「子どもは2人欲しいなあ」「我が家は3人がいいな」・・・理想の数だけ子どもを持つことができるといいのですが、なかにはなかなか子どもを授からずに悩む夫婦もいます。
日本では、3組に1組の夫婦が不妊を心配した経験があり、5.5組に1組の夫婦が不妊治療を受けた経験があるといいます。
しかし、妊活のために不妊治療を受ける時期は、仕事等でキャリアを積む時期と重なるため、多くの人がその両立に悩んでいます。さまざまな思いを抱えながら、やむなく「不妊退職」をするケースも少なくありません。
今回は、「仕事と不妊治療の両立」について考えます。

本記事はNPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜がお届けします。Fineは、不妊当事者のサポートをはじめ、不妊や不妊治療についての啓発、治療環境の向上などを目指して、さまざまな活動に取り組んでいます。
前回に引き続き、Fineが実施したアンケート結果をもとに、仕事と不妊治療の両立の現状を紹介します。

20人に1人の子どもが体外受精で誕生している

晩婚化が進む現代日本で、不妊に悩んだことがある夫婦は5.5組に1組といわれています。
子どものいない夫婦での不妊治療の経験は28.2%にものぼり、子どもが1人いる夫婦の場合では、不妊の心配をしたことがある割合は45.4%、そして検査や治療を受けたことがある割合は25.7%にものぼります。(*1)
体外受精・顕微授精などの高度な不妊治療(高度生殖補助技術=ART)によって生まれた子どもは、2015年には5万人以上を数え、その年に生まれた赤ちゃんの約19.7人に1人がARTによって誕生しています。(*2)

これだけ多くの人が関心を持ち、時間やお金をやりくりして不妊治療に通っているのが日本の現状であり、「いつかは子どもを・・・」を漠然と思っている人にとっても、決して他人事ではないといえるでしょう。

女性は年齢を重ねるほど妊娠しにくくなります。個人差はありますが、妊娠・出産には年齢的な限界があります。
そして、妊活や不妊治療に取り組む時期は、仕事等でキャリアが充実する時期でもあります。「子どもは欲しいけれど今は仕事が忙しいので、もう少し先になってから」と妊娠・出産を先のばしにした結果、理想の数の子どもを産み育てにくくなってしまう可能性もあるのです。

また、自分が当事者でなくても、職場に不妊治療をしている人がいたら、どのように対応したらいいのでしょうか? アンケートから、そのヒントが見えるかもしれません。

なぜ仕事と不妊治療は両立しにくいのか

NPO法人Fineでは、2017年3月から8月にかけて「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」を実施し、5,526人から回答を得ました。(*3)

このアンケート結果を発表したところ、NHKニュースや新聞の1面で取り上げられるなど、大きな反響を呼びました。
これまでも仕事と不妊治療の両立は当事者にとって大きな悩みでしたが、調査によって多数の声が集まり、数値化したことで、社会問題としてクローズアップされたといえます。

Fineでは、2014年から2015年にかけて「仕事と治療の両立についてのアンケート」(文中では「アンケートPart1」とする)を実施しており、2,265人から回答を得ました。(*4)
それから2年後に実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」では、どのような変化があったのか? これらの結果を中心に、仕事と不妊治療の両立の現状や当事者が望むサポートについて考えていきます。

経験者の96%が「仕事と治療の両立は困難」と感じている

「アンケートPart1」では、回答者2,265人のうち95%が不妊治療経験者で、「仕事と治療の両立が難しい」と感じたことがある人は約92%でした。
今回の「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」では、回答者5,526人のうち不妊治療と仕事の両立を経験・考慮したことがある人は5,471人、そのうち「仕事と治療の両立が難しい」と感じたことがある人は約96%という結果でした。

2年前の調査に比べて、「仕事と治療の両立が難しい」と感じる人の割合は4ポイントもアップして、両立が難しい現状が変わっていないことが明らかになりました。

通院回数が多く、急な通院もある不妊治療

「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」では、職場で治療をしていることを話した人のうち、81.3%が「話しづらく感じた」と答えています。

その理由として、「不妊であることを伝えたくなかった」「不妊治療に対する理解がなく、話してもわかってもらえなさそう」という声とともに、治療による急な勤務変更など、周囲に迷惑をかけることを危惧する人も多くありました。

不妊治療は、多くは女性の月経周期に合わせて治療が進み、その時の体調や体の状態によっても進み具合が違うため、通院日がはっきり決まらないことが多々あります。
また、体外受精では、排卵誘発剤の注射を連日投与したり、卵子の育ち具合を超音波で確認する卵胞チェックを受けるため、頻繁な通院が必要になることがあります。さらに、採卵日は卵子の成熟の状況によって決まるため、直前まで予定がはっきりせず、急に通院が決まることも珍しくありません。

こうした現状が一般にまだ知られていない点も、治療について職場で話しにくく、理解が得られないと考える一因になっているようです。

不妊治療の状況が職場で理解されにくい

Q11.仕事をしながらの不妊治療は、どんなところが難しい?

