前編では、主に「家族への思い」ついて聞いた薬丸裕英さんへのインタビュー。後編である今回は、実際の家族生活や教育のこと、子育てへの考え方についてお聞きしていきます。
5人のお子さんを持つ薬丸裕英さんと妻である秀美さんが、最初に子どもを授かったのは共に24歳のとき。2015年の第一子出生時の平均年齢は、男性が32.7歳、女性が30.7歳で、薬丸夫婦が結婚した1990年当時も男性が29.9歳、女性が27.0歳でしたので、いずれにしても平均年齢よりも若くして子どもを持ったことになります。
このことについて、薬丸さんにお聞きするとこのような答えが返ってきました。
「僕は、あまり年齢は関係ないと思っているんです。もちろん法に触れない範囲ですが、若かろうが、歳を重ねてからの夫婦だろうが、その夫婦のモチベーションとか、取り組み方とかのほうが大切なのではないでしょうか。自分たちもそうでしたけど、若い人は若いなりに考えて子育てをしています。それを見ている年配の方は、『ちょっとそれで大丈夫!?』なんて思うこともあるかもしれませんが、それは重要なことではなくて。その家族なりの考え方は尊重されるべきです」
正しい子育てや教育法はまったくないと思っています
巷には「正しい子育て」や「正しい教育法」といった情報が溢れかえっています。特にインターネットで子育てに関することを検索すれば、莫大な情報の波にのまれます。検索したら、かえって頭を悩ます羽目になったというパパママは、きっと少なくないでしょう。3男2女という5人の子どもを育ててきた薬丸さんは言います。
「正しい子育てとか、正しいやり方というのはまったくないと思っています。特に我が家では型にはめた教育はしたことがなかった。そもそも、その子育ての仕方や教育が良いか悪いかは、先にならないとわからないわけじゃないですか。ちゃんと一流大学を経て、成人して、世の中で仕事についても、それがすべて正しい方向に進んでいるかって言えば、わからないですよね」
「官僚でも不祥事だらけだったりするわけですし、大企業に勤めた人が心の病に罹ったりもするわけですから。だから、勉強ができたからとか、一流大学出たからとか、そういう教育を経たからということでは、僕はないと思っています。そこの家族で、どのような環境で生活してきたか。このことのほうが大切だと思うんですよね。家族の雰囲気とか、一緒に過ごす時間とかで培った、人生への考え方の部分ですね」
「勉強しなさいと一度も言ったことがない」。薬丸さんの子育てに対する考え方
では、具体的に薬丸家では、どのような考えで子育てを行ってきたのでしょうか。
「うちは基本的に放任主義です。よく、『子どもたちを全員海外に留学させた』とか、『英才教育ですね』とかって言われるんですけど、ぜんぜんそんなことはありません。子どもたちが自分で『行きたい』と言ったからサポートしているだけです。妻もそうですけど、僕自身は親であると同時に応援団だと思っています」
放任主義だという薬丸さんですが、それを象徴するエピソードが勉強に関することです。
「本当に申し訳ないくらい、親としてどうなんだって言われるくらい、『勉強しなさい』とは1回も言ったことはないですね。ただ、これに関して妻は言うこともあります。それは我が家の夫婦のバランス。僕の考えとしては、『やれやれ』と言ってやっても絶対に頭に入らないし思っていますし、『やらなくて困るのは自分』という考えもあります。それは個人の問題だと思っているということです」
「つまり、勉強をするのもしないのも、どんな道を進もうとするのかも、すべて個人の問題だということで、親だろうとガミガミ言うことではないということです。重複してしまいますが、単に勉強をすることが大事なのではなくて、なぜ勉強をするのか、あるいはなぜ勉強をしないのかということのほうが大切だということです」
端的に言えば、薬丸さんは、「親がどのような雰囲気の家庭を築くのか、普段からどのように接しているのかが大事」と考えているということです。でも、そのような考え方について、子どもを授かった24歳のときから持っていたのでしょうか。
「いや、もちろん紆余曲折ありましたよ。若い2人が親になるわけですから最初からそんなふうには思えませんでした。今、28年を経て振り返ってみると、子どもと一緒に我々夫婦も大きく成長させてもらったなって感じます。子どもから教えられたことは、たくさんあります。もちろんそうじゃない家庭もあるでしょうけど、我が家の場合は子どもたちとともに成長させてもらったという部分が大きいですよ、本当に」
「最低限のマナーしか教えていない」。薬丸さんの教育への考え方
続けて薬丸さんは、子どもへの教育について、次のようにも語っています。
「教育方針とかはあまりないんですけど、本当に基本的なところで『お箸の持ち方』とか、『ご飯の食べ方』とか、『挨拶』とかそのくらいですね、きちんと教育したのは。最低限のマナーみたいなものだけ教えたとも言い換えられるかもしれません」
「先ほどの話と重複しますが、僕はそこに肉付けしていくのは本人だと思っている。それに加えて、教育は家でだけするものではないと僕は思っているので、そこはちょっと昭和的な感覚なのかもしれないですけど、近所の人だったり、学校の先生だったり、あとは習い事とか部活とかを通じて出会った方々と一緒に育てていけばいいのかなって」
さらに薬丸さんは、子どもたちに対して、上から目線で何かを指示したり、押し付けたりすることはないと言います。
忙しいパパママ必読! 薬丸家で行ってきた「家族会議」や「家族ノート」とは?
