8月31日(月)、女性が活躍できる職場環境をどのように実現していくかを検討する、ワンモア・ベイビー企業サミット~子どもがふえる働きかた会議~を開催いたしました。
公益財団法人1more Baby応援団理事長 森まさこ(参議院議員・前少子化担当大臣)のご挨拶と趣旨説明から始まり、澤井景子男女共同参画局男女共同参画推進官(内閣府)の基調講演、久保有氏(株式会社セブン-イレブン・ジャパン)、柏崎美樹氏(第一生命保険株式会社)による企業事例のご紹介と続きました。その後に行われたパネルディスカッションでは、金山和香氏(日本たばこ産業株式会社)、小嶋美代子氏(株式会社日立ソリューションズ)、仮屋桂一氏(タマホーム株式会社)から現在の取り組みについてご紹介をいただいたのち、公益財団法人1more Baby応援団評議員 安藤哲也(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)、羽生祥子氏(日経DUAL編集長)、メリヤ・カルッピネン氏(フィンランドセンター所長)と、前段で登壇した久保有氏と柏崎美樹氏も交え、大学生の事前アンケートをもとに、未来の働きかたについてのディスカッションを行いました。具体例を挙げつつ、様々な角度から、子どもがふえる働きかたをみんなで考えたサミットの内容をお伝えします。
まず、理事長 森まさこ(参議院議員・前少子化担当大臣)のご挨拶と趣旨説明で、女性の社会進出について、我が国の現状を解説しました。世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数において、いま日本は142カ国中104位という不名誉な順位であることを指摘。現状は女性がなかなか活躍できていないものの、これから変えていこうという雰囲気が盛り上がってきていると話しました。また、かつては第一子が産まれた時に職場をやめる人の割合が60%であったが、今や50%まで下がってきていることを示しました。女性が安心して働くにはパートナーの協力が必要不可欠であり、そのためには、パートナーの職場環境を変えていく必要があると指摘。さらに、会社の環境を変えるには、その会社の意思決定機関の中に女性が必要であると訴えかけました。我が国にも育児休業中の給料保証など、世界に誇れる保証制度があるものの、政府と企業、そして皆の力で、会社の制度をもっと良いものに変えていくことが大切であると述べました。
森まさこ前内閣府特命担当大臣(少子化対策)前女性活力・子育て支援・消費者及び食品安全・少子化対策・男女共同参画担当大臣
基調講演として、澤井景子男女共同参画局男女共同参画推進官(内閣府)が登壇され、女性の年齢別労働力率について解説。日本では25歳~40歳の時期、子育て期の女性の労働率が低下すること、それは結婚や出産、子育てを機に離職するからであり、例えばスウェーデンやアメリカ、ドイツでこのようなグラフの落ち込みは見られず、国際的にグラフ上のM字カーブは一般的ではないことを説明されました。日本でこのM字カーブが見られるのは、出産を機に離職する人が多いという現状があり、仕事と育児の両立が難しいことが浮き彫りになっていると指摘。これらの解決のためには、男性の家事育児参加、男性が協力しやすい職場の環境改善、女性がキャリアアップできる社会環境の整備が必要であると訴えられました。政府としても保育所の拡充、育児休業給付の拡大、女性活躍のための法案整備なども進めており、働き方だけでなく、女性一人ひとりのライフスタイルや生き方を尊重できる社会、その多様性を認め合える社会環境を作っていくことが大切であると話されました。
澤井景子男女共同参画局男女共同参画推進官(内閣府)
続いて、企業の事例紹介として、久保有氏(株式会社セブン-イレブン・ジャパン)が登壇。2012年にダイバーシティ推進プロジェクトが発足し、グループ全体のダイバーシティ推進を目指してきた結果として、2016年2月までに女性管理職の比率を課長級以上で20%、係長以上で30%の数値に迫ってきていると説明されました。会社は、社員一人ひとりにコミットしていかなければ、風土を変えることはできないと指摘され、男性が一日単位で取得できる育児休暇制度などを例に、グループ全体でのダイバーシティ推進を永続的に目指すことで、従業員の満足度を向上させることが目標であると話されました。また、取り組みで大切な5つのポイントを紹介いただき、
(1) 女性の意識を変えるための施策・仕掛けに企業として取り組む。
(2) 社内で制度の認知を高め、もっと使いやすくするための工夫。
(3) 管理職の意識を変える。
(4) 管理職を含めた男性社員の意識を変える。
(5) 限定的な施策ではなく、持続的、継続的に取り組みを推進する。
今後もさらにグループ全体で、女性がもっと働きやすく、もっと活躍できるような職場作りを進めていくと力強く明言されました。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス セブン&アイグループダイバーシティ推進プロジェクトメンバー兼、株式会社セブン-イレブン・ジャパン人事部マネジャー久保有氏
