皆さんはビタミンDが骨の形成、成長、修復に大切なホルモンであることはよく知っていると思います。ですので、このビタミンが不足すると、乳児の場合は、くる病が発症し頭蓋骨が柔らかくなって骨の成長に異常がみられ、座ったり、ハイハイができるようになる時期が遅くなります。成人でも骨軟化症という骨の病気が生じます。
妊婦が ビタミンD欠乏症になると、胎児でも欠乏症が生じ、新生児がくる病を発症するリスクが高くなります。しかし、ビタミンDの働きはそれ以外にもあり、産科領域においてはビタミンDが不足すると妊娠高血圧症候群や早産などの病気のリスクを高めることが知られています。また、幼児・若年者の肺活量の低下や言語発達の遅れ、思春期の骨密度の低下、20歳での摂食障害の増加などが指摘されています。
妊娠するためには、ビタミンDは大切なの?
では、妊孕性、不妊症との関連はどうでしょうか?最近、外国の生殖に関わる雑誌に、興味ある報告が多数報告されています。まず、ビタミンDの働きには、胚(受精卵)が着床し胎盤が形成されるのを制御する役割があります。よって、ビタミンDが不足すると着床しにくくなり、胎盤の形成が不十分になるという報告です。
一般には、体の外から食事や日に浴びることによって取り込まれたビタミンD2、ビタミンD3が肝臓や腎臓で活性型のビタミンDになり、腸でカルシウムの吸収に関わる機能を発揮しています。肝臓や腎臓だけでなく、この機能活性化に関わる酵素は、子宮の内膜や妊娠中の絨毛や脱落膜(胎盤を形成する組織)にも存在することが最近わかりました。このビタミンDは、免疫系などを動かして、絨毛が発育し子宮内膜に浸潤していくのを促進するそうです。このため、流産を繰り返す人の絨毛や脱落膜では、この酵素の発現が少ないと報告されています。
また、子宮内膜症や多嚢胞卵巣症候群といった不妊症の原因となる病気を持つ人は、血中のビタミンDの濃度が低いと言われています。さらに、体外受精の治療を行っても、この図1が示すように、血中のビタミンDが十分高い人のほうが、足りない人に比較して、臨床妊娠率が高いという報告もあります。このことから、妊娠するためにも血中のビタミンD濃度が高いことが大切であることがわかります。
日本人はビタミンDが不足している!?
我々の体にあるビタミンDは食物から摂取する場合と日光に浴びることにより、皮膚で産生されている場合の2つのルートから成り立っています。しかし、食物から摂取されるビタミンDは、人工的に補充した食品でないと十分な量の摂取量は期待できません。ですので、日光に浴びて皮膚でビタミンDを作ることが大切なのですが、最近、日光に浴びる機会を避ける傾向が強くなってきており、さらに日焼けどめクリームの使用によっても、ビタミンDの自己生産の機会が少なくなっています。
米国・カナダではビタミンDを補充した牛乳などが販売されています。しかし、日本では、一般食品にビタミンDを補充した食品はなく、図2に示すように、現在までに日本人のビタミンDの濃度を調査した各年代のビタミンDの報告では、そのほとんどの報告において、基準値のビタミンD30ng/mlに比較してが不足していると報告されています。
ビタミンDの濃度測定と補充
これらの結果から、妊娠を考える人にとっては、ご自分のビタミンDの濃度を測定して、不足ならば、この値を高めておくことは、より早期に妊娠に至る可能性が高くなるばかりでなく、安全な妊娠・出産、さらに健康に赤ちゃんを育てるにもとても重要は要素です。
母乳にはビタミンDがあまり含まれていないので、ビタミンDの補充されたミルクも必要なこともあります。先ほど述べたように、最近は、お肌のシミ・そばかすや皮膚ガンなどを心配して日光に当たることを避け、また、日焼け止めを併用する方が増えていますが、ビタミンDは妊娠・出産・育児にはとても大切なビタミンですので、サプリメントでよいので、必要十分な量を補充していくことが大切です。
なかなか妊娠しないかたは、このビタミンDの不足が関与している可能性もありますので、心配な方は、是非、不妊クリニックで受診して、ビタミンDの測定をしてくさい。図2でお示ししたようにあらゆる年齢において、ほとんどの人がビタミンDを補充する必要があります。これも、皆さんができる妊活の一つです。