ユニセフによって「世界一子どもが幸せ」とされているオランダ。

そのオランダには、「パパダフ」という言葉があります。英語で言えば「パパデイ」、つまり「パパの日」ですね。

私たちは、オランダが約30年をかけて行ってきた働き方改革について調査するため、昨秋に現地調査を行いました。そのとき、政府、自治体、企業、一般家庭、いずれのインタビューにおいても、“パパダフ”という言葉を耳にしました。(※わかりやすいように、ここからはパパデイと表現します)

みなさんは、パパデイと聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか?

おそらくですが多くの方は、土曜、あるいは日曜といった会社の休みの日に、普段子育てに奮闘するママの替わりに、パパが1人で子どものお世話をし、ママは1人で美容院に出かけたり、友人とカフェに行ったりする日のことを頭に思い描くのではないでしょうか。また、「母の日」や「ママの誕生日」などに、日頃の感謝を込めてママにゆっくりさせてあげるというご家族も多いと思います。

つまり、休日にママを労うためのもの(=日常生活とは異なるスペシャルなもの)というイメージです。実は、オランダのパパデイというのは、そうしたみなさんのイメージとは意味合いが異なります。オランダにおけるパパデイとは、日常生活の一部であり、特別ママを労うという意味合いはありません(もちろんそうした意味がまったくないわけではありませんが)。子どもと触れ合う時間を多くしたいパパとママの一つの子育てスタイルなのです。

たとえば、私たちがインタビューを行った3人の子どもを持つオランダの共働き夫婦の場合を見てみましょう。

「うちはオランダのごく一般的な夫婦の形を取っている」と話すそのご夫婦は、毎週水曜日がパパデイだと言っていました。ちなみに金曜日がママデイです。

次女(3歳)と末っ子(1歳)の男の子については、月曜と火曜と木曜のみ保育園に預けています。ちなみにオランダでは、水曜日は半日授業が一般的なため、小学校に通う長女も、お昼には帰宅します。ですから、パパデイは、パパ1人で3人の子どもたちを見るのです。そして、夫婦ともに会社が休みの土日は、家族5人で過ごします。

このように、オランダのパパデイは、私たち日本人が思い描く「休日に行うスペシャルなもの」というイメージとは、異なるのです。

でも、いったいどうしてそんなことが可能なのでしょうか。それは取りも直さず、オランダでは働き方の柔軟性が広く認められており、どんな人でも多様な働き方ができるからです。

先ほど例にあげたパパですが、水曜日はパパデイ、土日は家族で過ごします。つまり、週4日勤務(8時間×4日)という勤務体系を取っているのです。ちなみに、金曜日がママデイだというママも同じ週4日勤務(8時間×4日)だそうです。

端的にいえば、このパパは、現在パートタイム勤務なのです。ここで重要なのは、オランダでは、パートタイム勤務だろうとフルタイム勤務だろうと、賃金や福利厚生なども正規社員と変わりがないことです。

パートタイムとフルタイムで異なるのは働く時間数だけであり、それにともなって給料が増減するというだけのことです。まさに同一労働同一“条件”ですね。(※同一労働同一条件の詳しい内容は本書でも紹介しています!

フルタイム勤務のパパでも、1日に労働時間を他の日に振り分けて週4日勤務(例えば9時間×4日)という選択も可能です

子育てや介護などの事情に限らず、すべての労働者がパートタイムとフルタイムを選択する権利を持っており、勉強のため、趣味のためなど選択する理由もさまざまです。

だから、パートタイムを選択してもキャリアに傷がつくこともありませんし、まして同僚などから白い目に見られることは決して無いということです。

子育て世代が特別されないのです。そしてもちろん、一旦パートタイムを選択しても、フルタイムに戻ることも可能です。

今の日本と同じように、オランダでも働き方改革を進めて行く中で“常識”を変えた!

さて、こうしたオランダに広く普及しているパパデイという習慣ですが、これは昔からあったわけではありません。実際、私たちがインタビューを行った現在の育児世代はほとんどの方が異口同音に、「父親が家事や育児をしていた記憶はない」と言っていました。

「時代は変わったんです。僕らの世代は、母親が家庭に入るというのが常識だった我々の親世代とは違い、パパとママがどちらも子どもとの時間も大切にするし、仕事も大切にする。もちろん家族みんなで過ごす時間も大切にする。多様な働き方が可能な今の時代を生きる我々の世代では、それはあたりまえのことなのです」(3人の男の子を持つパパ)

つまり、オランダでも、今の日本と同じように働き方改革を進めて行く中で、“常識”を変えていったのです。実際、オランダでは官民に限らず、さまざまなパパデイを定着させるための活動や施策があったそうです。

ですから、「日本ではオランダのようなパパデイは絶対に根付かない」なんてことはありません。なぜならオランダも日本と同じだったのですから。

もちろんさまざまなハードルはあるでしょう。オランダとまったく同じようにうまくいくということもないと思います。しかし、一歩ずつ前に進めば、きっと可能なことではないでしょうか。

具体的には、日本でパパデイを実現するには、多様な働き方が認められる必要があるといえます。子育て期間中に限らず、介護やスキルアップのための学びといった人生のステージにあるときには、週休3日を選ぶことができたり、テレワークをうまく使いながら通勤時間を節約したりといったこと。

また、そうした柔軟な働き方を選んだとしても、保活やキャリア形成などで“壁”がないことも大切です。そういった多様な働き方に関する制度がきちんと体系化され、それをみんなが自然に受け入れる気持ちが整えば、日本でもスペシャルではないパパデイが、可能になるのではないでしょうか。

最後に、私たちがお話を聞いたオランダのパパが言っていた印象的な言葉を紹介して締めくくりたいと思います。

「僕はパパダフという言葉が好きじゃない。だって、親が子育てするのはあたりまえですからね。その証拠に、あまりママダフとは言いません。パパダフという文化が根付くまでは、そういった“言葉”が必要だったのかもしれませんが、もう今は変わりましたから」

オランダから“パパダフ”という言葉がなくなる日も、そう遠くないのかもしれません。