『世界一子どもが幸せな国』といわれるオランダ。
これは、ユニセフの『Innocenti Report Card11』によるものです。
私たちは2016年の秋に、その要因を探るために現地を訪れ、政府機関や企業、保育施設から小学校、一般家庭に至るまで訪問し、その柔軟な働き方や夫婦の関係性、子育てなどについてインタビューを行いました。
そして、その結果を『18時に帰る』という一冊の本にまとめました。
コロナ禍である現在、オランダの人たちはどのように日々を過ごしているのか。柔軟な働き方や子育ては、どのように活かされているのか。
私たちはオンラインを使用し、インタビューを実施いたしました。
Vol.1とVol.2で紹介しているのは、10歳、7歳、5歳のお子さんをお持ちのアルマンさん(43歳)とマライヤさん(44歳)夫婦。
Vol.1のマライヤさんに続いて、ここではアルマンさんがインタビューに応じてくれました。父親であるアルマンさんは、オランダにある電力関連会社に勤める会社員。労働時間は週36時間で、月曜から木曜まで1日あたり9時間勤務の契約で働いています。
─子どもについて、どういう考えや未来像を持っていましたか。
「子どもは欲しかったです。ただ、何人欲しいということは決まっていませんでした。自分自身は3人きょうだいなので、漠然ときょうだい同士で遊べるのはいいことだと思っていましたけれども。そのなかで1人目が生まれ、2人目が生まれ。実は、3人目は思いがけずの妊娠で少しびっくりしましたが、僕もマライヤも歓迎すべきことだという意見で一致しました。そのあと、3人で十分だねということを話し合いました」
『18時に帰る 』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方
単行本: 224ページ
出版社: プレジデント社
言語: 日本語
定価:1500円(税別)
発売日:2017年5月30日
残業した時は、別の日の労働時間を減らしたり、夏休みを増やしたりする
─現在、週4日勤務とのことですが、いつからその働き方なのでしょうか?
「僕の状況はマライアと似ていて、子どもが生まれる前までは、週40時間の契約で働いていました。でも1人目が生まれて、すぐに32時間の週4日勤務に変えました。そのあとは、32時間にしたり、36時間に増やしたり、状況によって変えてきましたが、最近は1日9時間の36時間契約で安定しています」
─32時間や36時間と変えてきたのはどういった理由からですか?
「以前は32時間が可能でしたが、その後、より責任のあるポストへの転職をしたため、36時間勤務の労働契約になりました。実際には36時間では仕事が終わらない、つまり労働契約で求められているアウトプットができないため、ときどき40時間働くこともあります」
─仮に40時間勤務が常態化した場合には、会社との労働契約を40時間に変えることで、給料を上げられるのではないでしょうか?
「もちろん会社とそういった交渉をすることは可能です。でも、仮に労働契約を40時間に変えてしまうと、これまでよりも週に4時間多く働かなければならなくなります。具体的には、いま金曜日は休みになっているのですが、40時間勤務になったら金曜日の午前中は仕事をしなくてはいけなくなる。現在のままであれば仕事をしたくなければしなくてよいし、もし仕事が終わらずに溜まっていたら働いてもいい。そこは自分で管理できるわけで、選択できる余地があることにメリットを感じます」
─残業代はもらっていないんですか?
「基本的に残業代はもらっていません。契約している労働時間を超えた場合には、たとえば夏休みを1日増やしたり、今週48時間働いたというときには、翌週に休みを1日増やしたりといったかたちで、バランスを取っています」
週休3日の勤務。スケジュールは、夫婦で話し合って調整
─マライヤさんが水曜日に休み、あなたは金曜日に休みを取っています。水曜と金曜は学校がお昼で終わるということ以外に、休む曜日に意味はありますか?
「水曜には水泳とサッカーという習い事があります。どちらかというと、僕はそういう習い事がない日に面倒を見るほうが好きです。ただ、休みの曜日は必ずしも固定しているわけではなくて、ときどきスイッチすることもあります」
─仕事の契約上では水曜日が休みでも、水曜日に働いて、その代わりに金曜日に休んでもいいわけですよね。そうした働き方の柔軟性は、我々が2017年に刊行した『18時に帰る』という本の取材でも、そういった話を何度も耳にしました。
「そのとおりで、我が家でも急なミーティングやプライベートな用事があるときなど、2人で相談し、柔軟に働く日時を交換しているということです」
─マライアさんは、料理などの家事はフィフティ・フィフティ(50%50%)と言っていました。アルマンさんはどう感じていますか?
