新型コロナウイルス感染症が猛威をふるうなか、とても心配されておられると思います。特にこれから妊娠を考えておられ方は、ご自分のことだけでなく、これから宿る新しい命についても心配だと思います。
日本生殖医学会「新型コロナウイルス感染症に対する声明」を受けて考えるべきポイント
4月1日に日本生殖医学会から「新型コロナウイルス感染症に対する声明」が出されました。その内容は
1.妊娠、特に妊娠初期の胎児に及ぼす影響は明らかにされていない。
2.母体から胎児への感染の可能性は不明。
3.妊婦における感染の可能性は高いとは言えない。
4.妊婦が感染した場合に重症化する可能性が指摘されており、また妊婦に禁忌の薬剤による治療が試行されていることから、妊娠が成立した後の感染への対応に苦慮することが予想される。
5.受診や医療行為に関連した新たな感染の発生が危惧される。
このため、不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示することを推奨するというものです。
感染予防を徹底したうえで、体外受精や顕微授精を行い、さらに全胚凍結保存を行う場合には、今回の感染症に関わる心配はまずないと思われます。
しかし、治療途中で感染した場合、その凍結胚が感染しているのかどうかについては不明です。
一方、一般不妊治療、人工授精、凍結胚移植は、その結果が妊娠につながるため、上記に示した3のリスクが出てくる可能性があります。
しかし、不妊治療は年齢との戦いでもあり、新型コロナウイルスの状況が収まるにはまだかなりの時間を要すると考えられるため、高齢者の方にとってはその間に妊孕性(妊娠する力)がかなり低下することは避けることはできません。
感染にかからないうちに体外受精、顕微授精を行い、全胚凍結保存を行うのは一つの選択肢ですが、治療中に感染するというリスクは残ります。
一般不妊治療、人工授精、凍結胚移植については、妊娠後に感染するリスクがあるので、最終的にはご夫婦の判断によると考えられます。
また、厚生労働省のホームぺージには妊婦さんへ向けたリーフレットの中に「 感染が妊娠に与える影響として、現時点では、妊娠後期に新型コロナウイルスに感染したとしても、経過や重症度は妊娠していない方と変わらないとされています。胎児のウイルス感染症例が海外で報告されていますが、胎児の異常や死産、流産を起こしやすいという報告はありません。
したがって、妊娠中でも過度な心配はいりせん。」とあります。
両者の発表には表現の差がありますが、この大きな理由は、これから妊娠する方と、すでに妊娠している方への配慮の違いによるものだと思います。ですので、これから妊娠を考えておられる方は、現在の世界と日本の現状に加え、前述した妊婦における感染のリスクも踏また上で、夫婦で十分に話し合って、自分たちの方向性を決めることが重要となります。
新型コロナウイルスの現状と取るべき行動について
現状をみると、現在(2020.4.2)、世界の新型コロナウイルスの感染者数が100万人を突破し、死者数は5万人を超えたと言われています。
すなわち、致死率は約5%となります。この数値でも、インフルエンザの約50倍の致死率となり、大変危険な感染症といえます。
しかし、すでに新型コロナウイルス感染の結末がわかった数値で考えると、さらに危険度が増し、帰結がわかった261,545人中、回復または退院した人は210,191人、死亡した人51,354人と実に約20%の人が、なくなっています。
当初考えられていたより、かなり悪性度が高い感染症なのかもしれません。
効果的な予防薬や治療薬がまだ、開発できていない現状においては、公衆学的な予防が最も有効な予防法になります。
すなわち、3つの密を避ける行動をとること、すなわち社会的に距離を持つことです。
これに関しては、いくつものニュースで伝えられたように、緊急事態宣言を早く出した都市と早く出せなかった都市を比較して、緊急事態宣言を早く出した都市では感染者率が明らかに低いことが指摘されています。
ですので、緊急事態宣言が出されるか出されないにかかわらず、自らはなるべく不要不急の外出を避け、3つの密を避ける行動を実行することが最善の策と考えられます。
これから妊娠を希望するカップルにとって大切なこと
もう一つ大切なことがあります。
それは、このようなストレスフルな状況においても、行動制限は守りながらも、自分がリラックスできること、趣味、運動など、余暇を楽しむことも実行してください。
常に緊張していると、それだけで精神的にも肉体的にも消耗してしまいます。
最後に、これからの妊娠に関しては、各自の状況がいろいろ異なるので、多くの情報を得て、夫婦でよく検討していただければ幸いです。