私たち公益財団法人1moreBaby応援団は、「日本をもっともっと子育てしやすい社会に変えていく」ことを目的とした助成事業を行っています。船出の年となった2018年度の本事業は、とても光栄なことに、たくさんの団体の皆さんにご応募していただきました。そして、厳正なる第一次審査、第二次審査を経て、私たちは5つの団体に対する助成を決めました。

今回ご紹介するのは、山梨県富士河口湖町の団体「富士山アウトドアミュージアム」です。インタビューの応じてくださったのは、夫婦で同団体の運営をしている舟津宏昭さんと章子さんです。

富士山が“まるっ”と博物館

──本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。最初に「富士山アウトドアミュージアム」という団体について教えてください。

「富士山をまるっとすべて博物館に見立てて、さまざまな活動をしていこうというコンセプトの団体です。富士山には山そのものはもちろん、美しい水、広大な森林、豊かな動植物や気候風土があります。そういった富士山にまつわるあらゆる自然環境を“資料”と捉え、博物館的な視点や手法を用いながら、その価値を損なうことなく後世に残していくことを大きな目的としています」(宏昭さん、以下同様)

──具体的には、どんな活動をされているのでしょうか?

「環境保全活動や環境教育活動を主に行っています。といっても、固いものではなくて、アウトドアを中心にした野外課外活動といったほうがイメージは近いかもしれません。富士山エリアのゴミ拾いをしたり、伐採などで森作りのお手伝いをしたり、子どもたちを対象にしたさまざまな体験プログラムを実施したりです。それ以外では、野生動物の交通事故死を減らすための実態調査などもしています」

──そもそもどういったきっかけで富士山アウトドアミュージアムを設立したのでしょうか?

「元々私はNPO法人富士山クラブというボランティア団体で、富士山の自然環境を守る活動を行っていました。その知見と、私が大学時代に学んだことを掛け算し、2011年に設立した団体が富士山アウトドアミュージアムです」

──大学時代に学んだことというは?

「博物館に関する勉強です。元々私の地元は北海道なんですが、大学進学のために山梨に来ました。そして博物館に関する勉強をしたんです。その知識と経験を活かしています。具体的には、博物館の機能には収集、調査、保存、展示という4つの機能があるのですが、そうした機能をなぞらえ、富士山にあるあらゆるものをたくさん見つけ、その価値をていねいに調べ、大切に保存して、めいっぱい楽しむということをしています。そうした中で、野外活動を通じて、富士山の自然環境を保全していければと考えています」

プログラム「富士山の森が小学校」について

──ありがとうございます。そうした活動の中で、今回の助成金にご応募いただいたのが「富士山の森が小学校」というプログラムということですね。企画されたのは奥様である章子さんだったとお聞きしました。

「はい。私が始めたものです。きっかけはうちの長男が保育園に通っているときのことでした。仲良くさせていただいていたママ友との何気ない会話から、土日や祝日に子どもを預けたいというニーズがあることに気づいたんです。というのも、この富士河口湖町のあたりは、観光エリアになっているので、保育園や小学校がお休みのときに、親が仕事という人が多いんです。聞いてみると、そういった親御さんは、自分の子どもたちに我慢を強いる生活になりがちなのだということでした。それならば、せっかくこのエリアには素晴らしい自然環境のあるフィールドがたくさんあるのだから、お子様をお預かりして、一緒に野外課外活動をしたらいいじゃないかと思ったんです」(章子さん、以下同様)

──では、地元の子どもたちを対象にした活動なんですね。

「そうです。ですから、最初から私は一日預からないと意味がないと思っていました。こうした野外課外活動プログラムというのは、この富士山エリアでは1回2時間2000円とか、3時間3000円とかっていう値段設定だったりします。そうしたものは、主に県外のビジター向けのものだったりするのですが、それでは意味がありません。午前中の早い時間から、親御さんの仕事が一段落する夕方まで預かる。それで、料金は1回で1000円以下にしたいと思っていました。実際、助成金を得られたこともあって、最初は600円で実施しました。当時、料金については主人の意見とやや異なっていたので、ぶつかったこともありましたけど私はそこを譲ることはできなかったですね」

