私たち公益財団法人1moreBaby応援団は、「日本をもっともっと子育てしやすい社会に変えていく」ことを目的とした助成事業を行っています。船出の年となった2018年度の本事業は、とても光栄なことに、たくさんの団体の皆さんにご応募していただきました。そして、厳正なる第一次審査、第二次審査を経て、私たちは5つの団体に対する助成を決めました。
今回は、その中のひとつ、大阪枚方市を拠点に活動する「つなぐ」という団体についてご紹介します。インタビューに応じてくださったのは、同団体の代表の久保さおりさんです。「孤独な子育てをなくそう!」というミッションのもと2018年4月に設立された「つなぐ」は、どういった活動を行っており、そこにはどんな思いがあるのでしょうか。1moreBaby応援団の秋山開専務理事が聞いていきます。
産前産後子育て訪問サポート「つなぐ」とは?
──本日はお時間いただきまして、ありがとうございます。まずは「つなぐ」という団体の活動内容について教えてください。
「私たちは、『産前産後・子育て中のママに代わって ごはんつくります!』とホームページなどで大きく謳っているのですが、その言葉どおり、食事づくりを中心とした訪問型サポートが主な活動です。また、私たちつなぐには、自身も子育て中の親でありながら、看護師、保育士、栄養士などの専門的な知識をもったメンバーがいます。その専門知識を活用し、子育て中の悩み相談や子育て情報の提供なども行っています。つまり、食事づくりが中心のサービスではありますが、それだけでなく、なにかと不安定になりがちな産前産後・育児中のママのさまざまな不安に寄り添うようなサポートを行っているということです」
──具体的には、どういった流れで「つなぐ」のサービスを提供しているのでしょうか?
「最初は、メール、電話、ライン、ホームページ、フェイスブックなどを通じて連絡していただくところが始まりとなります。その後、担当者よりサービス提供のための事前打ち合わせを行います。事前打ち合わせとは、名前や住所の確認、訪問日時、リクエスト料理の有無、相談したい内容、駐車場の有無などもお聞きします。さらに、訪問日前日には食材の確認を行います。そのうえで、当日は訪問したスタッフが3時間で12品前後を目安に調理を行います。離乳食、アレルギー対応、食材の買い出しなども個別に対応することもできます」
団体の設立のきっかけとは?
──そもそも、どういった経緯で「つなぐ」は生まれたのでしょうか?
「私自身、実は出身がここ(大阪)ではなく、北陸地方なんです。だから、親のサポートであったり、地域のつながりというものが希薄ななか、3人の子どもを生み育てることになりました。そのときに孤独を感じることが多かったんです。誰にも頼れない、気軽に相談する相手もいないと、そんなふうにふさぎ込んでいた時期もありました。そんなときに、ふらっと家に遊びに来てくれた友人が一杯のコーヒーを淹れてくれて、たわいのない会話をしたんです。それだけですごく気持ちが楽になりました。産前産後ママには、そんな私と同じような人が多いはずだと思ったこと。これがもともとのきっかけです」
──具体的に、最初はどんなことをしたのでしょうか?
「私自身、助産院で勤務しています。そこで、子育てサポートに関する課題意識を持っている周囲に『こんな活動をしたい』という思いを打ち明けたところ、私と同じような志を持っている人たちが手を挙げてくださって、団体を設立するに至ることができました。私は助産院で勤める看護師ですが、そのほか管理栄養士、調理士、食品衛生責任者、ホームヘルパー、保育士、助産師といった具合に、専門的な知識や経験を持ったメンバーが立ち上げメンバーとして集いました」
──「つなぐ」というお名前に込められた思いも教えてください。
「先ほどお話ししたことと重なる部分も多いのですが、ご家庭が地域や必要な専門機関とつながりながら 産前産後・子育て期をよりラクに、より楽しく、より幸せに過ごせるようになればいいなという思いがこめられています。もうひとつの思いとしては、私たちは『つなぐ』という団体での活動を通して、誰かにSOSを出すことへの心理的なハードルを下げたり、サポートしてあげたいと思う人が増えていくことにもつながっていくといいなと思っています。たとえば、私たちのサービスを利用して気持ちが楽になった誰かが、次は別の誰かをサポートする。そんなふうに、人と人とのつながりが広がっていくことになればいいなという思いもあります」
──実際に、産後ケアに関するスタッフも募集されていますよね?
「はい。先ほどお話ししたような“誰かのサポートをしたい”と思った方が、『つなぐ』のスタッフになってくれたらもっと嬉しいことですね(笑)」
活動の必要性と効果について
──2018年4月に立ち上げられてまもなく一年が経ちます。「つなぐ」の活動の社会的な必要性をどのように感じていますでしょうか?
「正直なところ、まだまだ活動としてはこれからだと思っていますが、現段階で感じているのは『人の助けを借りるなんて』という声がすごく大きいことです。悩んでいるママはひじょうにたくさんいらっしゃいます。一方で、SOSを出せる人は少ないということ。罪悪感、敗北感、恥ずかしいといった思いから、なかなか人の助けを借りるというところにハードルを感じています。それを取り除いてあげるという意味で、『つなぐ』という活動の意義があると思っています」
──気軽にSOSが出せるようにすることが大事だということでしょうか。
「気軽にSOSを出せるようにするには、誰が来るのかわからないという不安も取り除いてあげる必要があります。その意味で、私たちのようなスタッフやメンバーの顔が見える団体に、社会的な必要性が生じてくると思っています」
──訪問型サポートというと、行政サービスもありますよね。
「はい。行政サポートにあるから私たちのような活動は要らないじゃないかという意見もあるかもしれませんが、やはり利用しづらい面もあります。ニーズの多様化に対応しきれなかったり、財源不足といった課題もあったりします。もちろん行政サポートも必要なものですが、それだけでなく『つなぐ』を含めたさまざまな産前産後ケアが展開されることで、より子育てしやすい社会、生きやすい社会になっていくのではないでしょうか」
今後の取り組みについて
──最後になりましたが、今後の取り組みについて教えてください。どんな目標や夢を描いていますか?
「子育てママたちの駆け込み寺的な、そういう存在になれたらいいなと思っています。たとえば一度利用してくださった人がいて、二度目の利用がなかなかなかったとします。でも、そういう方がどこかで、『しんどくなったら“つなぐ”を利用すれば大丈夫』と思ってもらえたら、それだけで精神的な負担は軽減されます。そんなふうに、産前産後子育てママの精神的な支えになれたらいいなと思うと同時に、私たちの活動を知った人や利用した人が、今度はサポートする側になって、誰かの支えになること。そういった良い循環が生まれていくと嬉しいです」
──実際に、利用者の方々からそういった声もあがっているのでしょうか?
「そうですね。たとえば、『産前産後のママってほんま大変なので「つなぐ」の活動がもっと広がって気軽に使ってもらえますように!』とか『困ったら頼ってみようって思っています。こんなサポートもあるんだと思うと心強いです!』とか『月に数回息抜きをしたいとき、体調が悪いとき、家事をしてもらえるサービスがあるというのは心強いです』といった声があります。もちろん多くの方に利用していただきたいのですが、それだけでなく、寄り添ってくれる人もいるんだって感じてもらえるだけでも、すごくやりがいを感じます」
──貴重なお話をありがとうございました!
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