「実際のところはマライヤのほうが多くて、60%40%くらいだと思います。というのもある程度の役割分担があって、僕は家計の管理や税金の申告といったペーパーワークをやります。その分、家事の量が少ないという意味です。トータルで考えると、フィフティ・フィフティに近いと思います」
─お子さんが学童や学校に行っているときに病気になったら、誰が迎えに行って、看病をするのでしょうか。
「基本的にお互いで相談して決めることですが、どちらの職場のほうが学校に近いかというと僕のほうなので、僕が迎えに行くことになると思います。ただ、幸いにも我が家の子どもたちは体が丈夫なので、そういう状況になったことがほとんどありません」
子どもが3人以上いる家庭は、優先的に出社してもいいという社内ルールができた理由とは?
─次に。コロナ禍での働き方についても教えてください。
「元々は週4日のうち、3日が本社オフィスに通っていて、もう1日が別の営業所に通勤していました。しかし、コロナ禍が発生し、ほぼほぼ在宅ワークに切り替えました。会社としては厳格な規則ができ、従業員のうち20%以下までなら勤務してもいいというふうになっていました。そのなかで、子どもが3人以上いる社員は優先的に出社していいという救済措置もありました。複数の子どもが家にいると仕事にならないことから、パーフォーマンスを保つためにも会社にくるようにという意味だったと思います」
─小さい子どもが3人もいると仕事にならないですよね。
「子どもが3人いると、常に そのうちの誰か1人は常に トラブルを起こしますから(笑)。ただその処置も厳密なものでなくて、たとえば僕の同僚は子どもが1人だけですが、一方で家がとても小さいことから、出社が認められているケースもありました。個別の事情をきちんと配慮していると感じました」
─在宅ワークによって仕事の効率は上がりましたか?
「メールやミーティングが多くなり、仕事の密度が濃くなったと感じています。その結果、関係者が少ない小さなプロジェクトについては、かなりスムーズに目標までたどりつけるようになっと感じています。一方で、大きなプロジェクトの場合は、目標を達成するのが難しくなっていると感じています」
─それはなぜでしょうか?
「複雑で大きなプロジェクトだとメンバーが多いからです。たとえばオンラインミーティングでは、5人以上が参加すると、全員の意見やインプットを聞くことが難しくなります。それぞれのチームメンバーに指示も出しづらいし、誰が何をやっているのかも曖昧になります。あくまで個人的な意見ですが」
─そういう意味では、ワクチン接種率が上がり、社会的な規制が撤廃されたら、リアルでの活動をベースにした元の働き方に戻るということでしょうか?
「会社からまもなく通達がくると思いますが、僕の場合は週2回会社で働いて、週2回自宅で働くことになるでしょう。このことは、コロナ以外にも要因があって、僕が勤めている会社については、そもそもオフィスの大きさに対して従業員が多すぎたんですね。というのも、世界中で同じだと思いますが、ヨーロッパではエネルギートランジション(転換)が大きく進んでいます。つまりガソリンやガスなどの化石燃料の使用量が減っていて、そのぶん自然エネルギーによる発電量が増えている。そのなかで僕が勤める会社も年率で5〜10%ほど成長しているのです。だから会社としてはコロナに関係なく、手狭になってきたオフィスではなく自宅で働いてほしいと願っているということです」
採用基準はスケジュールが合っていることではなく、仕事の能力(スキル)が高いこと
─1人の働き手としては、いかがですか?
「自宅での仕事はとても素敵ですが、一方でリアルでのミーティングの場も必要だと思っています。すでに10人ほどが関わる大きいプロジェクトについては、プロジェクトマネージャーがイニシアチブをとって、毎週1回、水曜日にオフィスでリアルのミーティングを行っています」
─なぜ水曜日なのでしょうか? オランダの小学校は、水曜日が半日で終わると聞いていますが。
「このプロジェクトの場合、たまたまみんな水曜日の都合がよかったからです。一方で、1つの問題も発生していて、新しくプロジェクトメンバーを採用したのですが、その人が水曜日は休みになっているので、解決策を探さないといけません」
─水曜日に参加できることが採用する条件になっていなかったんですか?
「もちろん考慮はしますが、スキルのほうが大切です。採用候補者のなかで、水曜日に働けない人が最も豊富な経験をもつ優秀な人でした。だからその人を選びました。スキルがない人だと、そもそもその仕事を任せることができませんよね。スケジュールに関する解決策は、後からみんなで話し合うことで出てくるでしょう」
在宅ワークのための特別手当で、昇降式のデスク(400ユーロ)を購入した
─コロナ禍での在宅ワークについてもう少し詳しく教えてください。なにか特別な手当てが出たり、サポートがあったりしましたか?
