公益財団法人1more Baby応援団

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11月25日(火)、日本の人口減少が危惧されているなか、全国都道府県・市区町村にとって大きな課題となっている「少子化・子育て支援対策」について考えるシンポジウムを開きました。
前半は、森まさこ前内閣府特命担当大臣(少子化対策)の基調講演、清原慶子市長(東京都三鷹市)、石橋良治町長(島根県おおなん町)、木下賢志官房審議官(厚生労働省)にご講演いただきました。後半に行われたパネルディスカッションでは、清原三鷹市長、石橋邑南町長、中京大学現代社会学部の松田教授に加え、当日来場いただいた200名を越える方々にもリモコンを使用したアンケートを実施し、出産・育児支援にとどまらない、総合的な対策のあり方と未来像についてディスカッションを行いました。本レポートでは、3時間にわたる白熱したシンポジウムの内容をダイジェストでお届けします。

基調講演:「切れ目のない支援」を実現するための取り組みとは?

まず、基調講演として森まさこ前少子化担当相が登壇され、在任中に手がけられた「地域少子化対策強化交付金」創設の経緯について解説。これまで、国民負担率1%あたりの少子化対策費が諸外国の半分程度であったことから、「人口減少は当然の結果」であったことを指摘。そして、都市・地方それぞれの実情に合わせて自由に活用できる財源を確保することで、従来取り組んできた「子育て支援」「働き方改革」の強化と、新たに結婚し子どもを産み育てたいという希望を叶える「結婚・妊娠・出産支援」を加えた3本の矢により、少子化危機を突破するための、「切れ目のない支援」が可能になると明言しました。

また、かつて日本と同じくらい出生率が下がっていたにもかかわらず、現在、V字回復をとげた欧州諸国(フランス、フィンランド、スウェーデン)への視察を通して、「継続的に財源をつけて、あらゆるフェーズの施策を打っていく」ことによって、「国民間の危機意識の共有や国民意識の変化」を促したことが人口減少を食い止めると指摘。そして日本でも、国・地方の連携・協働が不可欠であると訴えかけました。

森まさこ前内閣府特命担当大臣。(少子化対策)前女性活力・子育て支援・消費者及び食品安全・少子化対策・男女共同参画担当大臣。ベビノミクス3本の矢として「子育て支援」「働き方改革」「結婚・妊娠・出産支援」を提唱。

出産数、合計特殊出産率の推移

平成25年の合計特殊出産率は1.43であり、平成17年に1.26と
過去最低を記録してから微増傾向にあるが、なお楽観できない状況。

*出典:厚生労働省「人口動態統計」(2013年は概数)

自治体の取り組み①:「協働」がキーワード
〜都市部まちづくりの現場より〜

続いて、東京都三鷹市・清原慶子市長が登壇。幼稚園年長児から高齢者まで、市民と直接、対話を行いながら「安心して子どもを産み、育てることができるまちづくり」を推し進めた結果、就任後の11年間で特殊合計出生率を0.96から1.10に引き上げることに成功。人口も増加傾向にあり、「ファミリー層を中心に選ばれるまち」になりつつあることを報告されました。

そして、さまざまな施策の実行にあたっては、多世代にわたる市民やNPO法人、大学、企業を巻き込んだ、新たな共助・協働というスタイルが不可欠であることを強調。さらに、子育てと暮らしの質を上げることで、都市が再生され、地域全体のサステナビリティ(持続可能性)を高める効果があることを話されました。

清原慶⼦市長。東京都三鷹市市長。NPO法人との連携で進める子育て支援ポータルサイトは使いやすいと好評。 「みたか子育てネット」
http://www.kosodate.mitaka.ne.jp/

自治体の取り組み②:徹底した子育て支援で町民満足度もUP
〜地方部まちづくりの現場より〜

続いて、島根県邑南町・石橋良治町長が登壇。
自然豊かな環境のもとで、農業をやりながら個人の特技や技能を活かし、
共働き世帯年収450~500万で十分リッチな生活を送ることができるという、新たな就業スタイルを提案し、若者の定住者(UIターン者)への手厚いケアをおこなっていること。

また、「日本一の子育て村」を目指して、婚活から結婚、保健、福祉、教育、住宅など地域ぐるみで子育てを応援するさまざまな施策に取り組んだ結果、町民全体の満足度が84.1%まで上がったと報告されました。

石橋良治町長。島根県邑南町町長。 さだまさしさんに依頼した町のイメージソング「桜ほろほろ」が、今秋完成したばかり。地元食材を使ったA級グルメの味が楽しめる町営レストランも人気。

国の取り組み:政策の組み合わせと積み重ねで人口減少に歯止めを

厚生労働省・木下賢志審議官は、国としての取組み姿勢について、2015年4月から施行予定の子ども・子育て支援新制度の紹介も交えながら、「両立支援と子育て支援の2つが少子化対策の要」でありつつも、正規雇用の拡大など就労支援にも光を当てていく必要があることを指摘。また、大学が地域の優れた技術を、地方の企業と一体となって研究することで、良い人材が地方に根づくきっかけとなるのではと提言されました。さらに、「少子化対策は、社会保障だけでなく、産業政策、教育政策など、さまざまな政策の組み合わせと積み重ねによって成り立っていくものだと思う」と語られました。

木下賢志審議官。厚生労働省大臣官房審議官(雇用均等・児童家庭、少子化対策担当)兼 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部設立準備室次長。

【パネルディスカッション】
後半のパネルディスカッションでは、パネリストとして、中京大学社会学部の松田茂樹教授、石橋邑南町長、清原三鷹市長に登壇いただき、本シンポジウムに先立って実施した、1 more Baby応援団による大規模な調査※1の結果も紹介。また、リアルタイムでアンケート回答を集計できるトータライザーを導入し、来場者の方々のご意見もいただきながら進めました。