「仕事をしながらの不妊治療の難しいところは?」という質問に対して、「頻繁かつ突然な休みが必要である」が3,651 人(71.9%)と非常に多く、続いて半数近くが「あらかじめ通院スケジュールを立てることが難しい」(2,402 人・47.3%)、さらに「周りに迷惑をかけて心苦しい」(1,300人・25.6%)という回答もありました。
治療のためのスケジュール調整に苦労している様子がうかがえます。

自由記入欄のコメントを紹介します。

「上司には不妊治療をすることと、休みが増えてしまうことを告げてあったのですが、恐らく欠勤遅刻早退が上司の想像を越えて頻繁だったのだと思います。ある日、妊活か仕事か、どちらかを選びなさいと言われました」

このように、周囲から退職を促されたという内容は、他にも見られました。
「不妊治療がどのように行なわれていて、どれくらいの頻度で通院が必要か」などについて、職場での正しい情報が周知されていないことから、不妊治療と仕事の両立が、さらに困難になっていることが考えられます。

不妊退職〜両立のために働き方を変えざるを得ない

Q12. 両立が困難で働き方を変えたことがありますか?

Q13. 働き方をどのように変えた?

仕事と不妊治療の両立が困難になって働き方を変更した人は、40.8%という結果でした。

その人たちは、どのように働き方を変えたのでしょうか。
「退職をした」が50.1%と最も多く、半数以上の人が退職をしたことがわかります。
また、年齢別では、35~39歳が最も多く、次いで30〜34歳と続き、30代が多いことがわかりました。

「不妊治療のために働き方を変えざるを得なかった時の気持ち」の自由回答には、多くのコメントが寄せられました。
その内容は、「これ以上は両立できなかった、限界だった」「治療を優先するため、仕事を辞める選択をした」「社会・会社への要望、憤り、やるせなさ」という3要素に大別できました。

コメントの一部を紹介します。

「子どもが普通にできていれば、こんなことにはならなかったのに情けないと思った」
「何とか両立をしようと試みたものの、2年で精神的な限界を感じた」
「病院の時間が働いている時間内でしか開いていないので間に合わない」
「治療のために毎月何度も何度も職場の人に迷惑をかけるのが非常に申し訳なく感じた」
「悔しさと職場への申し訳なさ。いつも謝りながら仕事をしていた」

時間や精神的な負担、理解を得られず限界に

Q14、働き方を変えた理由は?

「仕事と不妊治療の両立が困難で、働き方を変えざるを得なかった」と答えた人の理由と割合は、このようになっています。

7割以上の人が「通院回数が多い」、6割以上の人が「時間がかかる」など、通院自体の負担を感じていました。また、「精神的に負担が大きい」「責任のある仕事ができない」などの精神的な負担を感じる人が多いこともわかります。

そして、職場で「不妊治療に対する協力やサポートを得づらい」「不妊治療に対する理解を得づらい」と感じ、両立の限界を感じて働き方を変えたことがうかがえます。

職場のサポート、理想と現実

Q20:あなたの職場にある不妊治療サポート制度は?(複数回答)(N=318人) Q25:職場にどんな不妊治療サポート制度が欲しい?(複数回答)(N=4,570人)

このグラフは、「職場に不妊治療サポート制度がある」と回答した5.8%の人が答えた実際に存在する制度と、「制度がない・わからない」と答えた人が必要としている制度の内容と割合です。(注:人数ではなく、パーセンテージで比較しています)

特に就業時間制度については、「ほしい」73.3%に対して、「ある」は25.5%とギャップが大きく、頻繁な通院に対応するための時短やフレックスなど、就業時間の柔軟性が求められているものの、整備は不十分であることがわかります。

他に、2つの間のギャップが大きいものとして、治療費の融資や補助は50.8%が求めているのに対して実施は19.5%、再雇用制度は28.2%に対して、現状で実施されているのは1.6%という結果でした。
また、不妊治療に対する情報提供や啓発活動は20.4%が求めているのに対して、実施はわずか1.3%にとどまっています。

職場での制度に関しては、仕事を続けられるための制度、または一時休職、もしくは退職しても再び働くことが可能な制度が求められていることがわかります。

職場に制度があっても使えない?! 

