妊治療の様々な負担と、今の年齢で卵子凍結することを比較した
―3日後に採卵手術だそうですね。これまで何回通院されたのでしょうか?
「初診も含めて8回です。後半の4回は3日に1回程度、検査などで通院したので、大変でした。」
―今、どのようなお気持ちですか?
「そうですね、最終的に何個凍結できるのかは気なります。約20個と言われていますが、実際に採れる数が気になります。」
―20個ですか!ご年齢から考えると多いですね。体調はいかがですか?
「採卵に向けてこれまで排卵を誘発するための注射を打ってきたので、昨日ぐらいからお腹の張りを強く感じるようになって、今朝は起きるときに凄く違和感を感じました。」
―卵子凍結は金銭的な負担も決して少なくないと思います。これに向けて貯金していたのですか?
「いいえ、卵子凍結を目的に貯金していたわけではありませんが、大学を卒業してから10年以上働いてきたので、ある程度の貯金はありました。」
―では、その貯金を取り崩してでも、卵子凍結をやってみようと思ったのですね?
「はい、決して安い費用ではないですが、周りで不妊治療をした人の話を聞くと、治療費で外車が買えるだとか、場合によっては家が買えるなんて話も聞いて、今の年齢を考えると卵子を凍結保存した方が効率がいいかなと思いました。もちろん、凍結した卵子を使っても必ず妊娠するとは限らないことは理解しています。」
―不妊治療の費用を考えると、妥当な金額だということでしょうか?
「お金だけではないです。もし将来不妊になってしまったら、通院費(治療費)はもちろんですが、通院の時間や精神的な労力がすごく大きいそうです。すぐに妊娠できればいいですが、なかなか妊娠できずにクリニックを転々とする人も多いそうです。また、不妊治療は身体の状態によって通院日が直前に決まったりするそうなので、仕事との両立が難しいと思います。私はこの先も仕事をしていくつもりなので、そういった色々なことをトータルして考えたら、今の年齢で、未婚でも早めに卵子を凍結した方がいいのではないかと思いました。」
凍結卵子という「切り札」は、2人目、3人目でも使える
―自然妊娠する可能性は考えましたか?
「もちろん考えました。ただ、年齢が上がってしまいなかなかできにくいという方はすごくたくさんいると思います。そうなった場合に凍結卵子という「切り札」があると、今の妊孕性で体外受精ができるのはすごく心強いです。」
「第2子に関しても、第3子を考えるにしても、第1子の時よりもさらに年齢が上がっているので、今回、凍結した卵子を使うことができるのはとても安心です。」
卵子凍結で通院することで、自分の妊孕性を確認する目的も
―卵子凍結によって将来への安心感を得られたのですね。
「はい、卵子を凍結することによる将来の安心感もありますが、実はもう一つ目的があります。それはAMH値(AMH説明のページへ)など自分の今現在の妊孕性を確認することでした。もし問題があれば早めに対策できますので。」
―妊孕性の健康診断ですね。
「そうですね、妊孕性は健康診断では調べてくれません。色々なリスクがあるのに自分の意思で産婦人科に行って、この検査をしてくださいと言わないと調べられないので。私も卵子凍結を知って、調べるまで全く知識がありませんでした。卵子の凍結保存に関しては、お金の問題も大きいとは思いますが、私みたいに現在パートナーがいない場合や、結婚したい人がいない人は、妊娠について考える機会もあまりないので、知識も少ないと思います。卵子を凍結して保存するという選択肢があることも含めて、多くの人たちに知ってほしいと思います。」
―最後の質問になりますが、自然妊娠以外の方法で妊娠することに否定的な男性もいると聞きます。将来のパートナーには、卵子を凍結していることをいつ話しますか?
「おそらく付き合っている時に言うと思います。もちろん相手の考え方を考慮しながらになると思いますが、もし肯定的だなと感じたら言うと思います。否定的だなと感じたら、実際に結婚するかも分からないので言いません。ただ、結婚した時は100%言うと思います。私には凍結卵子という「切り札」があるって。(笑)
女性の人生の選択肢を広げる一つの方法として
卵子の凍結保存については、個人や専門家によって賛否が分かれるところもありますが、今回は凍結保存を希望した美紀さんの考え方を、インタビューを通じてご紹介しました。
女性は、仕事や結婚などの時期について様々な選択肢を持っていますが、妊娠・出産することにおいては明確にタイムリミットがあり、このことが女性のライフプランを限定的なものしている側面もあります。卵子を凍結保存することによって、これを必要とする女性の選択肢が少しでも広がるのであれば、それは本人にとっても、そして社会にとっても良いことではないかと、筆者は感じました。
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