企業の事例紹介2社目では、柏崎美樹氏(第一生命保険株式会社)に登壇いただきました。第一生命では「会社の持続的成長には社員の多くを占める女性の活躍が不可欠である」という認識のもと積極的な女性登用を進め、女性が仕事と家庭を両立するための支援施策の拡充、働き方の高度化、意識・風土改革を行いながら、女性リーダーの早期育成を行っていると説明。ワークライフバランスの推進には、社内制度の充実だけではなく、認知向上と利用しやすい風土醸成が必要であり、休暇取得の推進には総労働時間の縮減も大切であると話されました。特に、育児中の女性が社会で活躍するためには男性の育児参画が不可欠。また、育児参加による会社以外のコミュニティとの繋がりによってプライベートが充実し、仕事の充実にもつながると指摘しました。企業は女性が産み育てながら活躍できる職場環境の構築と、キャリアアップのための制度・風土作りに取り組むとともに、会社全体で働き方変革を推進することで、社員全員の仕事と家庭を両立できる職場環境にしていくことが大切であると訴えかけられました。女性が社会で活躍することは家庭にとってもリスクヘッジとなり、男性の育児参加は家庭をより素晴らしいものに育てていけるメリットがあり、企業にとっても、働き方に変革を起こすことによって人材育成の好循環につながるといったメリットがあると説明されました。WIN-WINの関係をみんなで築き、女性が出産後も生き生きと働き続けられる社会を目指し、第一生命としても取り組みを今後も推進していきたいと明言されました。
第一生命保険株式会社人事部ダイバーシティ&インクルージョン推進室
柏崎美樹氏
パネルディスカッション(1)は、並河進氏(電通)の司会進行で行いました。以下の出産に関する意識調査の結果をもとに、金山和香氏(日本たばこ産業株式会社)、小嶋美代子氏(株式会社日立ソリューションズ)、仮屋桂一氏(タマホーム株式会社)から、現在の取り組みについてご紹介をいただきました。
ワンモア・ベイビー応援団夫婦出産意識調査2015
こうした企業の環境整備が少子化解決の大きな鍵を握っている。
社員の男女比率では女性がまだ少ない状況だが、ここ5、6年で女性の入社が増えているため、まずは女性活躍の推進に取り組んでいく必要性を強く感じていると話されました。JTでは多様化推進室を2013年に設立し、意欲ある社員が能力を発揮できる働きがいのある職場作りがあってこそ企業の持続的成長が可能であるとの考えの下、多様化/女性活躍推進における3つの柱を示されました。
(1)女性社員の成長をいかに支援していくか。
(2)多様化/女性活躍を推進する上で、管理職の意識や行動をいかに変えていくか。
(3)多様な人財が活躍するため、土台となる環境をいかに整備するか。
これらの考えを軸に、働きやすさはもちろんのこと、働きがいのある環境構築に向け、様々なメニューがある高水準な育児支援制度を整備するとともに、テレワークや朝型勤務などの多様な働き方の実現に向けた取り組みも行っています。今後も社内のニーズや社会の状況を見てどんどん改善していきたいと話されました。
日本たばこ産業株式会社多様化推進室室長 金山和香氏
世の中には色々な人がおり、多様な人がそれぞれの人生を歩んでいけることが社会で求められているため、一人ひとりの違いを経営価値につなげていこうという考えで、ダイバーシティを推進されてきたと語られました。それは、女性の出産だけではなく、育児や介護、その他さまざまな制約のある社員も一緒に働いていることを自覚するところから、イノベーションが生まれると指摘されました。ダイバーシティ推進センタ主導ではなく、各現場レベルで社員が自発的に課題解決を進めることによって、例えば出産や男性の育児休暇を例にすると、イクボスの育成などで上司の理解を深め、部下が育児をしやすくなる環境が整い、そして女性が働きやすい職場風土が形成される。つまり、お互いが認め合い協力することが、社員や会社のこれからの価値につながっていくと明言されました。
株式会社日立ソリューションズダイバーシティ推進センタ室長
小嶋美代子氏
タマホームは男性が多い職場であるものの、事務職以外にも女性の登用は増えてきており、現在制度改革を行っていると話されました。業界や企業風土からみて解決が難しいと考えられていた問題にも取り組んでいるとし、改革には、全社員が生き生きと働くことができる人事制度や、思いやりのある方針が大事だと指摘されました。例えば、マタニティ休暇、育児休業期間延長、時短勤務、所定就業時間変更など、女性だけを対象とした制度ではなく、男性も使える制度を作り、全社員がその制度に理解を示すことによって、社員一人ひとりがワークライフバランスを大切にし、よりよいライフスタイルを目指していくことが、会社にとって重要であると明言されました。
タマホーム株式会社ひとづくり部
部長 仮屋桂一氏
これらの意見を踏まえ、安藤哲也氏(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)は、ワークライフバランスを意識し、自分で生活を工夫することで家庭も安定し、仕事の生産性は上がると話されました。男性の育児参加と働き方の見直しをすることで、家庭の問題が解消し地域の活性化、企業の生産向上、男女共同参画社会の実現にもつながり、それが子どもを産み育てやすい世の中につながっていく。子どもを育てながらでも働くことができる環境作り、そのキーパーソンがお父さんであると指摘されました。また、男性も育児や介護によって休みやすくした方が、業務が見える化・分散化し、企業にとっても経営的にリスクヘッジになるとも述べられました。羽生祥子日経DUAL編集長は、まず、共働き中の子育て読者(会員10万人)が集うDUALサイトで「働き方改革アンケート」を呼びかけたところ、嬉しい結果が出たことを示してくださいました。子育て社員から職場を見た時に、「働きにくい」や「気まずい」、「肩身が狭い」と感じる社員が77%もおり、これはかなりひどい数字であること。しかし、「生産性が下がったか?」という質問に対しては、自己申告で66%が生産性は高まったと回答しており、ワークライフバランスを意識することで、生産性が上がるということを証明しているデータであると報告されました。また、育児社員や介護社員が多い自らの編集部でも、生産性は変わらないどころか、向上していると明言されました。