「低料金」かつ「昼食は団体側で用意する」にこだわった理由

──なぜそうした低料金にこだわったのでしょうか。

「共働きといっても、多くのお母さんたちは時給1000円のパートやアルバイトだったりします。たとえば1日5時間働いたとしますよね。そうすると、5000円の収入になります。そこから2000円とか3000円を取るとなると、1回だけならいいかもしれませんが、定期的にリピートするにはハードルが高くなります。スタートが休日に働く親御さんのサポートだったのに、金銭的に負担になってしまっては意味がないということです。特に、共働きだと夫婦でお財布が別で、お母さんのポケットマネーが使われるケースが多かったりするので、その意味でも負担を減らしたいという思いがありました」

──1日預かるとなると、お昼はお弁当を持参するのですか?

「そこも私にはこだわりがあって、こちら側で用意するというのが基本です。というのも、日常的にお弁当を作っていない共働きのお母さんにとって、お弁当づくりって意外と負担が大きいものだからです。負担を減らしたいのに負担を増やたら本末転倒なので。たとえば野外課外活動の一つとして、みんなでカレーを作るといったことも入れたりしています」

何をするかも大事だが、「いろんなところに連れて行く」も大事にしている

──お料理というのも活動の一つになるんですね。それ以外にも、どういったことをされているのか、具体的に教えてください。

「富士山と一口にいっても、いろんなところがあります。富士五湖や青木ヶ原樹海、洞窟、渓流、キャンプ場、自然豊かな公園など数え上げればきりがないんですけど、とにかくいろんなところに連れていきたいというところが、一番にあります。というのも、子どもたちに自分たちが生まれ育った地域の良さを存分に感じさせることができれば、結果的に、富士山アウトドアミュージアムの大きな目的である富士山の保全につながっていくと考えているからです」

──なるほど。それはどうしてですか?

「環境保全の第一歩は、関心を持つことだからです。たとえば、これは極端な例ですけど、富士山の五合目に高層マンションを建てるという案が出たとします。子どもたちは、全員が地元に残るわけではないと思いますが、たとえ外に出ていった子でも、地元に対していろんな思い出が残っていれば、無関心ではいられないはずです。そうなれば、地元に残った誰かがアクションを起こしたときに、何らかのフォローをしようと考えたりするでしょう。そういうことの積み重ねが、富士山を後世に残していくということにつながっていくのだと私たちは考えていまするんです」

──場所は、富士山エリアのいろんな場所であるということはよくわかりました。では、そういった場所で行っていることも教えてください。

「たとえば、樹海であれば、落ちている松ぼっくりを拾って、カサが何枚あるのか数えて、小学1年生であればその足し算をし、2年生なら掛け算をしてみる。そういう感じで、国語、算数、理科、社会を区別することなく、いろんなことを絡めた学びができるようなプログラムを企画し、実施しています。ですが、それ以上に大事にしていることは、子どもたちの主体性です。子どもたちがその場所で『やりたい』と言ってくれたことをできる限り叶えてあげたいというところも大切にしています」

子どもたちの主体性を大事にしている

──たとえばどういったことでしょうか?

「あるとき、富士山の3合目から5合目までのトレッキングをやったことがありました。その道中、ずっと霧だったんですけど、5合目に着いた途端、霧が晴れて、山頂が顔をのぞかせたんです。そうしたら参加していた小学校2年生だった子が、『やっぱりあそこまで行きたいよなー』って言ったんです。普段はそんな大それたことを言うような子どもではなかったので、すごくびっくりして。その言葉を聞いて、登頂プログラムを実施しようって決意したんです。実際に翌年から年に1回を基本に、登山ガイドをきちんとつけて、7合目の山小屋も利用しながら、登頂を目指すということを行ってきました」

──小学生でも登れるんですか?