Q22.職場の不妊治療サポート制度を使わなかった(使おうと思わない理由は?

会社に制度があると答えた人(5.8%)の満足度は、「満足」「やや満足」を合わせると42.5%で、「不満」「やや不満」の合計31.8%を上回っていました。制度がある人は、その制度に対して満足しているケースが多いことがわかります。

しかし、会社に制度があっても使った(使おうと思う)は58.8%と6割弱にとどまり、41.2%は「使わない(使おうと思わない)」と答えていました。

使いたくない理由としては、「不妊治療をしていることを知られたくないから」(48.1%)、「制度が使いづらい」(26.7%)、「制度が周知されておらず、職場の理解を得るのが困難だから」(26.0%)などです。

せっかく制度があっても、それを活かしきれていない企業が4割もあること、また制度と実情がかけ離れている一面があると推測できます。

職場に望むサポート、まずは研修などの啓発から

不妊治療に対する企業のサポート制度について、多くの意見が寄せられました。

内容としては、「管理職やその他従業員の啓発活動(研修)」が圧倒的に多く、次いで「柔軟な有給制度」「休業(休職)や再雇用制度」「プライバシーに対する配慮」「フレックス制度」「時間単位の有給制度」などが見られました。

多くの人が両立に悩んでいる〜寄せられた苦悩のコメント

「職場で不妊治療をしていることを話しづらいか」との問いには、4,450人(81.3%)が「はい」と答え、8割以上が話しにくさを感じているという結果でした。

その理由は「不妊であることを伝えたくなかった」「不妊治療に対する理解がなく、話してもわかってもらえなさそう」「周囲に心配や迷惑をかけたくなかった」「妊娠しなかったとき、職場にいづらくなりそうと思った」「仕事が減らされたり、期待されなくなったりするのではないかと思った」などでした。

「その他」を選んだ人のフリーコメント(538人、12.1%)を分析したところ、「不妊治療に対する正しい理解や知識がないから」(41.6%)、「妊娠に対する正しい理解や知識がないから」(28.3%)、「精神的負担」(14.3%)という結果でした。

コメントの中には「治療の状況を聞かれたりすると、どう話していいのかわからない」「男性(上司)に話すのは抵抗を感じる」「40(歳)過ぎてもまだ不妊治療しているのかと思われるのが嫌だから」などのように、当事者が話すこと自体をためらっているケースも多くありました。
そして、「実際に話したところ、理解してもらえなかった」というコメントも多く見られました。

コメントを紹介します。

「治療のための休暇は取れるが、今の時期は治療しないで欲しいと上司に言われたことがあり、人事にも相談したが、休暇の変更権限は上司にあると言われた」
「まずは男性への理解、男性への勉強会的なサポートがあればいいなと思いました。デリカシーのない発言をする男性もいたので」
「ほとんどが女性の職場で、女性上司に理解が得られず、『病院通いは休みの日に行きなさい』と言われ、とても悲しかった」
「職場環境がストレスフルな状況だったため、治療のために休職したいと申し出たが、それなら辞めろと言われた」
「会社の上司が独身40代ですが、やはり相談してもピンとこず、治療は今やめてほしいと言われた」
「部長級の男性上司から、不妊治療するなら契約社員になったらどうかと言われた」

キャリアプランのための啓発と両立への支援

今回のアンケートは 5,526人というFineが実施したアンケートでは最多の回答者数でした。この回答数からも、調査結果の数値からも、不妊治療と仕事の両立が困難であることは明らかといえます。

不妊治療のために働き方を変えざるを得なかった人の多くは30代であり、仕事でも責任のあるポジションについて部下を抱えるなど、いわば働き盛りの年代です。
その多くの当事者が働きたいと思いながらも不妊治療のためにキャリアを足踏みしたり、諦めることは、非常に残念なことです。また、企業、ひいては日本社会にとっても大きな損失といえるのではないでしょうか。