「会社は自分たちの利益のためにも、従業員の健康を維持することは重要です。その中でデスクやチェアには標準仕様があって、オフィス環境はすべてそれに従っています。コロナによって在宅勤務が強いられるようになったわけですが、やはり同じように従業員の働く環境は整えるべきだと考えたようで、850ユーロがオフィス家具を買うための費用として、200ユーロがパソコン用モニターなどのICTのための費用として支給されました」
─具体的にはどういったものを購入しましたか?
「オフィスチェアやモニター、あとは昇降式のデスクです。昇降式のデスクは400ユーロくらいしましたが、非常に使い勝手がいいです。デスクワークのときには座って使い、オンラインミーティングのときやデスクワーク中でも気分を変えたいときには立って使用します。立ったり座ったりできるので、健康のためにもいいです」
─ちなみに以前はどのような環境だったのですか?
「コロナが発生し、在宅ワークが始まったばかりのときは、先ほど言ったような設備が整っていなかったこともあって、マライヤも僕もダイニングデスクで仕事をしていました。どちらかがオンラインミーティングをするときは1人はベッドで仕事をしなくてはいけなかった。やはりこれではあまり効率はよくありません。今は家の中に、異なった環境のオフィススペースが3箇所あって、仕事の内容やそのときの気分によって使い分けをしています」
─通信費などはいかがですか?
「通信費のほか電気・水道代やオランダ人が大好きなコーヒーなどの意味も含まれていると思いますが、在宅勤務手当として毎月45ユーロが支給されています」
学校閉鎖中は週に8時間、会社公認でホームスクーリングをしていた
─在宅ワークでの勤怠管理はどのように行っているのでしょうか?
「どのプロジェクトに何時間を割いたのか、ということを自分で登録します。そのときにアクティビティ(作業内容)を選択するのですが、コロナによって〝ホームスクーリング〟というタブができました。つまり、在宅ワーク中に子どもの勉強を教えても給料が出ますよということです」
─それはすごい仕組みですね。具体的にはどのくらいの時間を割いていたのですか?
「ロックダウンで学校が閉鎖されている間の話ですが、子どもたちは1日に5時間のホームスクーリングをしていました。そのなかで、僕は週に8時間をホームスクーリングに割いていました。ちなみにマライアも週に8時間を割いていたので、全部で週16時間になります」
─ホームスクーリングばかりに時間を割く人は出てこないんですか? 上限が決められていたりしないんですか?
「それはありませんね。なぜなら求められる仕事のアウトプットは変わらないからです。ホームスクーリングに時間を割けば割くほど、本業のほうがタイトになってきます。そういった理由から僕は上限をあまり気にしていませんでしたので、上限があったかどうかは確かではありません」
─マライアさんはずっと2人一緒に家で仕事をすることに関してストレスを感じていたようですが、アルマンさんはいかがですか?
「2人で同じ屋根の下で仕事をするということに関して言えば、僕はまったくストレスを感じていませんでした。むしろ同僚とリアルでのコミュニケーションがなくなった中で、台所でマライヤとコーヒーブレイクができるなど、 良い気分転換になっていました」
─アルマンさん、マライヤさん。貴重なお時間をどうもありがとうございました。
続きまして、次回からはヒッデさんとシンディさん夫婦のインタビューを紹介していきます。
(著者)
秋山開
公益財団法人1more Baby応援団
専務理事
「二人目の壁」をはじめとする妊娠・出産・子育て環境に関する意識調査や、仕事と子育ての両立な どの働き方に関する調査、啓蒙活動を推進。執筆、セミナー等を積極 的に行う。 近著の『18時に帰る-「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族 から学ぶ幸せになる働き方』(プレジデント社)は、第6回オフィス 関連書籍審査で優秀賞に選ばれている。二男の父。
(著書)
『なぜ、あの家族は二人目の壁を乗り越えられたのか?』ママ・パパ1045人に聞いた本当のコト(プレジデント社)
『18時に帰る』「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方(プレジデント社)
(講演・セミナー例)
〇夫婦・子育ての雑学を知る!「ワンモアベイビー 2人目トリビア」 など
〇著者が語る、オランダの働き方改革 ~オランダが「世界一子どもが幸せな国」になれたわけ~