「高山病などのリスクもあるので、私たちのプログラムでは小学校1年生から3年生までは本八合目(3400メートル)までですが、小学校4年生からは山頂(3776メートル)を目指します。基本的には、親御さんの参加はありません。そうすると、みんな本当に頑張るんです。スポーツなどと違って、自分との戦いですから、親という甘える相手がいないことが利いているのだと思っています。もちろん引率してくれるきちんとした山岳ガイドのアドバイスのもと、無理はさせませんけども、とにかくが、みんな日頃にはないようなパワーを発揮して、登っていきます。最終的に山頂に行ったら、子どもたちには親に電話をかけさせます。『登ったよ!』って。そうすると、親が電話越しに感極まっているんです泣くんです。もちろん下山して、親子が対面するときにも、号泣される方もいらっしゃいますですけど」

──きっとそのお子さんたちにとって、すごく大きな思い出になるし、親としても子どもの成長をすごく感じる瞬間でしょうね。ちなみに、山岳ガイドさんのお話が出ましたが、それ以外のスタッフはどういった感じで運営されているんでしょうか?

「私や夫のほか、たくさんのボランティアスタッフに支えられているのが現状です。その多くは、自身も子どもを持つ親御さんたちです。そうしたスタッフには、専門のガイドさんではなかなか持てない親ならではの能力を持っていて、すごく助かっています。小さい子どもって、やっぱり少し特殊で、いきなり喧嘩しだしたり、予期せぬところで変な動きをしたりするので、親目線がすごく大事なんですね。だから、すごく助けられています。将来的には、そうしたボランティアスタッフに、専門ガイドとしてのスキルを身に着けていってもらうことができれば最高だなって思っています」

お泊まり会に参加した子の親にお願いした「意外なこと」とは?

──登山だけでなく、別でお泊まり会というのもされているとお聞きしました。そちらについても教えてください。

「昨秋、勤労感謝の日を含めた連休中に初めて令和という時代に入る直前ですね、GWの最初にお泊まり会を実施しました。これは1moreBabyさんからの助成金を活用した事業でした。これも参加者は富士山の森が小学校と同様に、地元の子どもたちを対象にしたもので、親御さんたちにほんの少しですが、自由な時間をプレゼントするためにやはりGWは親御さんが仕事だという家庭も多いので、みんなでお泊まり会をしようというものです。今回、アンケートを取ってみたところ、参加したお子さんの親御さんが、すごく自分たちの時間を満喫したということがうかがえて、やってよかったとなって思いました。というのも、共働きしているとはいえ、夜まで仕事がある人は多くありません。だですからから、その時間を利用して夫婦で久しぶりに辛いものを食べたとか、レストランに行ったとか、ピアノコンサートを鑑賞したとか、各々の時間を満喫していたんです」

──「夜は保護者も参加してください」と言うこともできたと思いますが。

「そうですね。そうすることもできたかもしれませんが、私たち夫婦も2人の小学生の子どもを持っているので親の気持ちもよくわかります。だからですから、今回のお泊まり会の参加者を募集する最初の段階からこのように言ったんです。『お子さんが参加されている間、仕事の後には、夫婦やお友達同士で、気兼ねなく自分たちの時間を満喫してください』って。そうやってリフレッシュすることで、子どもたちに愛情を注ぐための英気を養う、みたいな。実際にそういうことができたと思います。皆さんに喜んでいただけてすごくよかったです」

富士山アウトドアミュージアムが目指しているところとは?

──最後に、これからの富士山アウトドアミュージアムの目標についても教えてください。

「こういう活動を地域で継続してやっていると、当然のことながらプログラムに参加してくれた子どもたちも大きくなって卒業していきます。でも、それで縁が切れたわけではなくて、一番大きい子だと今は高校1年生なんですけど、町中とかで会ったときに、『こんにちは』『お久しぶりです』って声をかけたりしてくれるんです。つまり、彼らの中で、富士山をフィールドにした活動の記憶が残っているということなのだと思います」

「きっとそういうことの積み重ねが、富士山という地元の財産を大切にする土台をつくっていくことにつながるのかなって感じています。もちろん現状に甘んじることなく、プログラムの質を向上させつづけることは必要でしょうし、スタッフに対してきちんと対価を払えるような仕組みづくりもしていかないといけないとは思います。ただでも、基本的には今のようなコンセプトで活動を続けていくことができれば、富士山という財産を後世に残していくという我々の目的を達成できると考えているので、ブレることなく続けていくというのが目標になります」(宏昭さん)

──本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました!

「こちらこそありがとうございました」(宏昭さん、章子さん)