少子化問題を抱える日本において、ライフキャリアプランは今後の課題といえます。
子どもを望む・望まないに関わらず、キャリアプランを立てるにあたり、妊娠・出産と年齢の関係について等の啓発を教育現場で行なうことが必要であり、今後の予防策としても重要といえるでしょう。

すでに社会で働いている不妊当事者が、不本意にキャリアを諦めることなく、仕事と治療を両立させられるかどうかは、社会や企業がもっと不妊治療に関する知識を持ち、理解を深められるようにすること、仕事のキャリアを諦めたくない人へ両立を可能にするためのサポート等を行なうことが重要なポイントだと考えます。

そして、「産む or 働く」ではなく、「産みたい&働きたい」を実現できる社会になるためにも、企業がそうした風土を醸成することが必要だと思います。

企業に望まれる解決策や支援

では、企業側において考えられる解決策には、どのようなものがあるでしょうか。以下の2点がポイントになると考えます。

まず、不妊治療に関する知識と理解を深めるための研修等の教育を実施することです。
不妊に限らず、知らないがゆえに、悪気はないのにハラスメントが生まれてしまうことがあります。
正しく知ることは誤解を防ぐためにも大切であり、そこからサポート対策も生まれることでしょう。

次に、不妊治療を企業としてサポートする態勢を整え、宣言することも有効と考えます。
人手不足が深刻化する日本で、従業員が長く働き続けられる企業が、これから存続できる企業であるともいわれます。仕事を続けたい人が続けられる仕組みやサポートが望まれています。

また、両立に関してのサポートは「不妊治療」に限ったことではなく、妊娠・出産、育児、介護、闘病など、仕事との両立ができる働き方を可能にする企業が、これからの社会に求められる企業像といえるのではないでしょうか。

理想の数だけ子どもを産み、育てられるように

仕事と不妊治療の両立という社会の一つの側面から、さまざまな課題が見えてきます。
将来、理想の数の子どもを産み、育てられる社会にするには、多方面からの働きかけが望まれます。

「結婚も妊娠・出産もまだまだ先のこと」という若い世代でも、もしかして、今後自分が望んだときに子どもが授からない、あるいは理想の数の子どもを産み、育てることがむずかしい状況になるかもしれません。
また、年代や男女にかかわらず、職場で同僚や部下などが不妊治療を受けるケースもあるでしょう。
不妊治療に限らず、その現状を正しく理解し、解決の道を探ることは、働きやすい職場環境づくりにつながっていくはずです。

(執筆者プロフィール)
高井紀子
NPO法人Fineスタッフ
北海道生まれ。自身の不妊体験から、「Fine」に立ち上げより参加。東京・渋谷のコミュニティFM「渋谷のラジオ」に毎月出演中。編集者・ライターとして、不妊や妊活に関する雑誌・書籍・ウェブサイト等を多数手がける。

〔参考情報〕

●当事者の声を伝えて、社会の動きへ

NPO法人Fineでは、不妊や不妊治療の啓発や環境向上のために、さまざまな活動を行なっています。
そのひとつ、「妊活プロジェクト〜みらいAction〜」は、Fine設立以来13年におよぶ蓄積を生かし、妊娠・不妊に関する知識普及やキャリアプランニングサポートを目的に、幅広い世代へのコンテンツを提供するもの。企業や自治体等とのコラボレーションにも積極的に取り組み、仕事と治療の両立支援の一助になるような活動を目指しています。
活動について詳しくは、NPO法人Fineのウェブサイトをご参照ください。

■NPO法人Fine〜現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会〜
不妊当事者による不妊当事者のための自助団体(セルフ・サポートグループ)。2004年設立、2005年にNPO法人格を取得。不妊治療患者の支援、不妊(治療)の啓発活動、患者と医療機関や公的機関の橋渡し、患者の意識と知識向上、治療環境の向上などを果たすため、さまざまな活動を行なう。平成28年度東京都女性活躍推進大賞・優秀賞受賞。
http://j-fine.jp

平成28年度東京都女性活躍推進大賞・優秀賞受賞
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2016/12/16/10_01.html

〔資料〕
*1: 国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」。
*2:『日産婦誌』69巻9号、日本産科婦人科学会「ARTデータ」、厚生労働省「人口動態統計」をもとに計算。
*3:NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」(調査期間:2017年3月30日〜8月31日)。
*4:NPO法人Fine「仕事と治療の両立についてのアンケート」。(調査方法:2014年5月15日〜2015年1月5日)。