※1 2014年10月、全国47都道府県それぞれ各150名ずつの計7,050名対象(20歳〜49歳/未婚・既婚)に、自治体の少子化施策への考え・想いを筆頭に、出産・子育ての意識に関する大規模調査を実施。

都市部と地方における施策ニーズの違いと今後の施策の方向性

調査の結果、現在行われている代表的な施策についての満足度は、自治体の人口規模に関わらず、似た傾向があると分かりました。ただし今後の充実という点では、地方部では、妊婦へのケアをはじめとする出産や子育てへの経済的支援や直接的な金銭支援を望む声が多いのに対して、都市部では幼児教育や保育の質の向上を望む声が多いことが判明しました。

現施策への充実希望度:人口規模別

充実希望度には違いがある。

〜1万:「妊娠のケア」と「出産・子育てへの経済支援」/50万〜:「幼児教育の支援」

*出典:自主調査(2014年10月)

この結果を受けて、松田教授は、「地域によって、少子化を取り巻く背景や状況が異なることを、かなり早い段階から自治体は気づいていたが、国の施策が画一的だったこともあり、各自治体独自の動きができなかったのではないか」と分析。 また、出生率の回復のためには、
①正規雇用の拡大
②女性の就労支援
③子育てに対する周囲(家族、地域)の支え
④子育てを応援する規範や文化の醸成
という4つの要素が必要なのではないかと問題提起されました。

それに対して、石橋町長は「子どもに対して、どれだけ地域が愛情を注げているかということを“見える化”するために、ありとあらゆる財源をかき集めて行った」福祉医療分野を中心とした雇用拡大の施策について言及。続いて清原市長は、「出産という女性の体の変化、生まれた子どもの命の安全を確保する点については、自治体と国が一緒になって保障していかなければならない」と補足されました。都市と地域という単なる二項対立ではなく、自治体ごとにより少子化の背景や問題は異なるため、各自治体が設定する重要課題を優先していく施策を推し進めて行くことが大きなポイントとなりそうです。

松田茂樹教授。中京大学現代社会学部教授、博士(社会学)。専門は少子化対策、子育支援、家族論において、量的研究を行っている。自身も3人の子どもを子育て中。

経済的支援の今後のあり方

第1回シンポジウムで明らかになった「2人目の壁」という新たな社会課題解決において、子育て既婚者のニーズが高い経済的支援のあり方については、「どの地域でも平等でなければならないので、基本は国がしっかり考えるべき。それに加えて地域ごとにプラスすることは必要だと思う」(石橋町長)、「教育費負担も壁になっている」(清原市長)。シンポジウム出席者のみなさん(アンケート:6項目中1つ選択)も33.7%の方が、「保育と教育の助成」が経済的支援としてもっとも効果的という見解を示されました。

パネルディスカッションの模様
(来場者からの意見をリアルタイムで集計)

これに対して、松田教授は「経済的支援を望むご家庭が多いというのは、納得できる数値だと思う」と述べたうえで、保育園も含めた幼児教育と大学などの高等教育という2つの山場を持つ教育費負担の軽減と、住宅費の軽減がポイントとなると明言しました。

また、住民への経済的支援を拡大していくためには、三鷹市のような企業やNPOなどとの協業を望む声は高く、来場者の9割以上の方も希望。加えて「企業との情報交換の場」を希望される方が31.6%いました。「清原市長もおっしゃった通り、公的団体機関だけで全ての子育て支援のニーズに対応するのは無理。そこを埋めていくのが民間の役割」(松田教授)であり、本シンポジウムをはじめとする民間団体による情報交換の場が求められていることがわかりました。

これからの少子化対策、子育て支援対策に必要なキーワードと、
今後実現していきたい未来像

最後にパネリストのみなさんに、これからの少子化対策、子育て支援対策に必要なキーワードを中心に、今後実現していきたい未来像についての思いを語っていただきました。

「わが国の出生率回復のためには、従来、子育て支援に偏りがちだった少子化対策から、未婚、ひとり親、専業主婦世帯など、【幅広さ】をもった施策で、子どもが安心して育っていく環境づくりが必要。それぞれの地域で育ち、進学し、就労することを望む【地元】意識の醸成や、子どもを生みたい、育てたいと思う人たちを応援する【ポジティブキャンペーン】を、民間団体が中心となって積極的に働きかけてほしい」(松田教授)

「地域社会の中で、何らかの役割を担うことにより、【誰もが主役に】なり、笑顔が溢れ、【1,800市町村が輝く】世の中にしたい。また、子どもを主役に考える施策は未来への投資。子どもが増えることで、高齢者の負担も将来的に軽減されるので、人材育成に対する【国の本気度】に期待したい」(石橋町長)

「三つの“あい“をキーワードに様々な取り組みをしていただければありがたい。仕事や愛する人、地域、多世代との【出会い】【支え合い】、そして【愛】に満ちた未来を思い描くこと。基本に愛があって初めて、出生率増に転じると思う」(清原市長)

なお、本シンポジウムの最後に、初代の内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)を務められた猪口邦子参議院議員が駆けつけられ、「すべての役職には必ず任期はあるが、一度、ある地位についた者は、ずっと課題を背負い続けるもの」という思いを語ってくださいました。

また、シンポジウム閉会後に行われた懇親会では、来場者、登壇者のみなさんが一堂に会し、和やかな雰囲気のもと、積極的に情報交換が行われていました。

 

猪口邦子参議院議員。初代内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画担当)。