今回は、妊娠時のコーヒー摂取が出産後の赤ちゃんの脳に影響があるかもしれないという論文が最近報告されたので、コーヒーやお茶などに含まれるカフェインが妊娠や胎児・出生児に及ぼす影響について考えてみたいと思います。
多くのものに含まれるカフェインとその作用について
多くの皆さんは、仕事の休憩時間にコーヒーや紅茶、緑茶、または清涼飲料水などを飲み、リラックスされているかと思います。これらの飲み物にはカフェインが多く含まれていますが、このカフェインの作用には、覚醒作用、血管拡張作用、交感神経刺激作用、胃酸分泌促進作用、利尿作用などがあり、その作用を意識して飲んでいる方も多いと思います。また、医療用でも、片頭痛や高血圧性頭痛のための医薬品の成分として使われていすが、過剰に摂取すると一般の成人でも頭痛や心拍数の増加、不安、不眠、嘔吐、下痢などの症状を引き起こします。カフェインは胎盤を容易に通過するため、妊娠中の場合には、流産のリスクが高まったり、胎児の発育が阻害されたりする可能性があるとも言われています。また、授乳中の方では母乳を介して乳児に影響を与えるので、この時期の摂取量は注意する必要があります。
以前にも「カフェイン摂取の妊娠への影響」について、妊娠することを試みてから実際に妊娠するまでにかかる時間とカフェイン摂取量との関係について解説したことがあります。(ライフスタイルと妊娠までにかかる期間 ~あらゆる年齢層の方ができる妊活⑤~| ワンモア・ベイビー・ラボ (1morebaby.jp))この時引用した論文(Hassan MAHら(:Fertil Steril 81; 384-392, 2004 )には、コーヒーや紅茶を一日に7杯以上飲まれる方は妊娠しにくくなると説明しました。この量はかなり大量ですが、カフェインはコーヒーだけでなくいろいろな飲み物に含まれているため、妊活中はカフェイン摂取にも気を配ることも必要ですね。
世界各国におけるカフェイン摂取の推奨量について
日本では、厚生労働省がカフェインを食品添加物として使用することを認めています。この情報に関しては、食品安全委員会が国内外の情報を収集し提供していますので、詳しく知りたい方は、下記のサイトを参照してください。
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_caffeine.pdf
その中から、特に妊婦や子どもに関するところを抜粋してみると、
①世界保健機関(WHO)は2001年に、「紅茶、ココア、コーラ飲料は、ほぼ同程度のカフェインを含み、コーヒーにはこれらの約2 倍のカフェインが含まれている。このため、カフェインの胎児への影響についてはまだ確定していないが、妊婦はコーヒーの摂取量を一日3~4杯までにすべき」、としています。
②英国食品基準庁(FSA)は2008年に、「妊婦がカフェインを摂り過ぎることにより、出生児が低体重となり、将来の健康リスクが高くなる可能性がある」とし、以前は300 mg を上限とすることが望ましいとしていましたが、新たな助言においては、妊娠した女性に対して一日当たりのカフェイン摂取量を200 mg(コーヒーをマグカップで2 杯程度)に制限するよう求めています。また、「高濃度のカフェインは自然流産を引き起こす可能性があることを示す証拠がある」、としています。
③カナダ保健省は、2006年に、
・健康な成人に比べ、子どもの行動に及ぼすカフェインのリスクは高く、また、妊娠適齢女性の生殖に及ぼすリスクも高い。
・カフェインの一日当たりの悪影響のない最大摂取量について、12 歳以下の子どもは2.5mg/kg 体重、妊娠可能年齢女性は300 mg/日、その他の健康な成人は400 mg/日までとする。
また、2010年には、
・少量のカフェイン摂取はほとんどのカナダ人にとって懸念はないが、過剰摂取は不眠症、頭痛、イライラ感、脱水症、緊張感を引き起こすため、特に子どもや妊婦、授乳中の女性は注意すること。
・カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性は最大300 mg/日(マグカップで約2 杯)までとする。
④オーストリア保健・食品安全局(AGES)
2010年に、妊婦および授乳中はアルコール及びカフェインの摂取を控えるよう注意喚起を行いました。カフェインについては、一日当たりの摂取量が300 mg を超えないよう勧告しています。
海外のリスク管理機関等の状況をまとめた表も掲載しておきます(表)。
妊娠中に摂取したカフェインによる「子どもの脳への影響」
さて、今回紹介する論文(Zacharyp et al.Neurophamacology186(2021)108479)ですが、この論文では「妊娠中にカフェインを摂取することによって子どもの脳に影響を及ぼすかどうか」を調べるため、小児の脳のMRI画像を解析しています。9~10歳の子ども9,157人の脳MRI検査画像データを用いて、その母親が妊娠中に摂取したコーヒーの量を思い出してもらい、その量と子どもの脳MRI画像との間に何らかの関連が見られるかを検討しています。
その結果、妊娠中にコーヒー摂取すると、脳の白質線維の方向性が異なることがわかりました。この変化は、注意力の欠如や多動などの行動異常と関係する可能性があるといわれており、また、妊娠中にコーヒーを摂取した母親から生まれた子どもの精神病理学的な検査では、問題行動の評価スコアが高いことも判明しました。
このことから、母親の胎内でカフェインに曝露された子どもの多くで、わずかではあるものの脳画像に変化が認められており、この変化に家族歴や社会経済的な要因という行動上の問題につながる他のリスクも重なった場合には、後年になって、子どもの行動面で何らか影響を及ぼす可能性があると思われます。
今回の研究結果から、以前の推奨量でも影響を及ぼす可能性が示されました。このことから、妊娠中のカフェイン摂取はなるべく控える方が良いかもしれません。しかし、これはまだ定説ではなく、今後も妊娠中のカフェイン摂取の子どもへの影響については、さらなる研究が必要であると考えます。