パネルディカッションの様子
パネルディスカッション後半では、大学生を対象として事前に行ったアンケートの結果を踏まえ、今後我々が目指すべき社会環境や意識の持ち方など、実現していきたい未来像についてお話をいただきました。
女性が産み育てながら働き続けることに関するアンケート
産後も仕事を続けたいと回答した人は、「一度退職をして子どもを育て大きくなってから復職したい」、また「専業主婦になりたい」という回答を大きく上回る結果に。
その一方で、およそ7割の女子学生が、仕事におけるキャリア・結婚・妊娠などのライフイベントに不安を感じていることがアンケートにより示されました。
フィンランドセンター所長 メリヤ・カルッピネン氏
女性先進国と言われるフィンランドでも、女性が不安に感じるのは当たり前。それは、お母さんになることは、お母さんにならないと分からないから。不安になった時には、他の人の色々な所を見て、新しい見方を見つけてほしい。また、男女平等においては女性も最初から一緒に働きたいと思うことは当然で、日本にはフィンランドにはない取り組みもたくさんあり、もっと良い取り組みも今後出てくるのではないか。
第一生命保険株式会社 柏崎美樹氏
今後の働き方で大切なことは、仕事もプライベートも充実させ、生き生きと働けるような環境を作っていくこと。そのような働き方が仕事の成果にもつながってくるため、企業にとっても必要な取組みであり、現在、働き方の変革が求められている。長時間労働の是正のほか、職場でコミュニケーションがしっかりとれる職場風土など、色々なところで改善を進めていくことが必要。
株式会社セブン-イレブン・ジャパン 久保有氏
近年、採用の過程で、育児休職など制度面を気にする男子学生が増えてきている。例えば弊社では、内定者に向けて先輩社員との面談の場を設けており、業務とは関係なく福利厚生や働き方、生き方などをディスカッションすることができる。現在、女性活躍推進法などで、国内企業もステージが変化してきている。今後は各会社でもっと具体的に踏み込んだ取り組みや施策を行うことが必要になってくるだろう。また、女性も企業に求め、待っているだけではなく、自ら働きかけることが大切で、男性もさらに積極的な育児参加を進めていくことが重要だ。
公益財団法人1more Baby応援団 評議員 安藤哲也(NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事)
育休や時短勤務を利用しても、我が社ではキャリアはリセットされないんだという企業姿勢が大切。これを会社全体で考えなければ、二人目の出産は無理だと考えて離職につながり、企業にとってもマイナスになる。また、離婚の多くの原因は父親が家を顧みないこと。離婚が減ればシングルマザーを増やさないことにもつながり、社会コストもかからなくなる。仕事を最優先し、個人や企業が今まで良かれと思ってやっていたことが、子どもを産み育てにくい社会をつくってしまった。しかし、今では仕事の考え方も、時代は野球からサッカーに変わった。野球は勝つまで延長、つまり残業をするが、サッカーは時間内に勝つか、生産性をいかに高めるかという考え方だが、未だにずっと野球のルールでやっている企業がまだまだある。だから子どもがいる人は、早く結果を出して帰りたいのに帰れないということが起きる。しかし、時代は変わったので、上司の皆さんには、サッカーの意識を持ってもらいたい。男性は大黒柱としての責任があるが、長時間働くこと、休まないことがこれまでの評価基準であった上司の意識を変え、そろそろ方向転換すべき。そうすれば家族や企業、社会全体でみんなが幸せになれる。
パネルディスカッション登壇者。
(左から)安藤哲也氏、メリヤ・カルッピネン氏・久保有氏・柏崎美樹氏
パネルディスカッション終了後、登壇者全員で記念撮影を行い、公益財団法人1more Baby応援団専務理事 秋山開から、閉会のご挨拶をしました。昨今、女性活躍推進が、人口減少社会において労働人口確保の観点、企業の業績向上の観点、また少子化問題解消の観点から注目を浴びており、本日のサミットにも約250名の方々にご参加いただいたことからも、女性活躍推進についての情報を多くの方が求めていることを改めて実感したと話しました。そして、このようなサミットを通じ、理想の数だけ子どもを産み、安心して育てることができる社会・企業の実現に向け、一社でも多くの企業が取り組みを始めることを願っていると、力強く述べました。
シンポジウム閉会後には懇親会も開かれ、来場者、登壇者のみなさんが一同に会し、和やかな雰囲気のもと、積極的に情報交換が行われました。
ワンモアベイビーサミット登壇者の集合写真