以前のコラム(2018.4.27)で、持ちたい子どもの数と自然の方法や体外受精で妊活を始める時期についてお話たことがありました。
そのコラムでは、ヨーロッパの生殖医学の専門雑誌Human Reproduction に掲載された論文(Human Reprod, 30 (9), 2215-2224,2015)を用いて、子ども1人、2人、または3人持つには、いつから妊活を始めたらよいかお話ししました。
さらに、妊活の方法別に、自然妊娠の方法や体外受精などの不妊治療を用いて妊娠するためには、いつから妊活を始めたらよいか、妊活のスタート年齢と子どもを持つことができる確率の関係についてもお話ししました。
今回は、日本の現在の社会状況において、結婚する年齢と子どもを持つことができる状況を、社会保障・人口問題基本調査(出生動向基本調査)を用いて考えてみたいと思います。
今回の考察に使用する調査データについて
政府統計の総合窓口(e-Stat)のホムページには、出生動向基本調査の結果が掲載されており、この調査の目的は、「他の公的統計では把握することのできない結婚ならびに夫婦の出生力に関する実状と背景を定時的に調査・計量し、関連諸施策ならびに将来人口推計をはじめとする人口動向把握に必要な基礎資料を得ることを目的としています。」と記載されています。
さらに、「調査では独身者の結婚意欲や結婚・家族観、夫婦の出生意欲や出生行動の実態、就業・子育て環境等をたずね、集計結果を公表しています。本調査のデータは、日本の将来人口推計の出生仮定設定に使われるほか、各種白書や国・地方自治体の政策立案時の資料、関連諸施策の政策目標として利用されています。」と記載されています。
この調査は数年おきに実施されており、現在国民が子どもを持つ状況がどのようになっているかを考察するために、とても良いデータを提供してくれています。一番新しい第15回出生動向基本調査(2015年調査)を用いて検討しました。
この調査の項目はたくさんありますが、今回用いるデータは、妻の結婚年齢別の「平均理想の子ども数」、「平均予定の子ども数」、「結婚持続期10~14年夫婦の平均出生子ども数」を用いて現在の社会状況における結婚年齢と子どもの数の関係について検討しました。
理想の子どもの人数と現実のギャップについて
結婚年齢分布は、医学的に妊娠が比較的安全と考えられる、21歳より21~22歳、23~24歳、25~26歳、27~28歳、29~30歳、31~32歳、33~34歳、35歳以上のグループについて検討しました。
各グループの「平均理想の子ども数」は2.35,2.42,2.38,2.30,2.23,2.15,2.11,1.79 と結婚年齢が高くなるにつれて徐々に低下しています。それでも34歳までは理想の子ども数は二人を超えており、多くの方が、できれば、二人以上の子どもを望んでいることがわかります。
35歳以上では理想の子ども数が二人を下回りますが、高齢で産むことへのプレッシャーを感じているのかもしれません。
各グループの「平均予定の子ども数」は、2.38,2.20,2.08,1.94,1.84,1.75,1.64,1.16 とやはり結婚年齢が高くなるにつれて徐々に低下しています。二人以上を予定する年齢は26歳までの群となっており「平均理想の子ども数」に比較すると、やや低めになっています。
また、各グループの「平均予定の子ども数」÷「平均理想の子ども数」の割合を見てみると94%、91%、87%、84%、83%、81%、78%、65%と年齢が高くなるにつれて徐々に低下しています。高齢になると「平均理想の子ども数」と「平均予定子ども数」のギャップが、広がるようです。
各グループの「結婚持続期10~14年夫婦の平均出生子ども数」は、2.36,2.02,2.00,1.74,1.69,1.42,1.55,0.94 となっています。この数値も、高齢になるにつれて下降傾向がみられます。
また、各グループの「結婚持続期10~14年夫婦の平均出生子ども数」÷「平均理想の子ども数」を見てみると、93%、85%、84%、76%、76%、66%、73%、53%と年齢が高くなるにつれて徐々に低下しています。
高齢になると「平均理想の子ども数」と「結婚持続期10~14年夫婦の平均出生子ども数」のギャップも広がるようです。
理想の子どもの人数を実現するために必要な行動とは?
