先回のコラムでは不妊治療を受けた方を年齢別に分け、それぞれの年齢群において、どの治療法で妊娠する方が多いのか?を検討しました。30歳未満の方では、タイミング法で妊娠される方が多く、40歳以上で方では体外受精の治療法で妊娠される方が多いことがわかりました。
これは、私が勤める不妊施設では、どの年齢の方に対しても、治療が可能であればまずはタイミング法から行い、妊娠に至らない場合に治療法を人工授精、生殖補助医療とステップアップしている影響も考えられます。しかし、高齢になるとタイミング法ではなかなか妊娠しないため、より高度な治療法を選択しなければならなくなるからだと考えられます。
人工授精や体外受精を行う必要があるケースとは?
さて、今回は高度治療の人工授精、体外受精を取り上げ、年齢別の成績を見てみましょう。日本産科婦人科学会でも、毎年生殖補助医療の成績を発表していますが、どの年の成績においても年齢が上がるとともに治療成績は低下しています。このことから、当クリニックの成績も年齢が高くなるにつれて下がることが十分予測されます。
先回と同様、2019年と2020年の2年間の治療成績について、年齢を30歳未満、30~34歳、35~39歳、40歳以上の群の4群に分け検討しました。
人工授精は、タイミング法で妊娠しない時にステップアップとして行う場合と、精液検査がかなり悪い時にタイミング法をスキップして最初から人工授精を考える場合があります。当科の治療方針では、年齢が34歳以下の場合は最高6回まで人工授精を行い、それでも妊娠に至らない場合はステップアップを考えることを基準としています。また、35歳から39歳までは最高3回、40歳以上の方には早期に生殖補助医療を考慮するとしています。
しかし、患者さんの希望により、妊娠に至らなくてもタイミング法のみを継続して行う場合や、人工授精をずっと継続して行う場合もあります。すなわち、治療方針の基準は設けていますが、実際は患者さんの希望を優先しています。
年代別の人工授精と生殖補助医療の妊娠率
まず最初に、人工授精の年齢別・治療あたりの妊娠率を検討しました。図1を見てください。30歳未満の群では、8.6%と高率に妊娠しています。続いて30~34歳の群では9.8%、35~39歳の群では7.1%、40歳以上の群では2.4%でした。この結果からすると、30代前半までは成績が一定であり、30代後半から低下し、40代は人工授精をしても妊娠するのはかなり難しいという状況です。
次に生殖補助医療です。生殖補助医療は、基本的にタイミング法や人工授精で妊娠に至らなかった方に対しステップアップとして行ないますが、初期の不妊検査で両側卵管閉鎖が認められたり、精液検査の結果が極端に悪いケースにおいては最初の治療として行います。生殖補助医療の年齢別、胚移植当たりの妊娠率を検討しました。30歳未満の群では、74.4%と高率に妊娠しています。 続いて30~34歳の群では43.6%、 35~ 39歳の群では39.0%、 40歳以上の群では26.3%でした(図2)。
当科おいてはステップアップ法を用いているため 妊娠する可能性のある侵襲(しんしゅう)の少ない治療から開始しています。このため、前回お話ししたように30歳未満の群ではタイミング法で妊娠する方が半数以上あり、タイミング法で妊娠しない人が人工授精や生殖補助医療に進みます。
年齢が若い方が生殖補助医療の成績も高い
このことより、生殖補助医療の治療をされている方は、かなり難知性不妊症であると考えられます。しかし、このような方でも、年齢が若い場合では生殖補助医療を行うことによっても高い確率で妊娠することが分かりました。特に年齢の若い方は、人工授精で妊娠しないと失望感がとても大きくなりますが、この結果からもわかるように、積極的に生殖補助医療にステップアップすることをお勧めしています。
このように、年齢が若い時に妊娠を考えると、自然に妊娠に至る確率が高く、たとえ不妊治療を受けた場合も、より負担の少ない治療法で妊娠するケースが多く、さらに高度不妊治療を受けることになった場合でも高率に妊娠できると言えます。一方、高齢な方では、高度不妊治療まで受けるケースが多く、妊娠率も若い人ほど高くありません。
ライフプランを立てる時に考えて欲しいこと
年齢が若いころは、仕事を覚えて活躍しようしている時期でもあり、家庭を持つことを後回しにしやすい傾向があります。しかし、この若い時期は自然妊娠も大いに期待でき、たとえ不妊治療を行うにしても、仕事に支障をきたす度合いも少なく済みます。
一方、高齢になると、自然妊娠できる確率が下がり、さらに不妊治療を受けてもなかなか妊娠しにくくなるります。そのため、不妊治療にかける時間が若い人よりも長くなり、仕事に支障をきたす度合いも大きくなります。年齢が上がると若い時に比べてより重要な役職を任されたりと、仕事に対する支障はより大きなものとなってしまいます。
今回は、皆さんがライフプランを立てるための参考にしていただくことを意図して、当クリニックの不妊治療の成績を説明しました。ライフプランは個人個人様々だと思いますが、もし、将来家庭を持つことを考えておられるのであれば、このような現状も考慮した上でご自身のライプフランを立てていただければ幸いです。
(研究参加のお願い)
埼玉医科大学病院産婦人科の左勝則先生が、文科省の科学研究費で不妊の研究を行っています。
研究の内容は、患者さんご自身の不妊原状況や受けている治療から、1年後2年後に、赤ちゃんと出会える確率を予測する研究です。
調査に参加できる方は、初めて体外受精 顕微授精を行う方です。ご協力いただく内容は、
①体外受精初回時の20問のアンケート調査と②治療開始後 1年後2年後の治療・妊娠情報の調査です。
この 研究が完成すると、患者さんが治療を開始するときのご自分の条件を入力することにより1年後2年後に妊娠している確率がわかります。
ご興味のある方は 下記のサイトから 情報を得てください。よろしくお願いします。
『研究概要説明動画(2分33秒)』
『アンケート調査は、こちから』
『研究概要URL』
(お問い合わせ窓口)
埼玉医科大学病院産婦人科
研究責任者:左勝則
〒350-0495
埼玉県入間郡毛呂山町毛呂山本郷38
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