体外受精とは、体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療法です。厚生労働省の統計では、2018年に生まれた赤ちゃんのうち、16.1人に1人が体外受精で生まれた計算になり、年々増加傾向にあります。では、この体外受精で出産をした場合、生まれた赤ちゃんの体重に何らかの影響があったのでしょうか?
体外受精による出生児の体重については、以前に私たちも発表しましたが、最近、これに関し興味深い論文が出ましたので、今回はこの論文の内容をもとにお話しをしましょう。

体外受精の方法によって、赤ちゃんの体重への影響も変わる

体外受精にはいろいろな方法(手技)があり、この方法によって生まれてくる赤ちゃんの体重に影響します。この現象に関し、先ず始めに私たちが報告した論文からご紹介しましょう。
私たちは、日本産科婦人科学会が毎年まとめている日本の体外受精の成績データと、厚生労働省がまとめている日本で出生した総ての出生児の同時期のデータとを比較検討し、医学雑誌に報告しました(Fertil Steril. 2013 Feb;99(2):450-455)。インターネットを用いて全国の体外受精の結果を登録できるシステムが確立したのが2009年でした。体外受精の結果を登録するデータは、出生児の状態まで含みますので、治療を開始しすぐに妊娠したとしても、出生児のデータが出るのは約1年後となります。そこで、登録システムが確立した2009年に、過去の結果である2007年1月から12月に体外受精の治療をした方のデータを入力しました。
2007年12月に治療した方が生まれるのは2008年10月頃であるため、このデータをまとめて登録できるのは2009年が最短となります。このようにして集めた最初の2年間、すなわち、2007年、2008年に日本で治療されて出生した児について解析しました。

新鮮胚を移植して出生した赤ちゃんは、体重が軽い

この2年間に352,682件の体外受精による治療が行われました。この治療で出生した赤ちゃんは、41299人でした。このうち、正期産児(妊娠37週から41週に生まれた児)、かつ単胎で出生した25,777児について解析しました。双子や三つ子などの多胎になると、体重に影響がでることが予想されるため、今回の解析から除外しました。また、同時期に日本で出生した、すべての赤ちゃんとも比較しました。

図1を見てください。この結果、体外受精の治療で出生した赤ちゃんを、各妊娠週数別に分けて検討すると、どの妊娠週数で出生した赤ちゃんでも、新鮮胚を移植して出生した赤ちゃんは、凍結融解胚を移植して出生した赤ちゃんと比較すると、出生体重が約100g低い値を示しました。このころ、世界のいくつかの国からも同様の報告が発表されたため、この現象は真実だと考えられます。

自然妊娠で生まれた赤ちゃんより大きく生まれる体外受精の方法は?

さらに、私たちは、同時期に日本で出生した総ての正期産単胎児と比較しました。その結果、各妊娠週数で出生した日本の総ての赤ちゃんの体重は、新鮮胚移植で妊娠した赤ちゃんと、凍結胚移植で妊娠した赤ちゃんの体重の、ちょうど真ん中の体重でした。体外受精を行い、胚を凍結せずにすぐに新鮮胚の状態で胚移植した場合、日本の平均より約50g小さく生まれ、受精し発育した胚を一旦凍結し、その後に融解して移植した場合は、日本の平均よりも約50g大きく生まれることがわかりました。しかし、なぜこのような現象が起こるのか、胎盤や臍帯血の遺伝子解析を試みましたが、はっきりした原因は解明できませんでした。

体重に影響するヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)

今回興味を持った論文(Fertil Steril Rep 2021 Dec 31;3(1):13-19)は、妊娠初期のヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)の上昇と、出生時の体重との関係について解析しています。hCGは、妊娠すると胎児を囲う絨毛から分泌されるホルモンで、尿や血液でこのホルモンを測定し、妊娠の有無を検査します。さらにこの論文では、胚に着床前診断(PGT-A)のための胚生検をする行為が、hCGの分泌や出生児の体重に及ぼす影響について検討しています。

この研究では、「自然周期で妊娠した人(150症例)」、「体外受精の新鮮胚移植で妊娠した人(152症例)」、「凍結胚を移植し妊娠した人(150症例)」、「PGT-Aを行なった凍結胚を移植し妊娠した人(150症例)」の4グループに分け、それぞれのグループのhCGの上昇と、出生時の体重を検討しています。hCGの上昇は、図2のように「凍結胚を移植し妊娠した人」と、「PGT-A を行なった凍結胚を移植し妊娠した人」で最も早くhCGが上昇し、続いて「自然周期で妊娠した人」、「体外受精の新鮮胚移植で妊娠した人」の順となっています。

また、出生時の体重では、自然周期で妊娠した人;3336+538g、体外受精の新鮮胚移植で妊娠した人;3195+637g(平均+SD)、凍結胚を移植した人;3396+652g、PGT-Aを行なった凍結胚を移植した人;3320+558gとなっていました。この研究でも、出生児の体重は、「凍結胚移植による出生児」>「自然周期妊娠による出生児」>「新鮮胚移植による出生児」の順番に重く、「PGT-Aのための生検を行った胚の移植による出生児」は、「凍結胚移植による出生児」よりはやや軽くなりましたが、「凍結胚移植で出生した児」と「新鮮胚移植で出生した児」の間の平均体重でした。

また、SGA(出生時の体格が在胎期間に比してかなり小さい児)とLGA(出生時の体格が在胎期間に比してかなり大きい児)の割合は、4グループの間に差を認めなかったことより、この研究者は、PGT-Aのための生検手技は胚の発育に影響を与えないと結論付けています。

体外受精による体重への影響は、安全ではないと意味するものではない

今回の研究でも、凍結胚移植による出生児、自然妊娠児、新鮮胚移植による出生児の体重には有意な差が認められ、その原因として、妊娠初期のhCGの上昇開始時期に差があることが判明しました。このことから、体外受精の操作手技は、hCGに関わる遺伝子の発現に影響を与えているものと推測され、今後さらなる研究が必要と思われます。

しかし、この結果が、体外受精は安全ではないということを意味するものではありませんので、心配しないでください。むしろ、この差が生じ機序を解明することにより、治療法の影響を理解し、安全性をより高めるためる技術開発につながることを期待しています。