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子宮内膜症で閉経が早くなる?子宮内膜症と閉経のタイプ及び閉経年齢との関連性

齊藤英和 2025年08月26日

子宮内膜症は、何回か本サイトの記事で取り上げてお話しをして来ましたが、この病気は本来は子宮の内側を覆っている「子宮内膜」が、子宮以外の場所(例えば卵巣や腹膜)で増殖する病気で、エストロゲンの影響を受け、20〜30代に多く発症しています。この子宮外で増殖した内膜が、月経周期に伴い炎症や出血を引き起こし、強い痛みを生じたり、場合によっては不妊の原因になることもあります。
関連症状としては、以下の3つがあります。

•性交痛: セックス時に痛みを感じること。これは内膜が異所性で癒着している場合に起こることが多いと言われています。
•排便痛: 腸管が影響を受ける場合に排便時に痛むこと。
•慢性的な下腹部痛や腰痛: 月経期間外でも腰やお腹に痛みを感じること。

子宮内膜症はその他の病状とも深く関係しています。例えば、不妊症や卵巣がんはよく知られた関連症状です。また、周産期合併症や心脈管系疾患、さらには骨粗鬆症発症リスクの増加なども関連が報告されています。さらに、日本では子宮内膜症のある女性が自然閉経を経験する年齢が48.8歳と、子宮内膜症のない女性よりも若いことが報告されています。
子宮内膜症と早期自然閉経の関連を説明する可能性のあるメカニズムには、
①卵巣予備能の減少
②子宮内膜症に伴う卵巣嚢腫摘出による持続的なAMH(抗ミュラー管ホルモン)の低下
③腹膜炎や免疫系機能障害などの不妊原因、さらに、子宮内膜症は自己免疫疾患との併存関係が示されており、早発閉経や早期閉経リスクに寄与している可能性があります。

しかし、これまで子宮内膜症と閉経年齢(自然閉経および手術による閉経)の関連性が具体的に定量化され、探求されていませんでした。また、交絡因子を調整する多変量モデルを使用していないことや、手術による閉経に関するデータが検討されていない点で、子宮内膜症と閉経の関連性が不明確でした。

今回のコラムでは、子宮内膜症と閉経のタイプ(外科的閉経対自然閉経)及び閉経年齢との関連について研究した論文が発表されたため、これについてお話しします(Chung HF, et al. Human Reproduction, 2025,40(6),1210-1219 )。

子宮内膜症と閉経年齢の関係性についての研究概要

子宮内膜症は卵巣予備能の低下と関連していますが、現在、閉経のタイプ(外科的閉経対自然閉経)や閉経する年齢(特に早発閉経)との関係に関する研究報告はまだ少ない状況です。子宮内膜症の女性は、子宮摘出術、または卵巣摘出術(片側または両側いずれか)を受ける可能性が高いものの、これらの手術を行なった平均年齢は明確ではありませんでした。そこで、今回お話しする研究が行なわれました。

この研究では、1996年から2022年にかけて英国、オーストラリア、スウェーデン、日本で実施された5つのコホート研究を用いて、卵巣の機能がまだある閉経前の時期に子宮摘出術や閉経ホルモン療法の使用することによって閉経のタイプと年齢が特定できない症例を除外した279,948人の女性の個別データを分析しています。
子宮内膜症は自己申告及び行政データを用いました。外科的閉経は閉経前の両側卵巣摘出術として定義されています。
Fine-Grayモデルを使用して外科的閉経と自然閉経のハザード比(HR)を推定しました。外科的閉経年齢は最終月経または両側卵巣摘出術の年齢で判断されました。線形回帰は閉経年齢の平均差を評価し、多項ロジスティック回帰はカテゴリー別閉経年齢のオッズ比(OR)を推定しました(<40歳〈早発〉、40–44歳〈早期〉、45–49歳、50–51歳〈基準〉、52–54歳、≥55歳)。自然早発卵巣機能不全(POI)は40歳未満の自然閉経と定義されました。

研究結果から分かった子宮内膜症による閉経への影響

解析結果では、子宮内膜症は全体の女性の3.7%で見つかりました。フォローアップ終了時には、7.9%が外科的閉経を迎え、58.2%が自然閉経を経験しました。競合リスクモデルを用いると、子宮内膜症の女性は外科的閉経リスクが7倍(HR: 7.54, 95% CI 6.84, 8.32)増加し、自然閉経を経験する可能性が低い(HR: 0.40, 95% CI 0.33, 0.49)ことが判明しました。
子宮内膜症の女性のうちで外科的閉経を迎えた人は、自然閉経に比較し1.6年(19か月)早く閉経しました(β: -1.59, 95% CI -1.77, -1.42)。自然閉経を経験した女性のうち、子宮内膜症の女性は子宮内膜症の無い女性と比較して平均0.4年(5か月)早く閉経しました(β: -0.37, 95% CI -0.46, -0.28)。
子宮内膜症の女性は、早発外科的閉経(<40歳)を経験する可能性が2倍高く(OR: 2.11, 95% CI 2.02, 2.20)、または自然早発卵巣機能不全(OR: 1.36, 95% CI 1.17, 1.59)を発症する可能性が1.4倍高い傾向でした。さらに、子宮内膜症の女性は、早期(40–44歳)に外科的および自然閉経の発症も増加しました。

研究結果から分かった大切なこと

これら研究結果から、医学的に早発閉経を防止するためには、子宮内膜症の管理・治療を行う必要があることが分かりました。子宮内膜症がある方は、自然閉経よりも外科的閉経を迎えるリスクが7倍高くなります。また、外科的および自然閉経のいずれにおいても早期または早発閉経を経験する可能性が高く、後年の健康上の悪影響を生じやくなります。そのため、若い時期から子宮内膜症の女性を長期的に健康管理していくことはとても重要であることがわかりました。

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