今回は、妊娠中や産後のうつ病のリスクを軽減するために必要な食事とビタミンDについてお話したいと思いますが、ビタミンDに関しては以前にも触れたことがありますので、最初に少し振り返ってみたいと思います。

(以前の記事)
ビタミンDの不足と妊娠について~あらゆる年齢層の方ができる妊活③~
多嚢胞性卵巣症候群の原因と対策は?~多くの人に共通するビタミンDとの関係性~

ビタミンDが作用する臓器は、副甲状腺、免疫細胞、すい臓、胎盤、子宮、卵巣、睾丸など、多くの臓器の機能に関与していることなどをお話ししました。また、ビタミンD不足によって、子宮内膜症・多嚢胞性卵巣症候群の発症の可能性が高くなったり、「インスリン抵抗性」が強くなることによって2型糖尿病や動脈硬化、心筋梗塞、脳血管障害など、血管を詰まらせる「虚血性心血管障害」の発症を増加させる可能性についてもお話ししました。さらに、ビタミンD不足と酸化ストレスの関係が指摘されており、強い毒性を持つ「終末糖化産物(AGE)」を介して、全身にさまざまな病気を発症させる可能性があります。このように、ビタミンD不足は生殖に関わる疾患だけではなく、全身の臓器で障害が起こる可能性が高い状態にあると言えます。このため、現在・将来の健康管理のためにもビタミンDを意識し、健康管理を行うことが大切です。

うつ病が母親や胎児に与える影響について

さて、このように健康に大切な作用を持つビタミンDについて、さらに興味深い論文がありましたので、ご紹介します。それは、ビタミンDと鬱との関連性、特に、妊娠や授乳との関係について研究した論文です( Hollinshead VRBB , et al. Nutrients 2024 Jun 14;16(12):1876. doi:10.3390/nu16121876.)。
女性は男性よりもうつ病の発症リスクが高く、生物学的要因や環境的影響がこれらの違いに寄与している可能性があります。さらに、女性では周産期にうつ病が発症することがあり、母親がうつ病を発症すると、母親ばかりでなく、その乳児の健康に影響を与え、早産のリスク増加や子癇前症、胎児発育不全、流産、帝王切開、鉗子分娩や吸引分娩、新生児ケアユニットへの入院と関連すると言われています。

先行研究では、ビタミンD欠乏症は、うつ病を含む多くの病気の発症に関与する可能性があり,妊娠中および産後の女性においても同様に、低ビタミンD濃度とうつ症状との相関関係があると指摘されています。このため母体および胎児/乳児の健康を維持するために、妊娠中・授乳期において、母親は食事およびサプリメントによってより多くビタミンDを摂取することが推奨されています 。

妊娠中や産後のうつ病リスクを軽減する食事とは?

今回ご紹介する研究では、20〜44歳の妊婦、産後女性(産後0~12か月)、非妊娠/産後女性(非PP女性)、および男性において、ビタミンD濃度がうつ症状の発生に与える影響を検討しています。さらに、産後の母乳授乳中および非母乳授乳中の女性のサブグループ分析もしています。
研究対象は、米国の2007〜2018年の国民健康栄養調査データ59,842件より年齢が20-44歳であり、大うつ病性障害のスクリーニングツール(PHQ-9)のデータ、ビタミンDの測定結果、摂取る食事のデータ( What We Eat in America questionnaire )(24時間に摂取するエネルギー、タンパク質、炭水化物、総糖質、 総脂肪、 総飽和脂肪酸、総不飽和脂肪酸 )が揃っている11,337人を解析しています。
これらの人を妊婦(n=278人)、産後女性(産後0~12か月)(n=4449人)、非妊娠/非産後女性(非PP女性)(n=5061人)、および男性(n=5549人)に分け、さらに産後女性を母乳授乳女性(n=162人)および非母乳授乳女性(n=287人)に分け解析しています。

妊婦、産後女性、非PP女性、および男性の非うつ病の確率は妊婦:75%、産後女性(産後0~12か月):74.2%、非PP女性:71.3%、および男:79.8%であり、授乳に関しては、母乳授乳女性:81.4%、非母乳授乳女性:69.4%でした。非うつ病の率は妊娠中、産後、非妊娠女性(非PP女性)の順で高く、授乳に関しては、母乳授乳女性は非母乳授乳女性に比較し非うつ病率が高値でした。

食事のパターンは、うつ病発症に関係する因子であることがわかりました。エネルギー、タンパク質、炭水化物、総糖質、 総脂肪、 総飽和脂肪酸、総不飽和脂肪酸の全てが高摂取する典型的な西洋型食事(食事パターン1)では、高摂取の女性ほど産後のうつ病発生率が上がりましたが、妊婦では逆に確率が減少しました。非PP女性、男性に関しては、うつ病発症への影響はありませんでした。また、食事のパターンが、高タンパク質、高脂肪、かつ低糖質、低炭水化物の摂取パターン(食事パターン2)では、カロリー、糖分、炭水化物の摂取量が少なく、タンパク質と脂肪の摂取量が多いほど、産後女性、非PP女性、および男性のうつ病の確率が低くなりました。対照的に、妊婦はカロリー、糖分、炭水化物の摂取量が減少すると、うつ病リスクが増加しました。うつ病に与える影響は、『食事パターン2』の方が、『食事パターン1』よりも大きいようです。

ビタミンD濃度が高いほど妊婦・産後女性のうつ病リスクが低減

ビタミンDの濃度と非うつ率、軽度うつ率、中~高度うつ率の割合は、図1,2に示すように、ビタミンDが増加するにつれて、うつ病ではない確率が増加しました。ビタミンD濃度が高いほど、妊婦および産後女性のうつ病リスクの低減に対する影響が、非PP女性および男性に比べて大きくなりました。産後女性の中では、ビタミンD濃度が高いほど、母乳授乳中の女性のうつ病リスクの低減に対する影響が、非母乳授乳中の女性よりも大きくなりました。

母子ともに健康でいるために

このように、ビタミンDや食事のパターンは、体の健康のみならず、心の健康にも大きく影響することがわかりました。特に母親の妊娠・出産・育児の時期の体・心の健康は本人だけでなく、子どもの健康にも影響します。さらに、現在、周産期の母体死亡の原因としては産科危機的出血以上に心の問題が多くなっています。妊娠中や産後の子育て中の方は、ビタミンDや食事の内容にも気をつけてください。