さて、昨年、このホームページで、男女の妊娠適齢期のお話をしました。たぶん、皆さんはなるほどと思われたことと思います。しかし自分の現実に当てはめると、では、どうしようかと悩まれるのではないでしょうか。今回、その後得た情報の内、皆さんの決断に役に立つと思われるお話をしましょう。
欲しい子どもの人数に応じて妊活を始めるリミットの年齢がある
皆さんはいろいろな職種についておられ働き方も異なると思います。ですので、自分がいつ妊活を始めたらよいかは、職種やおかれた生活環境によりそれぞれだと思います。ですが、以前お話したように、20歳を越えた方であれば、子どもを持つならなるべく早い時期がよいことは明らかですので、欲しい子どもの人数に応じて妊活を始めるリミットの年齢があると知っておくと、行動も起こしやすくなるのではないでしょうか。
このことを考えるための重要な情報はヨーロッパの生殖医学の専門雑誌Human Reproduction に掲載された論文にあります(Human Reprod, 30 (9), 2215-2224,2015)。
この論文には子ども1人、2人、3人持つには、いつから妊活を始めたらよいか、自然の妊娠率や体外受精などの不妊治療による妊娠率などから、妊活を開始する年齢と児を持つことができる率の関係を算出しています。これによると、子どもを欲し場合でも、自然のタイミングだけで妊娠する場合と体外受精などの治療を利用して妊娠する場合とでは、妊活を開始する時期が異なります。
最初に、1人子どもを持つための妊活開始時期についてお話しましょう。図1をみてください。
この図には、自然のタイミングで子どもを持つために妊活を開始した年齢における子供を持てる確率(破線)と、体外受精を用いて子供を持つために妊活を開始した年齢における子供を持てる確率(実線)があります。どちらの方法による妊活でも、開始年齢が高くなるほど子どもを持つことができる確率は低下していきます。この論文では、絶対に子どもを持ちたいという確率を90%としていますが、自然の方法で90%の確率で1人子どもを持ちたいと考えているのであれば、遅くとも32歳には妊活をスタートしなければなりません。体外受精の治療で90%の確率で子どもを持つ場合でも、遅くとも36歳には妊活をスタートしなければなりません。体外受精を用いても、+4年しか開始年齢が遅くなりません。でも、できれば子どもを持ちたい(確率75%)という気持ちであれば、自然では37歳、体外受精を用いた場合では39歳の妊活開始でよいことになります。さらに、子どもを持てても持てなくてもよいという気持ち(確率50%)であれば、自然では41歳、体外受精を用いた場合では42歳の妊活開始でよいことになります。
一番大切なことは、子どもを持つことに関してどのように考えているか
子どもを2人、3人持ちたい場合には、妊活開始年齢は1人を持つ場合よりも妊活を開始しなければならない年齢は若くなります(図2、図3)。
2人絶対に欲しい場合(確率90%)だと、自然で27歳、体外受精でも31歳には妊活を開始しなければなりません。3人絶対に欲しい場合(確率90%)だと、さらに若い年齢で開始しなければならず、自然で23歳、体外受精でも28歳には妊活を開始しなければなりません。これらを表1にまとめるとこのようになります。
これらを参考に、ご自分の妊活開始時期を考えてみてください。
一番大切なことは、ご自分が、またはご夫婦が子どもを持つことに関してどのように考えているか、であり、これによって、遅くとも妊活を開始しなければならない時期がだいたい決まります。図3のように、自然な方法で3人欲しい場合では、40歳で妊活を開始しても約15%の確率ですが3人の児を持つことができるわけですから、やはり大切なのは自分、または夫婦の気持ちということになると思います。よく考えてくださいね。
お母さんの出産年齢が高齢化するほど、生まれた娘が子供を持つ確率は低下する
もう一つ、別の話題についてお話しておきましょう。これは今年(2018) Human Reproduciton 雑誌の2月号に掲載された論文で、とても新しい情報です。以前のお話した内容は、男女とも年齢が高くなるとだんだん妊娠しにくくなり、妊娠中の流産やその他の妊娠合併症が増え、分娩の時にもリスクが高まり、さらに出生した児の染色体異常も増えるとお話ししたと思います。すなわち、これらの現象は高齢で妊娠出産することによる、生まれた時点までに現れる影響です。しかし、今回の論文は、高齢のお母さんから生まれた児は成長してからもお母さんが高齢出産であったということで、出生した児が成長した後に母の高齢出産の影響が現れることがあるという論文です。
タイトルはMaternal age at birth and subsequent childlessness (お母さんの出産年齢と生まれた娘の子供がいない状態)です。内容はお母さんの出産年齢が高齢化するほど、生まれた娘がご自分の子供を持つ確率は低下するという内容です。まずはグラフを見てください(図4)。
お母さんの出産年齢20-24歳を基準として、それより若い時に出産すると娘が次の世代の子供(孫)を持たない確率は減りますが、25歳以上の方では出産年齢が高齢化するとともに、娘が子供を持たない確率がどんどん高くなることがわかります。この原因はまだ、解明されていないのですが、疫学での研究では明らかに起こっている現象とされています。高齢のお母さんの卵子の劣化や生まれた後に高齢のお母さんに育てられた環境などいろいろな要因が推測されています。
とにかく、高齢出産の影響は生まれた直後で終わりではないことが分かりました。皆さんはこの情報も知っておいて、ご自分はどうするのか、よく考えてください。