一方で、課題が出てきたときに、子どもたちと一緒に考え、解決策を探っていくことは少なくなかったようです。それを象徴しているのが、薬丸家で行われてきた“家族会議”と“家族ノート”の存在です。
「子どもが独立する前は、定期的に家族会議をやっていました。『みんな座って!』ってリビングとかに集めて、会議を開くんですね。議題は、“家族ノート”から引用します。この“家族ノート”とは、俗にいう告げ口ノートみたいなものですけど、そこにみんな言葉で言えないことを書くんです」
「『お兄ちゃんがこういうことをして嫌だ』とか、『妹がわがまま』とか、『こういう部分は我慢して』とか家族内のことがあったり、あとは『学校で誰々にこういうことを言われた』とか、『先生にこういうふうに注意されたけど、自分はこう思っている』みたいな外でのこともあります。それを家族全員で考えて、こうやって解決しようとか、じゃあこういうルールを決めようとか話し合うんです。この間、我が家は大幅な断捨離(大掃除)をしたんですけども、そのときにこの“家族ノート”が出てきて、かなり断捨離の妨げになりましたね(笑)。昔の写真もそうですけど、読んでいたらいろいろ思い出してきて、作業がはかどりませんでした」
今は子どもたちが離れ離れで暮らしていることもあり、家族会議の回数は減ったそうです。開催される場合でも少人数で、7人全員でということは、さすがになくなったようですが、家をあける時間が長かった薬丸さんが、家族をまとめあげたり、家族の様子を把握したりするのに大いに役立ったと言います。
「僕の場合は、家を空ける時間も長かったので、子どもたちがどういうことを考えているのかだとか、時間がなくて言えなかったことは、そういう家族ノートに書き綴ることで補っていました。今は全部ラインとかスマホでやってしまうかもしれないですけど、やっぱりノートに字で書くということもね、風情があっていいことだと思いますけど、みなさんもどうでしょうか(笑)」
「ちなみに、反対のページには議事録もあって、これに対する意見みたいなことも残しておきました。ただ、そこで、なるべく結論は求めないように気をつけていました。先ほども言ったように、僕は“考える力”を植え付けることが大切だと思っているので、僕はあんまり結論じみたことは、書かないようにしていました」
2人目の壁”は考え方次第。兄弟姉妹が多いことのメリットはたくさんある
私たち1more Baby応援団では、毎年「夫婦の出産意識調査」というものを行っており、“2人目の壁”*の問題に指摘してきました。2018年5月末に公開した最新の調査でも、「“2人目の壁”について存在すると思う」と答えた人は74.3%と依然として高い結果になっています。
(*2人目の壁……「生活費や教育費に関連した家計の見通しや、仕事等の環境、年齢等を考慮し、第二子以後の出産をためらうこと」を指します)
そこで最後に、薬丸さんに「2人目の壁」を感じている人たちへのエールの意味を込めて、2人目以降の子育てについてもお聞きしました。
「僕らの経験を話すと、やっぱり1人目よりも2人目、3人目とどんどん楽になっていきましたね。もちろん大変ですよ。大変ですけど、楽というか、良い意味で手を抜くことを覚えていくので、うちでは“ザッツ(雑)子育て”と呼んでいるんですけど、あんまり真剣に考えすぎず、気を楽にして育てることで、乗り越えていきました」
「反論があるかもしれませんが、多くの人に『2人目3人目って増えていくと大変でしょう?』って聞かれるんですけど、そこまで大変じゃないんですよ。2人のご飯をつくるのも3人のご飯をつくるのもそこまで手間は変わらない。もちろん僕じゃなくて、妻が言ったほうが、説得力があるのでしょうけども、妻ともそういう話は何度もしているので、同じ意見だと思います。実際、我が家では他の家族の子どもを預かるということも多かったですから(笑)」
また、兄弟姉妹が多いことで良いこともたくさんあると言います。
「兄弟姉妹が多いことの良さもたくさんあるんですよ。当たり前のことかもしれないけど、子ども同士で遊んでくれたり、上の子が下の子の面倒を見てくれたりとか、もちろんときには喧嘩をすることもありますけど、そこでやっぱり子どもの世界は子どもの世界で回っているので、そのできた時間、空いた時間で妻は家事ができるみたいな。だから、“2人目の壁”って最後は考え方次第だと僕は思います。もちろん苦労はゼロではないですよ。ゼロじゃないけど、本当に考え方とか環境づくりとか、意識改革とかで、大きく変われるし、なんとかなると僕は思います」
生放送を含む複数のレギュラー番組を抱えるなど、タレント活動で忙しい日々を送る薬丸裕英さん。さらに先ごろ放送された番組では、この5年間ずっと日本とハワイの二重生活を続けていることをテレビで披露しました。そんな多忙な日々を送っているのも、すべて家族のためだということが今回のインタビューから伝わってきました。薬丸さん、今回は貴重なお話や参考になるエピソードをお聞かせいただいて、どうもありがとうございました!