二人目以降の妊活のタイミングで悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
第一子の子育てのことや仕事との両立のこと、子どもの進学や教育費などの出費のタイミングなど、色々な事情を考慮して検討しているかと思います。今回は少し視点を変えてみて、出産に関わるリスクから次の出産に最適な時期を検討していきたいと思います。

近年、次の出産までの間隔が短くなってきている理由

皆さんもご存知だと思いますが、図1のように近年は初婚年齢が高齢化するともに、第一子出産平均年齢も高齢化しています。1975年では第一子の出産平均年齢が25.7歳でしたが、2019年には30.7歳と、約5歳も高齢化しました。これに伴い、第二子、第三子の出産平均年齢も高齢化しています。1975年はそれぞれ、28.0歳、30.3歳だったものが、2019年には、32.7歳、33.8歳となっています。出産年齢が高齢化すると、妊娠中や分娩時の産科リスクも増加するため、注意が必要です。

生み始めが遅くなると、二人目、三人目のお産もそれに伴って同じ間隔で遅くなるのかというと、高齢で生むことのリスクも考えるためなのか、遅くはなるものの以前に比べて分娩の間隔が短くなっています。1975年は、第一子と第二子の出産平均年齢の間隔が2.3歳であり、第二子と第三子の出産平均年齢の間隔も2.3歳でした。それが、2019年には、それぞれ2.0歳差、1.1歳差と、出産の間隔が短くなっています。出産の間隔が短くなることが、妊娠中のリスクを上昇させるかどうかについて検討した論文があるので、ご紹介しましょう。

次の出産の「早産リスク」が高まる間隔は?

この論文は、1966年から2006年に発表された130の論文のうち、条件を満たした67の論文にある約1200万件の妊娠を検討したメタ解析論文(Conde-Agudelo et al., JAMA ;295(15):1809-23. 2006)です。前回の出産から次の妊娠が判明した月経までの期間を2つの妊娠の間隔と定義し、この妊娠間隔と妊娠後の妊婦と児のリスクついて調べています。調べたリスクは、「早産」、「低出生体重児」、「SGA(体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満に乳児)」、「胎児死亡」の4つについてです。

図2を見てください。

左上の図は妊娠間隔と早産リスクの確率(オッズ比)を示しています。早産とは、何らかの原因で妊娠予定日の3週間以上前に、分娩が起こるお産を言います。日本では妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産を早産と呼んでいます。早く生まれるほど、長期間の新生児医療(新生児集中治療室での治療)が必要となります。また妊娠34週以降の正期産に近い時期の早産であっても、呼吸障害など長期に障害を残すことが報告されています。ですから、早産にならないように注意することが大切になります。妊娠間隔が短いと、この早産リスクが高まります。また、逆に妊娠間隔が長くてもリスクが高まります。妊娠間隔が18か月未満や50か月以上の場合はリスクが高くなっています。

次に、上段右の図は低出生体重児のリスクを示しています。早産すると出生児の体重は低体重となりますが、これ以外にも胎盤機能が悪く、早産ではなくても低体重児になることがあります。低出生体重児のリスクも、同様に妊娠間隔が短くても、逆に妊娠間隔が長くても高まります。また、下段のSGAも胎児死亡のリスクも同様の結果でした。

リスクの低い妊娠の間隔とは

妊娠間隔が短くても、逆に妊娠間隔が長くてもリスクは高まります。この原因は不明ですが、妊娠間隔が短い時にリスクが上昇するもっともらしい理由としては、妊娠分娩授乳などのストレスで、母体の栄養状態がまだ回復していないことなどが挙げられています。また、妊娠間隔が長い時にリスクが上昇するもっともらしい理由としては、妊娠間隔が長くなると、女性の生殖能力が徐々に下降するためとか、妊娠間隔があくことによって体の状態が初めて妊娠する妊婦と同じような状態になると説明されています。しかし、いずれの場合も、科学的に証明された証拠はないと言われています。このことから、リスクを軽減するには、次の妊娠を先行出産から数えて18カ月から50カ月の間に設定することが最もよい方法と考えられます。

また、最近、Schummers L博士 らが行った研究では、先行出産から数えて24か月までの妊娠間隔が母児に及ぼすリスクについて、母体の年齢の影響を受けないかどうか、検討しています(Schummers L et al., JAMA internal Medicine ;178(12):1661-1670. 2018)。この研究では、「20-34歳のグループ」と「35歳以上のグループ」の2つに分け、各グループの妊娠間隔が及ぼすリスクについて比較検討しています。この結果、全体としては、年齢にかかわらず妊娠期間が短くなることによって母体・児のリスクは増加していました。個々の項目として、母体の死亡率や重症な病気(人工呼吸器の装着や集中治療室入院を必要とする疾患、臓器不全、600ml以上を必要とする疾患、不測の産後の手術など)の罹患率は、高齢グループおいてのみ妊娠間隔が短くなるにつれて増加していました。また、胎児や新生児の異常(死産、出産後1年以内の新生児死亡、重症のSGA、妊娠28未満の出産など)のリスクは、若いグループでより高く認められました。

最適な妊娠間隔を実現するために

このように、先行出産から数えて次の妊娠までの期間が短い場合、妊娠や出産、また出産後も母体に影響があるばかりでなく、胎児・新生児にもかなりのリスクがあることがわかります。次の妊娠を考える時には、その妊娠間隔が自分や児の安全にかかわることを意識してください。また、最初にご紹介したように、2019年の第一子と第二子の出産平均年齢の間隔は2.0歳で、第二子と第三子の出産平均年齢の間隔も1.1歳と最近短くなっていますので、以前よりもより後続妊娠の時期に注意を払う必要があります。しかし、ご紹介した論文は「先行出産」と「次の妊娠をした時点」との間隔ですので、注意が必要です。

「後続の妊娠」は「後続の出産」よりも約10か月早まるため、日本の統計の「先行分娩」と「後続分娩」の間隔より短くなります。すなわち、分娩間隔から約0.8をマイナスする必要があります。しかし、ご紹介した日本の統計の数値を、一人を分娩した方の全員が3人まで分娩した数値と仮定するのなら、この数値はかなりのリスクであると考えられますが、実際はそうではありません。3人を分娩する人はかなり少なく、かつ、1回目と2回目の分娩は平均よりも早い時期に分娩していると推定できます。しかし、最初の論文で示された最適妊娠間隔、すなわち18か月から50か月を意識して次の妊娠を考えていただくことは、とても大切だと思います。また、年齢が若い人であれば、妊娠間隔が最適妊娠間隔になるように、また、最後の妊娠があまり高齢にならないようライフプランを計画することによって、より安全な妊娠出産を実現できると思います。

(著者)
齊藤英和

公益財団法人1more Baby応援団 理事
梅ヶ丘産婦人科 ARTセンター長
昭和大学医学部客員教授
近畿大学先端技術総合研究所客員教授
国立成育医療研究センター 臨床研究員
浅田レディースクリニック 顧問
ウイメンズリテラシー協会 理事

専門は生殖医学、不妊治療。日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長。長年、不妊治療の現場に携わっていく中で、初診される患者の年齢がどんどん上がってくることに危機感を抱き、大学などで加齢による妊娠力の低下や、高齢出産のリスクについての啓発活動を始める。

(著書)
「妊活バイブル」(共著・講談社)
「『産む』と『働く』の教科書」(共著・講談社)

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