これらの結果よりわかることは、できるだけ理想の子ども数を得るために自らが取れる対策としては、若いうちに結婚するというライフプランを設計するになると思います。
この考えは、若い人にとっては行動を起こすきっかけになるかもしれませんが、読者の方の中には、すでに高齢になっておられる方も多いと思います。
高齢の方が、これを読むと、きっと、悩まれてしまうと思いますが、高齢であっても、その後の行動を早めに起し、以前のコラムでも取り上げたように、できるだけ、妊娠に障害を及ぼす生活様式を見直すことが大切です。
理想の子どもの人数を実現できない理由、1位は?
妻の結婚年齢別にみた、理想の子どもを持たない理由についても調査が行われています。一番多い理由は、「子育てや教育にお金がかかるから」です。
2番目が「高齢で生むのはいやだから」、3番目が「欲しいけれどできないから」です。
1番目の経済的な理由は、高齢なほど低くなる傾向があります。また、2,3番目の年齢・身体的理由は、年齢が高齢になるほど高くなります。
ですので、若い夫婦には、高齢な夫婦と比較すると、より経済的なサポートが必要となります。
また、高齢になると妊娠しにくくなるので、治療回数が増えるため、高齢といえど、不妊治療のための経済的サポートも必要となります。しかし、不妊治療は経済的負担だけではなく、身体的、精神的、時間的負担も大きくなるので、なるべく不妊治療に頼らず妊娠できる若いうちに結婚できる環境を整備することの方がより重要となります。
子どもが欲しいけど。。妊娠できない人の割合は増加傾向に
今回は、第15回出生動向基本調査(2015年調査)のデータを用いてお話ししましたが、「夫婦が理想の子ども数を持たない理由」が、経年的にどのように変化しているのか?という点について、以前の調査、すなわち第13回出生動向基本調査(2005年調査)、第14回出生動向基本調査(2010年調査)と比較検討しましょう。
経済的理由の「子育てや教育にお金がかかるから」は65.9%、60.4%、56.3%(第13回→第15回)と減少傾向にあります。また、身体的理由の「高齢で生むのはいやだから」は38.0%、35.1%、39.8%とあまり変化していませんが、「欲しいけれどできないから」は16.3%、19.3%、23.5%と増加傾向にあります。
「子育てや教育にお金がかかるから」という理由の減少は、子育てや教育に公的補助がだんだん厚くなってきていることを反映しているのかもしれません。
しかし、「欲しいけれどできないから」という理由は増加しており、晩婚晩産化に歯止めがかかっていないところに起因するかもしれません。
経済面以外での不妊治療の負担について知っておいてもらいたいこと
高度不妊治療に対する保険診療の検討は、高齢で不妊治療を受けておられる方にとっては、福音となる面がありますが、一方で若い方が「高齢になって不妊になっても、経済的に安価に不妊治療を受けられる」と安心することには大きな落とし穴があります。
不妊治療は、経済的面以外に、通院や治療などに多くの時間をかけなければならず、また、身体的・精神的負担も大きなものです。家庭を持って1 more baby を目指し、かつ仕事のキャリアアップを目指す人には、不妊治療に時間を使わず、その時間を自分の仕事のキャリアアップに使用していただきたいと考えているので、是非、若いうちから、不妊治療に頼らず妊娠することができるライフプランを設計して欲しいと思っています。
1more Babyに向けて
このことから、若い方で1 more baby を考えておられる方は、是非早めに行動を起こすことをお勧めします。
ある程度高齢な方は、出産後の1 more babyには、あまり間をおかずにトライすることが大切になります。
みなさんが暮らす社会環境によりますが、できれば、希望する子どもを32歳ぐらいまでに生み終えることが理想です。なぜなら、この年齢までなら、たとえ妊娠しにくいことが判明して、体外受精の治療を受けることになっても、治療成績は加齢による影響を受けないからです。
皆さんが暮らす環境はそれぞれ異なると思うので、ベストな選択も人それぞれとなると思います。ご自分が暮らしている社会環境をよく考慮して、早めに行動をおこしてください。